TRONの創設者ジャスティン・サンは2026年4月12日、トランプ一家が支援するDeFiプロジェクトWorld Liberty Financial(WLFI)が、WLFIトークンのスマートコントラクトにバックドアのブラックリスト機能を密かに組み込んでいたと告発した。
この機能は、通知・理由・救済手段なしにトークン保有者の資産を凍結・制限・没収できる権限をWLFIに与えるものだ。サンは現在約5億4,500万WLFIトークン(約4,300万ドル相当)を保有しており、2025年9月にはWLFIによってアドレスが凍結され、約5億4,000万トークンがロックされた経緯がある。WLFIはDeFi貸借プロトコルDolomite上での貸借操作にも大量のWLFIを使用していたことが報告されており、WLFIの価格は4月11日に過去最安値の0.077ドルを記録した。記事執筆時点での取引価格は0.079ドルで、最高値0.3ドルから約76%下落している。
From:
Justin Sun accuses Trump-backed World Liberty of hidden backdoor control|Crypto Briefing
【編集部解説】
今回の騒動は、単なる投資家と運営側の口論ではありません。DeFi(分散型金融)の根幹に関わる問題が、政治的に最も注目されているクリプトプロジェクトの一つで露わになった出来事です。
まず、この騒動の震源を整理しましょう。ジャスティン・サンがWLFIに投じた金額は約7,500万ドル。彼のウォレットが凍結された2025年9月の時点で、ロックされたトークンは約1億700万ドルの価値がありました。現在はWLFIの価格下落により約4,300万ドルにまで目減りしており、凍結されたまま複数の報道によれば6,000万〜8,000万ドル以上の価値が失われた計算になります。
「バックドアのブラックリスト機能」とは何か、技術的に説明します。スマートコントラクトとは、ブロックチェーン上で自動的に実行されるプログラムです。本来、DeFiの理念は「コードが法律」であり、運営者であっても恣意的に介入できないことが大前提とされています。ところが今回問題となった機能は、運営側が任意のウォレットアドレスをブラックリストに登録し、そのアドレスに対してトークンの移動・使用を一切できなくするものです。これは技術的には多くのステーブルコイン(TetherのUSDTなど)にも存在する機能ですが、「DeFiの旗手」を標榜するプロジェクトがその存在を投資家に開示していなかった点が、今回の核心的な問題です。
元記事では「数億のWLFIが担保として提供された」と記述されていますが、複数の報道によれば実際には約50億WLFIトークン(名目価値で約4億4,000万〜4億6,000万ドル相当)がDolomiteに担保として預けられています。これはDolomite全体のTVL(Total Value Locked:預かり資産総額)約8億3,570万ドルの55%超に相当する異常な集中度です。さらにDolomiteの共同創設者コーリー・カプランはWLFIのアドバイザー(一部報道ではCTO)も務めており、利益相反の疑念が払拭できません。
この構造を見て多くのアナリストが想起したのが、2022年のFTX崩壊です。FTXが自社発行トークンFTTを担保に借り入れを行い、それが崩壊連鎖を起こしたメカニズムと酷似しています。WLFIが自社のガバナンストークンを担保に、自社のステーブルコインUSD1を同じく関係者が運営するDolomiteから借り出すという「自己参照型ループ」は、外部の独立した価値評価が一切介在しない構造です。WLFI価格が下落すれば担保価値も同時に崩落し、DolomiteのUSD1プールの利用率は93%に達しており、一般のデポジターは資金を引き出せない状態に追い込まれています。
規制への影響という観点では、このケースは今後の議論を加速させる可能性があります。「DeFi」と謳いながら運営側が一方的に資産を凍結できる仕組みを持つプロジェクトに対し、規制当局が「これは事実上の中央集権型金融ではないか」と判断すれば、証券法や消費者保護法の適用対象となり得ます。トランプ政権がクリプトフレンドリーな姿勢を取る中でのこの騒動は、その政策の信頼性にも影を落としかねません。
一方で、オンチェーンデータがリアルタイムですべての取引履歴を公開しているという事実は、ブロックチェーン技術の透明性が機能している証でもあります。問題を隠蔽できないという性質が、今回も早期の告発と検証を可能にしました。技術そのものは中立であり、それをどう使うかが問われています。
今回の騒動が示す本質的な教訓は、「分散型」という言葉の定義です。トークンのスマートコントラクトを読み、管理者権限の有無を確認することは、今後のDeFi投資における必須スキルになりつつあります。
【用語解説】
スマートコントラクト
ブロックチェーン上に記録・自動実行されるプログラムのこと。通常は一度デプロイされると改ざんが困難で、条件を満たせば誰の介入もなく自動的に処理が実行される。DeFiの根幹を支える技術だが、設計次第で運営側に特権的な管理機能を持たせることも可能。
DeFi(分散型金融)
「Decentralized Finance」の略。銀行などの中央管理者を介さず、スマートコントラクトを通じて貸し借りや取引を行う金融システム。透明性と自律性が理念だが、コントラクトの設計に管理者権限が残っている場合、その理念と実態が乖離する。
ブラックリスト機能
スマートコントラクトに組み込まれた管理機能の一つ。特定のウォレットアドレスを登録することで、そのアドレスからのトークン移動や使用を一切禁止できる。運営側が通知や理由なしに行使できる場合、実質的な資産没収と同義となる。
