Visa、ステーブルコイン決済をPolygon・Base等9チェーンに拡大 ── 年換算70億ドル規模に到達

Visa、ステーブルコイン決済をPolygon・Base等9チェーンに拡大 ── 年換算70億ドル規模に到達

Visaは、2023年に開始したステーブルコイン決済パイロットプログラムを拡大し、Polygon、Base、Canton Network、Arc、Tempoの5つのブロックチェーンネットワークを新たにサポート対象に加えた。

これらは既存のEthereum、Solana、Stellar、Avalancheに加わる形となる。同プログラムの年換算決済ランレートは約70億ドルに達し、四半期ベースで約50%成長した。Visaは3月に、Stripeの子会社であるBridgeとのパートナーシップを拡大している。競合のMastercardは、MetaMaskなどのウォレットとの統合により、米国でステーブルコイン連動のカード利用を可能にしている。決済ソフトウェアプロバイダーのModern Treasuryも水曜日にPolygonとの統合を発表し、同社は10月にBeamを買収している。米国ではGENIUS法が成立した。DeFiLlamaのデータによれば、流通するステーブルコインの総額は3200億ドルを超え、2024年初頭から約150%増加している。

From: Visa adds Polygon, Base support as stablecoin settlement run rate hits $7B

【編集部解説】

Visaが今回発表したのは、ステーブルコイン決済パイロットを2023年から段階的に拡大してきた取り組みの「第二章」とも言える節目です。注目すべきは、サポートチェーンの拡大そのものよりも、年換算70億ドル規模に到達したという「実需の数字」が示されたことにあります。

ここで重要な前提を整理しておきましょう。Visaの本業の決算規模は四半期ベースで純収益110億ドル超に達する巨大事業であり、70億ドルという年換算ランレートは、依然として全体のごく一部にすぎません。ただし、四半期で50%の成長率は、テクノロジー導入のS字カーブ初期に見られる典型的なパターンであり、「実験フェーズから運用フェーズへの移行点」に差しかかっている可能性を示唆しています。

新たに追加された5つのチェーンは、それぞれ異なる役割を担っています。Coinbaseが手がけるBaseは低コストな日常決済、Circleが開発したArcはUSDCを軸としたプログラマブル決済、Canton Networkは規制対応が必要な機関投資家向け、PolygonはUSDC送金で大きなシェアを持つグローバル決済基盤、そしてStripeとParadigmが手がけるTempoは流動性移転に特化しています。Visaが「マルチチェーン世界」を前提に共通決済レイヤーを提供する戦略は、特定のブロックチェーンに賭けるのではなく、すべてを束ねる「上位レイヤー」のポジションを取る狙いと読み取れます。

直近の集計ではPolygonがUSD系ステーブルコイン送金の約35%を扱っているという報告もあり、Visaが採用ネットワークに加えた背景には、すでに実績のある送金インフラを取り込む狙いも透けて見えます。

この構図は、インターネット黎明期のVisa自身の歴史を想起させます。複数の通信規格や銀行ネットワークを共通プロトコルで束ね、信頼性のあるグローバル決済網を構築した経験を、今度はブロックチェーン領域で再現しようとしているのです。

ポジティブな側面として最も大きいのは、クロスボーダー決済の構造変化です。従来の銀行間決済はSWIFTを介して数日かかることも珍しくなく、中継銀行ごとに手数料が発生していました。ステーブルコイン決済では24時間365日、ほぼリアルタイムで国境を越えた資金移動が可能になります。Bessemer Venture Partnersの試算では従来型決済と比較して大幅なコスト削減効果が示されており、新興国への送金コスト低下は、グローバルサウス地域における金融包摂の観点からも意義深い変化と言えます。

一方、潜在的なリスクも見据える必要があります。ステーブルコインの信用は、その裏付け資産の健全性に依存します。発行体の破綻や裏付け資産の毀損が起きれば、決済ネットワーク全体に影響が及ぶ構造リスクは消えていません。また、Visaという中央集権的事業者が「共通レイヤー」を握ることは、ブロックチェーンが本来志向した非中央集権の理念と緊張関係にある側面も否定できません

規制面では、米国で2025年に成立したGENIUS法が決済用ステーブルコインの基準を明確化しました。ただし、ステーブルコインがイールド(利回り)を提供できるかという議論は、市場構造法案のなかで停滞しています。日本でも改正資金決済法により電子決済手段としてのステーブルコイン発行が認められましたが、海外発行のステーブルコインの取り扱いを含め、運用ルールはなお発展途上です。

長期的視点で見ると、今回の動きは「決済インフラの世代交代」の初期局面と捉えることができます。AIエージェントが自律的に商取引を行う「エージェント駆動型コマース」の時代において、人間の銀行営業時間に縛られない24時間決済基盤は不可欠なインフラとなります。Baseの説明文に「agentic commerce(エージェント型商取引)」という言葉が登場している点は象徴的です。VisaがTempoでバリデータノードを運営し始めた事実も合わせて考えると、同社は「決済を仲介する企業」から「決済インフラそのものを共同運営する企業」へと役割を拡張しつつあります

日本の読者にとって、これは遠い海外の話ではありません。クロスボーダーEC、海外送金、インバウンド決済など、ステーブルコイン決済の波及領域は身近に存在しています。流通するステーブルコインの総額が3200億ドルを超え、2024年初頭から約150%増加したという事実は、この変化が一時的なブームではなく、構造的な移行であることを物語っています。

