オーストラリア南東部のマンスフィールド盆地にあるSnowy Plains Formationで、世界最古の爬虫類の足跡化石が発見された。この足跡は約3億5600万年前(初期石炭紀)に形成されたもので、5本の明確な指と鋭く湾曲した爪の痕跡が特徴である。
この発見はスウェーデンのウプサラ大学のPer Ahlberg教授らの研究チームによって分析され、2025年5月14日に科学誌「Nature」にオープンアクセスで発表された。足跡の形状から、この動物は現代のウォーターモニター(Varanus salvator)と同様の体型で、体長約80センチメートルと推定される。
この発見は爬虫類を含むアムニオテス(羊膜類)の出現時期を、これまで考えられていた約3億2000万年前から少なくとも3500万年遡らせるものである。また、ポーランドのシレジア地方のヴァウブジフ層でも同様の足跡が発見されており、初期のアムニオテスが地理的に広く分布していたことを示している。
足跡の発見者は市民科学者のCraig A. EuryとJohn Easonで、彼らがビクトリア州のタウングルン・カントリーのブロークン・リバー地域で発見した標本(標本番号NMV P258240)を専門の古生物学者に持ち込んだことで研究が始まった。
この発見により、生命が水中から陸上へ移行する進化の過程が、これまで考えられていた9000万年ではなく約5000万年という短い期間で起こった可能性が示唆された。また、デボン紀末のハンゲンベルク絶滅事象が現代の四足動物の多様化を引き起こしたという従来の見解にも疑問を投げかけている。
【編集部解説】
今回の発見は、生命の進化の歴史において非常に重要な意味を持つものです。オーストラリアで発見された約3億5600万年前の爬虫類の足跡化石は、私たちが長年信じてきた陸上生物の進化のタイムラインを大きく書き換えることになりました。
Nature誌に2025年5月14日に掲載されたこの研究は、ウプサラ大学のPer Ahlberg教授、フリンダース大学のJohn Long教授らによるもので、複数の信頼性の高い情報源によってその重要性が確認されています。
この足跡化石の年代については、Nature Asiaの記事によると正確には約3億5600万年前(初期石炭紀)とされています。これはカナダで発見された最古の爬虫類の足跡(約3億1800万年前)よりも約3800万年古いものです。
この発見の画期的な点は、アムニオテス(羊膜類)と呼ばれる、陸上で卵を産むことができる脊椎動物の出現時期が、これまで考えられていたよりも約3500万年も古いことを示した点にあります。アムニオテスには爬虫類、鳥類、哺乳類が含まれ、私たち人間もこのグループに属しています。
足跡の特徴として、5本の指と鋭く湾曲した爪の痕跡が明確に残されていることが挙げられます。Per Ahlberg教授によれば、「これは歩く動物だった」と確認されており、曲がった爪は身元確認の重要な手がかりとなっています。完全に陸上で生活するように進化した動物だけが爪を発達させたという点は非常に重要です。
興味深いのは、この足跡化石が市民科学者によって発見されたという点です。Craig A. EuryとJohn Easonという二人の市民科学者がオーストラリアのビクトリア州で発見した標本を専門家に持ち込んだことで、この重要な研究が始まりました。これは市民科学の価値を示す素晴らしい例と言えるでしょう。
この発見は単に爬虫類の起源を遡らせただけではなく、生命が水中から陸上へと進出する過程の理解にも大きな影響を与えています。Nature Asiaの記事によると、これまで四肢動物が初めて水から出た後、アムニオテスが進化するのに9000万年かかった可能性が示唆されていましたが、今回の発見により、この移行がより短期間で起こった可能性が示されました。
また、デボン紀末(約3億5900万年前)に起きたハンゲンベルク絶滅事象と呼ばれる大量絶滅が、現代の四足動物の多様化を引き起こしたという従来の見解にも再考を促しています。新たな見解では、この絶滅事象は既に存在していた系統の中から選択的に生き残りを決めたフィルターのような役割を果たしたと考えられています。
さらに、ポーランドでも同様の足跡化石が発見されていることから、初期の爬虫類は地理的に広く分布していたことが分かります。これは、進化の初期段階から爬虫類が適応力の高い生物群であったことを示しています。
Per Ahlberg教授によれば、これらの足跡の化石は、1日の間に起こった一連の出来事を記録しているとのことです。小雨が降る前に爬虫類が地面を素早く走り、雨によるへこみでその軌跡は部分的に見えなくなっています。その後、地面が固まり堆積物で覆われる前に、さらに2匹の爬虫類が反対方向に走り去ったという、当時の一瞬の様子が化石として残されています。
【用語解説】
アムニオテス(羊膜類):
卵が羊膜に包まれた脊椎動物のグループで、爬虫類、鳥類、哺乳類が含まれる。水中ではなく陸上で繁殖できる最初の脊椎動物群である。
石炭紀 :
約3億5900万年前から約2億9900万年前までの地質時代。この時代には大規模な森林が発達し、後に石炭層となった。
デボン紀 :
約4億1900万年前から約3億5900万年前までの地質時代。「魚の時代」とも呼ばれ、最初の四足動物が出現した時代である。
ハンゲンベルク絶滅事象 :
デボン紀末(約3億5900万年前)に起きた大量絶滅。多くの海洋生物や初期の四足動物に影響を与えた。
Snowy Plains Formation :
オーストラリア南東部に位置する地層で、初期石炭紀の地層が露出している。今回の足跡化石が発見された場所である。
ウォーターモニター(Varanus salvator):
東南アジアに生息する大型のトカゲの一種。体長は最大で2.5メートルに達する。今回発見された足跡を残した動物の体型推定に用いられた。
【参考リンク】
ウプサラ大学 Per Ahlberg教授のページ(外部)
スウェーデンのウプサラ大学の脊椎動物古生物学者で、今回の研究の主著者。四足動物の起源と初期進化を専門としている。
Nature(科学雑誌)(外部)
今回の研究が掲載された世界的に権威のある科学雑誌。1869年創刊の歴史ある学術誌で、最新の科学研究を発表している。
フリンダース大学(外部)
オーストラリアの大学で、共著者のJohn Long教授が所属している。古生物学の研究で知られている。
Nature Asia(外部)
Nature誌のアジア版ウェブサイト。今回の研究についての日本語の解説記事が掲載されている。
【編集部後記】
3億5600万年前の爬虫類の足跡が私たちの進化の歴史を書き換えるとは、驚きではありませんか?身近な公園や山でも、思わぬ発見が眠っているかもしれません。市民科学者の貢献が大きな発見につながった今回の事例は、科学の扉が誰にでも開かれていることを示しています。皆さんも週末のハイキングで変わった石や化石を見つけたら、地元の博物館に持ち込んでみてはいかがでしょうか?次の大発見は、あなたの足元にあるかもしれません。
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