NTTドコモビジネス株式会社は、沖縄県那覇市と2025年3月3日に締結した「特化型生成AIの共同実証による未来協創連携に関する協定」に基づき、コミュニケーションAIを活用した行政窓口案内サービスの実証実験を2026年4月20日より開始する。
実施場所は那覇市役所1階で、実施期間は2026年5月21日まで。本実証は沖縄県内初の取り組みである。活用するシステムは、人に近い外見と対話インターフェースを備えたデジタルヒューマン「Digital Catalyst CONN(コン)」で、来庁者からの行政手続きに関する問い合わせに対し、生成AIが適切な窓口を案内する。
NTTドコモビジネスが技術・システムの提供および運用とデータ取得を担い、那覇市が場所の提供と運用支援を担当する。
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沖縄県内初!コミュニケーションAIを活用した行政窓口案内に関する実証実験を開始|NTTドコモビジネス
【編集部解説】
今回の実証実験で中心的な役割を担う「Digital Catalyst CONN(コン)」は、単なるチャットボットではありません。東映ツークン研究所のデジタルヒューマン生成技術と、NTT人間情報研究所が持つモーション生成AI・音声合成AI技術を組み合わせた存在で、実在する9名のカタリストの顔をスキャン・合成して生み出した3DCGキャラクターです。音声で問いかけると音声で応答するという、スマートフォン操作を必要としない対話型インターフェースが特徴です。
この点は、行政DXの文脈において見逃せない意味を持ちます。これまでの行政デジタル化はオンライン申請やキオスク端末の導入が主流で、どちらもある程度のデジタルリテラシーを前提としてきました。一方、CONNは「話しかける」という人間の自然な行動を入口にするため、デジタルに不慣れな高齢者にとってもアクセスしやすい可能性があります。
総務省の調査によると、2026年時点で生成AIを導入しているのは都道府県で87%、指定都市で90%とされています。しかしその大半は職員向けの業務支援や文書作成の効率化であり、来庁者と直接対話するフロント業務への適用は、まだ全国的にも珍しいと言えるでしょう。那覇市は「デジタルで変わり続けるまち・那覇」を基本理念に掲げ、「誰ひとり取り残さない優しい市役所」を目指してDXを推進してきました。今回の取り組みは、その方針と合致した実践的な一手といえます。
ポジティブな面として、職員の負担軽減と案内品質の均一化が期待されます。問い合わせ対応は窓口職員の業務の中でも労力のかかる部分であり、AIが初期案内を担うことで、職員はより専門性の高い相談や判断が求められる業務に集中できるようになります。将来的には多言語対応なども視野に入り、訪日外国人が多い沖縄という地域特性にもフィットする可能性があります。
一方で、潜在的なリスクも指摘しておく必要があります。コミュニケーションAIが参照するのは「あらかじめ登録された応対マニュアルなどの参照情報」であると明記されており、想定外の複雑な相談には対応できません。AIが誤った窓口に案内した場合、来庁者の時間的・心理的コストは増大し、行政への信頼損失につながるリスクもあります。また、来庁者の問い合わせ内容がどのように収集・管理されるかについては、プライバシー保護の観点から今後の議論が必要となるでしょう。
「不気味の谷」と呼ばれる問題も無視できません。人間に近いが完全ではないビジュアルや動作は、人によっては強い違和感や拒否感を引き起こす場合があります。今回の実証でその受容性がどう評価されるかが、本格展開の鍵を握るでしょう。
約1カ月という実施期間は短く、これはあくまで「仮説を検証する場」です。ただ、NTTドコモビジネスが得た知見が全国の自治体に展開されれば、行政窓口の姿そのものが大きく変わる可能性があります。「デジタルヒューマンが最初に出迎える市役所」が、近い将来の標準的な光景になるかもしれません。
【用語解説】
コミュニケーションAI
来訪者や顧客からの問い合わせを音声で受け付け、あらかじめ登録された応対マニュアルや参照情報をもとに、音声で回答を返すシステムである。
不気味の谷(Uncanny Valley)
ロボットやCGキャラクターが人間に似てくると、ある段階で「なんとなく気持ち悪い」という違和感が生まれ、人間の好感度が急落する現象のこと。ロボット工学者の森政弘が1970年に提唱した概念である。
デジタルデバイド
インターネットやデジタル機器を使いこなせる人とそうでない人との間に生じる情報格差のことである。高齢者層を中心に社会問題化しており、行政のデジタル化においても「デジタルに不慣れな市民をどう支援するか」という観点で常に論点となる。
【参考リンク】
NTTドコモビジネス株式会社(外部)
2025年7月に社名変更。企業・自治体向けICT・DXソリューションを提供する法人向け事業会社。今回の実証実験の技術・システムを提供する主体だ。
那覇市公式ホームページ(外部)
沖縄県の県庁所在地・那覇市の公式サイト。「誰ひとり取り残さない優しい市役所」を掲げDXを推進。今回の実証実験の場を提供している。
OPEN HUB for Smart World(外部)
NTTドコモビジネスが運営する事業共創エコシステム。CONNが2023年から接客・コミュニケーションの実証を重ねてきた場だ。
書かないワンストップ窓口|デジタル庁(外部)
デジタル庁が推進する行政窓口DX施策。来庁者の記入負担をなくし、デジタル技術で手続きをスムーズにする取り組みだ。
【参考記事】
【2026最新】自治体・官公庁における生成AIの活用事例10選(外部)
総務省調査をもとに自治体AI導入状況を整理。都道府県87%・指定都市90%の導入済みデータを確認するために参照した。
自治体AI導入完全ガイド2026(Asana)(外部)
総務省の2025年6月30日発表データを引用。指定都市90%・都道府県87.2%の数値を裏付けるために参照した。
異業種の技術融合から生まれたデジタルヒューマン「CONN」(OPEN HUB)(外部)
CONNの開発4者インタビュー記事。9名の顔スキャン・合成によるビジュアル生成の詳細を確認するために参照した。
【編集部後記】
市役所の窓口に、AIが立っている。そんな光景が現実になろうとしています。「便利になるのか」「味気なくなるのか」——みなさんはどう感じましたか? 技術は中立です。それをどう使い、何を残すかを決めるのは、私たち自身です。この実証が、あなたにとって行政とテクノロジーの関係を考えるきっかけになれば幸いです。