【用語解説】

ステーブルコイン (Stablecoin)
価格を法定通貨(主に米ドル)などに連動させて安定させるよう設計された暗号資産の総称である。USDCやUSDTが代表例で、価格変動リスクを抑えつつブロックチェーン上で送金や決済に利用される。

決済 (セトルメント / Settlement)
取引に伴う資金移動を最終確定させるプロセスを指す。クレジットカード決済では、消費者の支払いとは別に、加盟店と発行銀行の間で行われる「事業者間の資金清算」を意味することが多い。

ランレート (Run Rate)
直近の実績を年換算した予測値のこと。「年換算70億ドル」とは、足元のペースが1年間続いた場合の試算規模を示す。

バンキングレール (Banking Rails)
従来型の銀行間ネットワーク経由の送金経路を指す業界用語。SWIFTや中央銀行の決済システム(米国ではFedwire、日本では日銀ネット)などが含まれる。

マルチチェーン (Multi-chain)
特定のブロックチェーンに依存せず、複数のチェーンを横断的に活用するアプローチ。利用者やパートナーが用途に応じて最適なチェーンを選べる柔軟性を提供する。

バリデータノード (Validator Node)
ブロックチェーン上で取引の正当性を検証し、ブロックを生成する役割を担うサーバー。ネットワーク運営の中核を成す存在で、Visaは2026年4月にStripeおよびZodia Custodyとともに、Tempoネットワークでバリデータ運営を開始した。

イールド (Yield)
資産を保有することで得られる利回りや収益を指す。ステーブルコイン保有者に利息相当の収益を付与できるかは、米国で論争中の論点である。

GENIUS法 (Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)
米国で2025年7月18日にトランプ大統領が署名し成立した、決済用ステーブルコインの連邦規制枠組みを定める法律。発行体に対して1対1の準備資産保有や監査義務などを課している。

エージェント駆動型コマース (Agentic Commerce)
AIエージェントが人間の代理として商品の選定・購入・決済まで自律的に行う商取引の形態。24時間稼働可能なステーブルコイン決済との相性が指摘されている。

【参考リンク】

Visa(ヴィザ)(外部)
世界最大級の決済ネットワークを運営する米国企業。ステーブルコイン決済の試験導入を2023年から進めている。

Polygon Labs(外部)
低コストかつ高スループットなブロックチェーン基盤を提供。USDC送金で大きなシェアを持ち、グローバル決済の中核インフラとして機能している。

Base(外部)
Coinbaseが手がけるレイヤー2ブロックチェーン。低コスト決済とエージェント型商取引(agentic commerce)を主なターゲットとする。

Canton Network(外部)
Digital Assetが共同で立ち上げた、機関投資家向けの規制対応型ブロックチェーン。プライバシー設定が柔軟で規制金融分野での活用に重点を置く。

Tempo(外部)
StripeとParadigmが共同で構築したステーブルコイン特化型ブロックチェーン。流動性移転と効率的な決済処理を主目的とする。

Modern Treasury(外部)
サンフランシスコ拠点の決済ソフトウェアプロバイダー。2025年10月にBeamを買収しステーブルコイン決済領域に参入した。

Bridge(外部)
Stripe傘下のステーブルコイン決済プラットフォーム。Visaと提携してグローバルカードプログラムを支援している。

DeFiLlama Stablecoinsデータ(外部)
DeFi市場およびステーブルコインの流通額・チェーン別シェアなどを集計する統計サイト。

Bessemer Venture Partners Stablecoins Atlas(外部)
米VCによる、ステーブルコインの実態と決済領域での適用可能性を分析した調査資料。

【参考記事】

Visa Accelerates Stablecoin Momentum: Adding Five Blockchains for Settlement(外部)
Visa公式プレスリリース。9チェーン対応・年換算70億ドル・四半期50%成長を一次情報として報告。

Visa (V) expands stablecoin settlement network as volume hits $7 billion run rate(外部)
CoinDesk記事。共通決済レイヤー戦略と50カ国超のUSDC連携カードプログラムの意義を解説している。

Visa names Polygon in 5-blockchain expansion of $7B stablecoin settlement pilot(外部)
Cryptopolitan記事。Visaの第2四半期純収益112億ドルやPolygonの送金シェア約35%を提示している。

Visa Scales Stablecoin Rails to Nine Networks as Partners Cite Real-World Demand(外部)
Bitcoin.com News。50カ国超130以上のカードプログラムや各チェーンの役割分担を詳述している。

Visa stablecoin settlement hits $7 billion run rate as pilot expands to nine blockchains(外部)
The Block記事。B2B成長余地、欧州デジタルユーロ、CBDC相互運用性のアナリスト分析を掲載している。

The GENIUS Act of 2025: Stablecoin Legislation Adopted in the US(外部)
Latham & Watkins。GENIUS法の2025年7月18日成立と議決経過、証券・商品法との関係を法律家視点で整理。

Visa Adds Five Blockchains to Stablecoin Settlement Pilot as Run Rate Reaches $7 Billion(外部)
Yahoo Finance / Benzinga。Visa株価338.13ドルや米国銀行へのUSDC決済拡大などの実装規模を確認できる。

【編集部後記】

ステーブルコイン決済というと、これまでは「暗号資産の世界の話」として少し遠く感じられていたかもしれません。けれど、Visaという身近な決済ブランドがその基盤に組み込み始めた今、私たちの財布の中で起きている変化はもう実生活の延長線上にあると言えそうです。海外送金や越境ECで「もっと早く、安く送れたらいいのに」と感じた経験はありませんか。みなさんが日々の生活で次に「決済の進化」を実感するのは、どんな場面になりそうでしょうか。よかったらコメントなどで聞かせてください。

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