7月7日【今日は何の日?】「七夕:百武裕司の誕生日」─七夕のトリビアと稀代の彗星探査家について

7月7日【今日は何の日?】「七夕:百武裕司の誕生日」─七夕のトリビアと稀代の彗星探査家について

梅雨空の下の星祭り――なぜ七夕は7月7日なのか

あなたは子どもの頃、七夕の夜に空を見上げて「あれ?星が見えない」と思ったことはありませんか?そう、七夕は梅雨の真っただ中。雲に覆われた空を見上げながら、なぜこの時期が星祭りなのか疑問に思った人も多いでしょう。

実は、これには暦の大きな変更が関わっています。もともと七夕は旧暦の7月7日、つまり現在の8月頃に行われていました。旧暦の7月は梅雨も明け、夜空には満天の星が輝く季節。織姫星(ベガ)と彦星(アルタイル)が天の川を挟んで美しく輝く、まさに星祭りにふさわしい時期だったのです。

ところが明治6年(1873年)、日本は太陽暦(グレゴリオ暦)を採用しました。しかし、七夕の日付だけは新暦の7月7日にそのまま移してしまったため、本来の季節感とは1ヶ月もずれてしまったのです。つまり、私たちが梅雨空の下で七夕を祝うのは、歴史的な「事故」のようなものなんですね。

夜空の主役たち――ベガとアルタイルの素顔

さて、七夕の主役である織姫星と彦星について、もう少し詳しく見てみましょう。

ベガ(織姫星)は、太陽を除けば地球から見える星の中でも屈指の明るさを誇ります。0等星という明るさの階級で、実に太陽の約40倍もの明るさで輝いています。地球からの距離は約25光年。宇宙のスケールで考えれば、これは驚くほど近い隣人です。しかも、ベガには特別な歴史があります。約1万2000年前、地球の地軸の歳差運動により、ベガが北極星だった時代があるのです。そして約1万3700年後には、再びベガが北極星になります。まさに、人類の歴史を見守り続ける永遠の案内星なのです。

歳差運動と歳差運動の軌道上のベガと北極星のゆるい図解

一方、アルタイル(彦星)は「爆速スピナー」として天文学者の間で有名です。この星の自転速度は秒速286キロメートル。あまりに高速で回転しているため、遠心力で星自体が扁平に変形し、赤道部分が膨らんだ形になっています。もしこれ以上速く回転したら、星がバラバラになってしまうかもしれません。距離は地球から約17光年で、ベガよりも近くにあります。

アルタイルの扁平型の極端な図解

天の川の正体――私たちが住む銀河の腕

夜空に白い帯状に見える天の川。実はこれ、私たちが住む天の川銀河を内側から見た姿なのです。想像してみてください。あなたが巨大な円盤の中にいて、その円盤の縁を見ているところを。それが天の川の正体です。

天の川銀河は直径約10万光年の渦巻き銀河で、中心から伸びる複数の腕(スパイラルアーム)があります。私たちの太陽系は「オリオン腕」という比較的小さな腕に位置しています。では、なぜ複数ある腕の中で、一つの天の川しか見えないのでしょうか?

答えは私たちの位置にあります。太陽系は銀河の中心から約2万6000光年離れた場所にあり、銀河円盤の中にいます。そのため、円盤に沿って見える方向(天の川として見える方向)には無数の星が重なって見えますが、円盤に垂直な方向には比較的少数の星しか見えません。つまり、私たちは銀河の「断面」を見ているのです。他の腕も存在しますが、それらは天の川として見える星々の中に溶け込んでしまっているのです。

天の川の緩い図解

百武裕司――現代の彗星ハンター

さて、7月7日は七夕だけでなく、日本が誇る天体観測者、百武裕司さんの誕生日でもあります(1950年生まれ)。

百武さんは鹿児島県出身のアマチュア天文家で、彗星発見の世界的権威として知られています。1995年に発見した「百武彗星(C/1995 O1)」は、翌1996年に地球に大接近し、全世界の人々を魅了しました。この彗星は肉眼でも美しく見え、尾の長さは最大で100度にも及んだのです。夜空の半分を横切るほどの壮大な光景でした。

百武さんの功績は彗星発見だけにとどまりません。彼の名前は小惑星7291番(百武)にも刻まれています。また、国際天文学連合からは、アマチュア天文家への貢献を称えて様々な賞を受賞しています。

彼の観測スタイルは実に地道なものでした。毎夜、双眼鏡で空を丹念にスキャンし、「昨夜と違うものはないか」を探し続ける。その忍耐力と情熱が、宇宙からの新たな訪問者を次々と発見することにつながったのです。

なぜ人は空に魅せられるのか――遥かなる核融合への憧憬

皆既日食ではありませんが、筆者も子どものころ日食を見た記憶があります。

ここで一つ、不思議なことを考えてみませんか。なぜ私たち人間は、これほどまでに空に魅せられるのでしょうか?

天体観測や宇宙に興味を持つ人の中には、「日食病」という言葉があります。一度日食を見た人は、次の日食を求めて世界中を旅するようになってしまう、という現象です。わずか数分間、時には数秒間の現象のために、何万円、何十万円もかけて地球の裏側まで足を運ぶ。傍から見れば、確かに「病気」のようにも見えるかもしれません。

でも、これって不思議だと思いませんか?私たちの日常生活には何の関係もない、何十万キロメートル、何光年も離れた場所で起きている核融合反応。そこから発せられる光に、なぜこれほど心を奪われるのでしょうか?

私が思うに、それは私たち人間が本能的に「自分を超えたもの」に憧れを抱く生き物だからではないでしょうか。星の光は、私たちの想像を絶する時間とエネルギーの産物です。例えば、今夜見上げるベガの光は25年前に放たれたもの。アルタイルの光は17年前のもの。私たちは文字通り、過去からの手紙を読んでいるのです。

そして、その光の源である恒星では、水素がヘリウムに変わる核融合反応が、何億年、何十億年という途方もない時間続いています。太陽の中心部では、毎秒6億トンの水素が5億9600万トンのヘリウムに変わり、その差の400万トンがエネルギーとして放出されています。これは広島型原爆の100億個分に相当するエネルギーが、毎秒放出されているということです。

こんな壮大なスケールの現象を前にして、私たちは自分の小ささを知ると同時に、宇宙とつながっている実感を得るのではないでしょうか。私たちの体を構成する炭素も酸素も、すべて恒星の核融合で作られた元素です。文字通り、私たちは「星の子」なのです。

七夕の夜に思うこと

百武さんのような彗星ハンターたちも、きっと同じような思いで空を見上げていたのでしょう。新しい彗星を発見するということは、太陽系の遥か彼方から数万年、数十万年ぶりに帰ってきた古い友人と再会するようなものです。

今年の七夕も、きっと梅雨空で星は見えないかもしれません。でも、雲の向こうには確実に、ベガもアルタイルも天の川も輝いています。そして、どこかで新しい彗星ハンターが、次の宇宙からの使者を待ち続けているのです。

織姫と彦星が年に一度だけ会えるという七夕の物語。それは、私たち人間と宇宙との関係そのものなのかもしれません。普段は遠く離れているけれど、ふとした瞬間に心がつながる。そんな特別な関係が、私たちと星空の間にはあるのです。

今夜、もし少しでも雲が切れたら、空を見上げてみてください。きっと、何万年も前から変わらず輝き続ける星の光が、あなたに何かを語りかけてくれるはずです。

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