モンタナ州ビュートにあるバークレーピットは、かつて環境問題の原因となっていた有毒な廃水から、レアアースメタルを抽出する新たな取り組みが進行している。この元銅鉱山は1982年4月22日に閉鎖され、現在は約500億ガロン(約1,890億リットル)の強酸性で有毒な金属を含む水で満たされている。
Montana Resources社は、「セメンテーション」と呼ばれるプロセスを用いて、この廃水から銅を抽出している。この方法では、バークレーピットから配管で引いた液体をスクラップ鉄の山に流し込み、銅を効率的に回収している。
バークレーピットの水には、ネオジムとプラセオジムという2つの軽レアアース元素が豊富に含まれている。これらは電気自動車、医療技術、ミサイルや衛星などの防衛技術に使用される強力な磁石の製造に不可欠である。例えば、F-35戦闘機1機には約408kg(900ポンド)のレアアースメタルが使用されている。
ウェストバージニア大学水研究所のポール・ジームキーウィッツ所長は25年間にわたりバークレーピットの水を研究してきた。彼のチームはバージニアテック大学とL3 Process Development社と共同で、酸性鉱山排水からレアアースを抽出する方法を開発した。この方法では、処理プラントからのスラッジを大きな密織りのプラスチック袋に入れ、水を浸出させることで1〜2%のレアアース濃縮物を得る。最終的に溶媒抽出によって純粋なレアアース元素を生成する。
モンタナ鉱山地質局の水文地質学者ジョン・メテシュによると、水深約51メートル(166フィート)で採取されたバークレーピットの水サンプルからは、セリウム、ネオジム、イットリウム、ランタンといったレアアースが高濃度で検出された。
このプロジェクトが成功すれば、バークレーピットから年間最大40トンのレアアースを生産できる可能性があり、中国への依存度を下げるための重要な国内供給源となる見込みである。現在、Montana Resources社はこのプロジェクトに関する国防総省の助成金の決定を待っている状態である。
バークレーピットは1955年にアナコンダ・カッパー・マイニング・カンパニーによって開かれ、後にアトランティック・リッチフィールド・カンパニー(ARCO)によって運営された後、1982年4月22日に閉鎖された。閉鎖後、地下水が徐々にピットを満たし始め、現在の水深は約270メートル(900フィート)に達している。2019年10月からは水処理プラントが稼働している。
Montana Resources社は実業家デニス・ワシントンが所有するワシントン・カンパニーズの一部門で、約390人を雇用し、ビュートのコンチネンタル鉱山(露天掘りの銅とモリブデン鉱山)を運営している。同社は1985年に設立され、1986年にビュートでの銅採掘を再開した。
References:
World’s Most Dangerous Waste Sites May Be the Next Gold Mine
【編集部解説】
皆さん、今回のニュースはモンタナ州のバークレーピットという環境問題の象徴的存在が、レアアース採掘の新たな可能性を示している事例です。この記事を深堀りすると、単なる環境修復の話ではなく、資源安全保障と循環型経済の重要な一例であることがわかります。
バークレーピットの水量は約500億ガロン(約1,890億リットル)もの酸性水が溜まっています。この規模感は東京ドーム約1.5杯分に相当し、環境問題の深刻さを物語っています。
この取り組みの技術的な側面を見ると、「セメンテーション」と呼ばれる銅抽出プロセスは古くから知られている技術ですが、レアアース抽出に関しては比較的新しい技術革新です。ウェストバージニア大学のポール・ジームキーウィッツ博士のチームが開発した方法は、バージニアテック大学とL3 Process Development社との共同研究によるものであり、学術と産業の連携の成功例と言えるでしょう。
注目すべきは、この技術がバークレーピットだけでなく、全米に存在する約12,000マイル(約19,300km)の汚染された水路に適用できる可能性があることです。これは日本の国土を縦断する距離の約5倍に相当します。
経済的な観点からは、年間40トンのレアアース生産が見込まれていますが、これは米国の防衛需要の約3%にしか相当しないという指摘もあります。しかし、亜鉛などの他の金属も同時に回収できることが、このプロジェクトの経済的実現可能性を高めています。Montana Resources社のマーク・トンプソン副社長が「レアアースはセックスアピールだが、亜鉛が請求書を支払う」と述べているように、複数の金属を同時に回収できる点が重要なビジネスモデルとなっています。
