AnthropicがAI著作権訴訟で部分勝訴 – フェアユース認定も700万冊海賊版で賠償責任

AnthropicがAI著作権訴訟で部分勝訴 - フェアユース認定も700万冊海賊版で賠償責任

米国サンフランシスコの連邦地方裁判所のWilliam Alsup判事は2025年6月24日頃、AI企業Anthropicが著者の許可なく書籍を使用してClaude大規模言語モデルを訓練したことについて、著作権法上の「フェアユース」に該当し違法ではないとの判決を下した。

対象となったのはAndrea Bartz、Charles Graeber、Kirk Wallace Johnsonの3名の作家による書籍である。米国著作権法では故意の著作権侵害に対し、1作品あたり最大15万ドルの法定損害賠償が科される可能性がある。この判決は生成AIの文脈でフェアユースを扱った米国初の重要な司法判断となる。

一方で同判事は、Anthropicが700万冊以上の海賊版書籍を「中央ライブラリ」に保存・複製したことは著作権侵害に該当し、フェアユースではないと判断した。この侵害に対する損害賠償額を決定するため、2025年12月に裁判が予定されている。Amazon(40億ドル投資)とAlphabet(3億ドル投資)が支援するAnthropicに対する集団訴訟は、OpenAI、Microsoft、Meta Platformsなど他のAI企業に対する類似訴訟の一つである。

From: 文献リンクAnthropic did not breach copyright when training AI on books without permission, court rules

【編集部解説】

今回のAnthropicに対する判決は、生成AI業界にとって極めて重要な分水嶺となる可能性があります。William Alsup判事による今回の判断は、AI訓練における著作権の扱いについて初めて明確な法的基準を示したものです。

判決の核心は「変革性」という概念にあります。判事は、AIが書籍から学習する過程を「作家志望の読者」に例え、元の作品を複製するのではなく「全く異なるものを創造する」行為だと位置づけました。この解釈により、適切に取得された著作物を用いたAI訓練は、米国著作権法における「フェアユース」の範囲内とされたのです。

しかし、この判決には重要な但し書きがあります。Anthropicが700万冊もの海賊版書籍を「中央ライブラリ」として保管していた行為については、明確に著作権侵害と認定されました。これは、AI企業が訓練データの取得方法について厳格な倫理基準を求められることを意味します。

この判決が業界に与える影響は計り知れません。OpenAI、Microsoft、Meta Platformsなど他の大手AI企業も同様の訴訟を抱えており、今回の判例は今後の裁判に大きな影響を与えるでしょう。特に注目すべきは、合法的に取得された著作物であれば、著者の許可なくAI訓練に使用できるという前例が示されたことです。

一方で、潜在的なリスクも存在します。12月に予定されている損害賠償額決定の裁判では、実際の対象作品数に応じてAnthropicが数十億ドル規模の賠償金を科される可能性があると米WIRED誌は報じています。これは1作品あたり最大15万ドルという法定損害賠償の上限を考慮した現実的な推定値です。

長期的な視点では、この判決はAI開発の加速と著作者の権利保護のバランスを模索する重要な一歩となります。ただし、英国など他国では異なる法的枠組みが適用される可能性があり、グローバルなAI企業にとっては地域ごとの対応が求められることになるでしょう。

【用語解説】

フェアユース(Fair Use)
米国著作権法における重要な概念で、特定の条件下で著作権者の許可なく著作物を使用できる法的原則である。「使用の目的と性格」「著作物の性質」「使用された部分の量と実質性」「著作物の潜在的市場への影響」の4要素で判断される。

大規模言語モデル(LLM)
膨大なテキストデータで訓練された人工知能システムで、人間のような自然な文章生成や対話が可能な技術である。ChatGPTやClaudeなどが代表例。

変革的使用(Transformative Use)
著作権法において、元の作品とは異なる新しい目的や意味を持つ使用方法を指す。フェアユース判定の重要な要素となる。

Constitutional AI
Anthropicが開発したAI安全技術で、AIシステムが倫理的規範に従って動作するよう設計された手法である。

海賊版ライブラリ(Shadow Libraries)
Books3、Library Genesis(LibGen)、Pirate Library Mirror(PiLiMi)など、著作権で保護された書籍を違法に配布するオンラインデータベースの総称である。

【参考リンク】

Anthropic公式サイト(外部)
AI安全性と研究に特化したAI企業の公式サイト。Claude AIの開発元で、責任あるAI開発を目指す企業理念や研究成果を紹介している。

Claude AI(外部)
Anthropicが開発したAI対話システムの公式サイト。安全性、正確性、セキュリティを重視した次世代AIアシスタントとして設計されている。

【参考記事】

Anthropic wins key US ruling on AI training in authors’ copyright lawsuit – Reuters(外部)
サンフランシスコ連邦地裁がAnthropicのAI訓練を「フェアユース」と認定した判決について詳細に報じている。

Anthropic wins ruling on AI training in copyright lawsuit but must face trial – AP News(外部)
AI業界にとって重要なテストケースとなった今回の判決について、変革的使用の概念と海賊版ライブラリ問題の両面から分析している。

Anthropic Scores a Landmark AI Copyright Win—but Will Face Billions in Damages – WIRED(外部)
フェアユース勝訴の一方で、700万冊の海賊版書籍使用により損害賠償を求められる可能性について詳しく解説している。

【編集部後記】

今回の判決は、私たちが日常的に使っているAIサービスの未来を大きく左右する重要な転換点かもしれません。皆さんはChatGPTやClaudeを使う際、その背後にある膨大な学習データの出所について考えたことはありますか?この判例が他のAI企業の開発方針にどのような影響を与えるのか、そして私たち利用者にとってAIサービスがより良くなるのか、それとも制約が増えるのか。一緒に注視していきませんか?

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