fNIRS技術で人間の頭部を完全透過する光の検出に世界初成功|グラスゴー大学

fNIRS技術で人間の頭部を完全透過する光の検出に世界初成功|グラスゴー大学

スコットランドのグラスゴー大学の研究チームが2025年6月、機能的近赤外分光法(fNIRS)を用いて人間の頭部を完全に透過する光の検出に世界で初めて成功した。この研究結果は学術誌「Neurophotonics」に掲載された。

従来のfNIRSは脳の表面から約4センチメートル、最大40ミリメートルの深度までしか到達できなかった。研究チームは近赤外レーザーの強度を安全範囲内で増強し、高感度検出器を用いた包括的な収集システムを構築した。

実験では8人の被験者のうち1人、色白で無毛の男性でのみ成功した。頭部の片側から反対側へ到達した光子は極めて微量で、データ収集に約30分を要した。

コンピューターシミュレーションにより、光子は脳脊髄液などの透明度の高い部分を通る特定の経路をたどることが判明した。この技術により、記憶、感情、運動制御を司る脳深部領域へのアクセスが可能になり、脳卒中、脳腫瘍、外傷性脳損傷の診断への応用が期待される。

From: 文献リンクScientists Beamed Light Right Through a Man’s Head For The First Time

【編集部解説】

この研究が画期的である理由は、従来の脳画像診断技術の根本的な制約を突破した点にあります。機能的近赤外分光法(fNIRS)は、これまで脳表面から約4センチメートルの浅い領域しか観察できませんでした。しかし、グラスゴー大学の研究チームは、安全な範囲内でレーザー強度を高め、超高感度検出器を組み合わせることで、人間の頭部を完全に透過する光子の検出に成功したのです。

技術的な難易度と意義

頭部を透過した光子の量は極めて微量で、これは砂浜で特定の砂粒を見つけるような困難さに例えられます。それでも検出できたという事実は、光学技術の精密さと可能性を示しています。コンピューターシミュレーションによる予測と実測値が一致したことで、この技術の科学的信頼性も確立されました。

医療現場への影響

現在、脳深部の詳細な画像診断にはMRIやCTスキャンが必要ですが、これらは高額で大型の設備が必要です。今回の技術が実用化されれば、ポータブルで低コストな脳画像診断装置の開発が可能になります。特に医療インフラが限られた地域や在宅医療での活用が期待されます。

応用可能性と限界

脳卒中の早期発見、脳腫瘍のモニタリング、外傷性脳損傷の評価など、緊急性を要する診断への応用が考えられます。ただし、現段階では30分という長時間の測定が必要で、被験者の条件も限定的という課題があります。

将来への展望

この技術は記憶、感情、運動制御を司る脳深部領域へのアクセスを可能にし、神経科学研究に新たな地平を開く可能性があります。また、脳とコンピューターのインターフェース技術の発展にも寄与する可能性があります。

潜在的なリスクと課題

光の透過経路が脳脊髄液などの特定の部位に集中することが判明しており、これは診断精度の向上につながる一方で、個人差による診断結果のばらつきという課題も浮上します。また、レーザー強度の安全基準や長期使用時の影響についても、さらなる検証が必要でしょう。

【用語解説】

機能的近赤外分光法(fNIRS)
近赤外光を用いて脳の血流変化を測定し、脳活動を推定する非侵襲的な脳画像診断技術である。従来は脳表面から約4センチメートルまでしか到達できなかった。

近赤外レーザー
波長が700-1000ナノメートル程度の赤外線レーザーで、生体組織の透過性が高い特性を持つ。fNIRSでは主に血中のヘモグロビンの酸素化状態を測定するために使用される。

光子(フォトン)
光の最小単位である粒子。今回の実験では頭部を透過した光子は10の18乗分の1という極めて微量であった。

Neurophotonics
SPIE(国際光工学会)が発行する神経光学分野の査読付き学術誌である。神経科学における光学技術を掲載している。

【参考リンク】

グラスゴー大学(外部)
スコットランドの国立大学で1451年創立。140カ国以上から学生・研究者が集まる国際的な研究機関

SPIE(国際光工学会)(外部)
光学・フォトニクス分野の国際学会で、Neurophotonics誌の発行元。世界最大の光学技術コミュニティを形成

【参考動画】

【参考記事】

Light travels through entire human head in breakthrough for optical brain imaging(外部)
fNIRS技術の限界を突破した今回の研究成果と、将来の医療応用への可能性について解説

Rethinking brain imaging with light that travels through the head(外部)
従来のfNIRS技術の制約と今回の技術革新の意義、将来の実用化に向けた課題について詳しく分析

Light-Based Brain Imaging: A New Approach(外部)
グラスゴー大学の研究成果を技術的観点から解説し、実験セットアップの詳細と今後の展望について報告

【編集部後記】

今回の研究は、私たちの脳を理解する新たな扉を開く可能性を秘めています。現在、脳の深部を詳しく調べるには大型で高額なMRI装置が必要ですが、この技術が実用化されれば、より身近で手軽な脳診断が実現するかもしれません。みなさんは、もし自宅や近所のクリニックで気軽に脳の健康状態をチェックできるとしたら、どのような活用方法を考えますか?また、脳とコンピューターの接続技術が発達する中で、こうした非侵襲的な技術の進歩は私たちの生活にどのような変化をもたらすと思われるでしょうか?テクノロジーの最前線にいる読者のみなさんと一緒に、この技術が切り開く未来について考えていければと思います。

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