環境面では、2016年に数万羽の雪ガンが渡りの途中でピットの水面に着水し、約3,000羽が毒性により死亡する事故が発生しました。このような環境リスクを抱えながらも、Clean Water Act(清浄水法)に基づき、Atlantic Richfield社とMontana Resources社は無期限に水処理を続ける義務があります。この義務を収益化できる可能性が出てきたことは、環境修復と経済活動の両立という新たなパラダイムを示しています。
地政学的には、中国が世界のレアアース生産の大部分を支配している現状があります。米国は現在、カリフォルニア州のMountain Passにある唯一のレアアース鉱山を運営しており、これは世界のレアアース供給の約15%を占めるに過ぎません。バークレーピットのようなプロジェクトが成功すれば、米国の資源安全保障に貢献するでしょう。
しかし、このプロジェクトにはまだ課題もあります。処理施設の建設には最大2億ドル(約300億円)かかる可能性があり、Montana Resources社は国防総省からの資金提供を必要としています。また、抽出したレアアースを処理する国内のサプライチェーンが不完全であることも課題です。
長期的な視点では、このような「廃棄物から資源を回収する」アプローチは、ピーター・フィスケ氏が「水は21世紀の鉱床」と表現したように、資源の概念を根本から変える可能性を秘めています。日本においても、使用済み電子機器からのレアメタル回収や、工業廃水からの資源回収技術の開発が進められていますが、このバークレーピットの事例は規模の大きさと環境修復との両立という点で参考になるでしょう。
私たちinnovaTopiaは、このような「負債から資産へ」の転換を可能にする技術革新こそが、持続可能な未来への鍵だと考えています。環境問題と資源問題を同時に解決する可能性を秘めたこの取り組みに、今後も注目していきたいと思います。
【用語解説】
レアアース(希土類元素):
周期表のランタノイド15元素にスカンジウムとイットリウムを加えた17元素の総称。スマートフォン、電気自動車、風力発電機、医療機器、防衛装備品などの製造に不可欠な金属である。
セメンテーション:
金属イオンを含む溶液に別の金属を浸すことで、イオン化傾向の差を利用して目的の金属を析出させる技術。バークレーピットでは、銅イオンを含む酸性水にスクラップ鉄を投入し、純粋な銅を回収している。
酸性鉱山排水(AMD: Acid Mine Drainage):
鉱山で硫化鉱物(主に黄鉄鉱)が水や酸素に触れることで生成される強酸性の水。重金属を溶解して環境に深刻な影響を与えるが、同時に貴重な金属も含んでいる。
バークレーピット:
モンタナ州ビュートにある旧銅鉱山の露天掘り跡。1955年から1982年まで操業し、閉鎖後は地下水が流入して巨大な有毒湖となった。水深は約270メートル、水量は約500億ガロン(約1,890億リットル)に達する。
軽レアアース/重レアアース:
レアアース元素は原子量によって軽レアアース(ランタン〜ガドリニウム)と重レアアース(テルビウム〜ルテチウム、およびイットリウム)に分類される。重レアアースは一般的に希少で価格が高い。
【参考リンク】
Montana Resources LLP(外部)
モンタナ州ビュートで銅とモリブデンの露天掘り鉱山を運営する企業。環境に配慮した採掘技術の革新に取り組んでいる
West Virginia Water Research Institute (WVU)(外部)
水資源の研究と管理に関する革新的な解決策を開発するウェストバージニア大学の研究機関
Montana Bureau of Mines and Geology(外部)
モンタナ州の地質、水資源、鉱物資源に関する調査・研究を行う州立機関
【参考動画】
【編集部後記】
皆さんの身の回りにある「廃棄物」は、実は未来の資源かもしれません。スマホの中にも多くのレアメタルが使われていますが、使い終わった後はどうなるのでしょうか?バークレーピットの事例は、環境問題と資源問題を同時に解決する可能性を示しています。日本でも都市鉱山という言葉をよく耳にしますが、あなたの周りにある「廃棄物」が資源になる可能性について、考えてみませんか?