ガバナンストークン
プロジェクトの意思決定(ガバナンス投票)に参加する権利を付与するトークン。本来は保有者がプロジェクトの方向性を決める民主的な仕組みだが、投票結果があらかじめ決定されていたり、情報が制限されていたりする場合、形骸化するリスクがある。
TVL(Total Value Locked)
DeFiプロトコルにロックされている(預けられている)資産の総額。プロトコルの規模や信頼度の指標として広く使われる。WLFIの担保がDolomiteのTVLの55%超を占めることは、極めて高い集中リスクを意味する。
自己参照型ループ(Self-referential Loop)
自社発行のトークンを担保に、同じく自社発行のステーブルコインを、自社関係者が運営するプロトコルから借り出す構造のこと。外部の独立した価値評価が一切介在しないため、トークン価格が下落すると担保価値も連動して崩落する。2022年のFTX崩壊と類似するリスク構造として指摘されている。
利用率(Utilization Rate)
DeFi貸借プロトコルにおいて、供給された資産のうち借り出されている割合。93%という数値は、プールに預けたユーザーが自由に資金を引き出せない状態を意味する。
【参考リンク】
World Liberty Financial(外部)
トランプ一家が共同創設したDeFiプロジェクトの公式サイト。WLFIトークンとUSD1ステーブルコインを発行し、貸借サービスWLFI Marketsを展開している。
TRON(外部)
ジャスティン・サンが創設したブロックチェーンプラットフォームの公式サイト。高速・低コストの取引処理が特徴で、USD1もTRONネットワーク上で展開されている。
Dolomite(外部)
WLFIが担保提供・借入に使用したDeFi貸借プロトコルの公式サイト。共同創設者コーリー・カプランはWLFIのアドバイザーも務めており、利益相反が指摘されている。
Arkham Intelligence(外部)
ブロックチェーン上のウォレットと実体を紐づけるオンチェーン分析プラットフォーム。サンの保有トークン数量の根拠として今回の報道でも引用されている。
CoinGecko(外部)
仮想通貨の価格・時価総額などをリアルタイムで提供する独立系データサイト。WLFIの最安値・最高値など価格データの出典として元記事でも引用されている。
【参考記事】
Trump’s World Liberty Financial uses five billion WLFI to borrow $75 million from a platform its adviser co-founded|CoinDesk(外部)
WLFIがDolomiteに50億WLFIトークンを担保として預け、7,500万ドルを借り出した経緯をオンチェーンデータで詳述。USD1プール利用率93%のリスク構造を報じた数字の根拠となる最重要記事。
「See you in court」: WLFI threatens Justin Sun after he alleges hidden blacklist backdoor|The Block(外部)
サンの告発とWLFI側の法的措置を示唆する反応を詳細に記録。凍結後に8,000万ドル超の損失が生じたことを報じた、損失額の主要な出典記事。
WLFI Defends Dolomite Loans Amid Liquidation Fears|CryptoTimes(外部)
自己参照型ループの構造とDolomite供給資産50%超のリスクを解説。WLFIのアニュアライズド収益1億5,950万ドルなど財務指標も詳述した数字の重要な参照元。
Justin Sun and World Liberty Financial Trade Blows in Escalating Public Feud|The Defiant(外部)
両者の公開論争を時系列で整理。2025年9月のブラックリスト登録から「See you in court」発言まで、対立の全容を網羅した記事。
Trump-backed World Liberty Financial crypto tokens reach all-time low on reports of insider loans|Fortune(外部)
BubblemapsのCEOコメントとともにDolomiteの集中リスクを解説。WLFI供給量の約5%が担保に入っているという数値を提示した記事。
Justin Sun Accuses World Liberty Financial of Hidden Token Freeze Backdoor Amid $175M Dispute|Blockonomi(外部)
サンのWLFI・TRUMPへの投資総額が約 1億7,500万ドルに上ることを報告。Dolomiteでの借入拡大の経緯をオンチェーンデータで追跡した記事。
Justin Sun’s Locked WLFI Tokens Lose $60 Million in Value: Bubblemaps|Unchained(外部)
2025年12月時点での凍結トークン損失を「約6,000万ドル」と報じた記事。The Blockの「8,000万ドル超」との差異を理解する上での重要な参照元。
【編集部後記】
「分散型」「非中央集権」という言葉を信じて投資した先に、運営側だけが持つ凍結ボタンがあったとしたら——。私たちも、この事案を追いながら、改めてその問いと向き合いました。
スマートコントラクトのコードを読む習慣は、これからの時代に必要なリテラシーになるのかもしれません。みなさんはどう思いますか?

