清華大学が中国初となるAI病院「エージェント病院」を開発し、2025年4月26日に正式に設立セレモニーを行った。この仮想病院システムでは、大規模言語モデル（LLM）を搭載した知的エージェントが医師や看護師として機能し、患者の診断から治療までを担当する。
研究チームリーダーの劉陽氏（清華大学AI産業研究所執行院長、コンピュータサイエンス・テクノロジー学部副学部長）によると、このAI病院タウンは2024年後半には実用化される見込みだ。
エージェント病院の特徴として、AI医師はわずか数日で1万人の患者を治療できる能力を持つ。これは人間の医師が同数の患者を治療するのに必要な期間（約2年）と比較して大幅に短い。また、進化した医師エージェントは米国医師免許試験の問題を含むMedQAデータセットにおいて、主要な呼吸器疾患に関して93.06％の正確率を達成している。
最新の情報によると、システム構成は当初の14人のAI医師と4人のAI看護師から拡大し、現在は42人のAI医師と4人のAI看護師が配置されている。医師エージェントは疾患の診断と詳細な治療計画の策定を担当し、看護師エージェントは日常的なサポートに焦点を当てている。
このAI病院は北京清華長庚病院とその関連インターネット病院と連携し、総合診療科、眼科、放射線診断科、呼吸器科などの専門科で試験的に導入されている。将来的には「AI＋医療＋教育＋研究」という循環型システムの構築を目指している。
References:
China’s first AI hospital town debuts
【編集部解説】
清華大学が開発した「エージェント病院」は、医療分野におけるAI革命の最前線を象徴する画期的なプロジェクトです。2025年4月26日に正式に設立セレモニーが行われたこのAI病院は、単なる実験的取り組みではなく、実際の医療現場との連携を視野に入れた実用的なシステムとして注目を集めています。
このAI病院タウンは、スタンフォード大学の「AIタウン」にインスパイアされた概念で、大規模言語モデル（LLM）を活用した知的エージェントが医師、看護師、患者の役割を担う完全仮想環境となっています。特筆すべきは、このシステムが北京清華長庚病院とその関連インターネット病院と連携し、総合診療科、眼科、放射線診断科、呼吸器科でのサービス提供を開始している点です。
AIエージェントの処理能力は人間の医師と比較して圧倒的です。わずか数日で1万人の患者を診療できる能力は、人間の医師が同じ数の患者を診るのに必要な2年という期間と比べると、その効率性が際立ちます。また、米国医師免許試験の問題を含むMedQAデータセットで93.06%という高い正確率を達成していることも注目に値します。
最新情報によると、当初14人だったAI医師は42人に拡大され、より多様な専門科に対応できるようになっています。これにより、21の専門科（小児科、耳鼻科、風湿免疫科、婦人科など）での診察が可能となり、患者は自分の症例に最も適した専門AIを選択できるようになっています。
この技術の真の価値は単なる効率化だけではありません。医学教育の革新にも大きな可能性を秘めています。医学生が実際の患者にリスクを与えることなく、多様な症例に対する診断・治療スキルを安全に磨ける環境を提供できることは、医療教育の質を飛躍的に向上させる可能性があります。
また、感染症の拡散予測や制御シミュレーションなど、公衆衛生上の課題に対するモデリングツールとしても活用できる点は、パンデミック対策などの社会的課題解決にも貢献するでしょう。
一方で、このようなAI医療システムには課題も存在します。清華大学の董家鴻博士が指摘するように、「医学は愛の科学であり温かさの芸術」という側面があり、AIヘルスケアが持つ「冷たさ」は完全には解消できない問題です。患者一人ひとりの個別性や、予測不可能な状況への対応、そして何より医療行為に伴う法的責任の所在など、人間の医師が担うべき役割は依然として大きいと言えます。
このプロジェクトは、中国が医療AI分野でグローバルリーダーシップを発揮しようとする野心的な取り組みの一環とも言えるでしょう。特に医師不足に悩む農村部や医療過疎地域での医療アクセス向上という社会課題解決に向けた応用が期待されています。
「AI＋医療＋教育＋研究」のエコシステム構築を目指す清華大学の取り組みは、単なる技術革新を超えて、医療システム全体の再設計という壮大なビジョンを示しています。テクノロジーと人間性の調和を図りながら、医療の未来をどう形作っていくか-エージェント病院の挑戦は始まったばかりです。
【用語解説】
大規模言語モデル（LLM）:
膨大なテキストデータから学習し、人間のような文章を生成できる人工知能技術。2017年頃から研究が始まり、医療分野では診断や治療計画の立案に活用されている。
エージェント病院（Agent Hospital）:
清華大学が開発した仮想病院システム。AIエージェントが医師や看護師の役割を担い、仮想患者の診断・治療を行う。実際の医療現場をシミュレートする環境として機能する。
AIエージェント:
特定の役割や機能を持ち、自律的に行動する人工知能プログラム。エージェント病院では医師や看護師として機能し、相互に連携して医療行為を行う。
MedQAデータセット:
米国医師免許試験の問題を含む医療知識評価データセット。AIの医療知識と診断能力を評価するために使用される。
北京清華長庚病院:
清華大学が運営する総合病院。エージェント病院の実証実験が行われている実際の医療施設である。
【参考リンク】
清華大学医学部（外部）
清華大学の医学教育・研究を担う学部。エージェント病院プロジェクトの中心的な役割を果たしている。
清華大学AI産業研究所（AIR）（外部）
清華大学におけるAI研究の中核機関。エージェント病院の技術開発を主導している。
北京清華長庚病院（外部）
エージェント病院の実証実験が行われている清華大学附属の総合病院。
【参考動画】
【編集部後記】
皆さん、AIと医療の融合が進む現代、私たちの医療体験はどう変わっていくのでしょうか？ 清華大学の「エージェント病院」のような革新的な取り組みは、遠隔地医療や医師不足の解消など、私たち一人ひとりの生活に直結する可能性を秘めています。AIが医師の「パートナー」となる未来、あなたならどんな医療体験を望みますか？ 効率化された診断と人間医師ならではの温かみ-この絶妙なバランスについて、皆さんのご意見をSNSでぜひ共有してください。
