カリフォルニア州サンリアンドロとバーモント州バーリントンに拠点を置くバイオテクノロジー企業ZymoChemが、使い捨ておむつ向けの生分解性超吸収性ポリマーを開発した。
同社のCEOハーシャル・チョカワラ氏は、ビール製造と類似の発酵プロセスを使用してトウモロコシ由来の糖を生分解性材料に変換する技術を確立した。従来のおむつの60%から80%は化石燃料ベースのプラスチックで構成され、その半分が高吸収性ポリマーである。
世界経済フォーラムによると、毎分約30万個のおむつが埋立地に送られ、分解に数百年を要する。ZymoChemはトヨタベンチャーズ、ルルレモンなどから総額3500万ドルを調達している。ルルレモンとのパートナーシップにより、アパレル分野でのバイオベースナイロン開発も進めている。使い捨ておむつ市場は600億ドル規模である。
From: How a beer-making process is used to make cleaner disposable diapers
【編集部解説】
ZymoChemの技術革新は、単なる環境配慮製品の開発を超えて、化学工業の根本的な転換点を示しています。同社が開発したバイオベース高吸収性ポリマーは、従来の石油由来材料に対する初の本格的な代替品として位置づけられます。
この技術の核心は、ビール醸造と同様の発酵プロセスにあります。トウモロコシ由来の糖を微生物によって変換し、生分解性のバイオポリマーを生成する仕組みです。従来のアクリル酸系高吸収性ポリマーが石油化学プロセスに依存していたのに対し、ZymoChemは生物学的製造によってコスト競争力を実現している点が画期的です。
この技術がもたらす影響は多岐にわたります。まず、おむつ業界では毎分30万個が廃棄される現状を根本的に変える可能性があります。生分解性により、従来数百年かかっていた分解期間が大幅に短縮されるでしょう。
さらに注目すべきは、ルルレモンとの提携に見られる応用範囲の広さです。アパレル業界でのナイロン製造におけるバイオベース化は、ファッション産業の脱炭素化を加速させる要因となります。農業、化粧品、水処理分野での展開も予定されており、マイクロプラスチック問題の解決策としても期待されています。
一方で、商業化における課題も存在します。バイオベース材料の大量生産には、原料調達の安定性や品質の一貫性確保が不可欠です。また、既存の製造インフラとの互換性や、規制当局による安全性評価のプロセスも重要な要素となるでしょう。
長期的な視点では、この技術は循環経済への移行を促進する触媒となる可能性があります。石油依存からの脱却と、再生可能資源を基盤とした製造業への転換は、気候変動対策の文脈でも極めて重要な意味を持ちます。ZymoChemの成功は、他のバイオテクノロジー企業にとっても商業化への道筋を示すモデルケースとなるはずです。
【用語解説】
高吸収性ポリマー(SAP)
Super Absorbent Polymerの略称。自重の100倍以上の水分を吸収できる高分子材料で、おむつや生理用品の吸収材として使用される。従来品は石油由来のアクリル酸系ポリマーが主流である。
バイオマニュファクチャリング
微生物の発酵プロセスを利用して化学物質や材料を製造する技術。石油化学プロセスに代わる持続可能な製造方法として注目されている。
ドロップイン型代替品
既存の製品や材料と同等の性能を持ち、製造プロセスを大幅に変更することなく置き換え可能な代替材料のこと。
【参考リンク】
ZymoChem公式サイト(外部)
カリフォルニア州サンリアンドロに本社を置くバイオテクノロジー企業の公式サイト
lululemon公式サイト(外部)
カナダ発祥のアスレチックウェアブランドの公式サイト
【参考記事】
Why direct BAYSE™ to the Hygiene Industry First?(外部)
同社がなぜ衛生用品業界を最初のターゲットとしたかの戦略的背景を説明。SAP市場の90%以上が衛生用品向けであることを明記している。
ZymoChem Fuses Enzymes and Chemistry to Revolutionize the Hygiene Industry(外部)
CEOの個人的動機も含めた企業設立の背景と技術開発の詳細について解説している。
【編集部後記】
私たちが毎日何気なく使っている製品の裏側で、こんなにも革新的な技術が生まれていることに驚かされませんか?ZymoChemの取り組みは、単なる環境配慮を超えて、化学工業そのものの在り方を問い直しているように感じます。皆さんの身の回りにも、実は石油由来の材料で作られているものがたくさんあるはずです。もしかすると、10年後には今当たり前だと思っている製品の多くが、微生物の力で作られるようになっているかもしれませんね。どの分野から変化が始まると思われますか?