Mozillaの子会社MZLAが2025年5月27日にThunderbird 139をリリースした。本バージョンは2025年3月から開始された新しい月次リリースサイクルに従い、上流のFirefoxリリースを追跡する短期リリースとなっている。
主な新機能として、メール通知から直接「既読にする」「削除」の操作が可能になり、エンタープライズポリシー管理でアプリ内通知の詳細制御が実装された。フォルダペインでの手動ソート機能とカードビューでのプレビューテキスト行数調整機能も追加された。セキュリティ面では、CVE-2025-5262を含む10件の脆弱性が修正されている。
一方で、バージョン138から139へのアップグレード時に、ユーザーがテーブルビューを使用していてもカードビューに戻ってしまう問題が報告されている。
Ubuntu 24.04では現在もESR版が使用されており、Snapストアのベータチャンネルで139 beta 4-2が提供されている。
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Thunderbird is go: 139 follows closely on Firefox’s heels
【編集部解説】
今回のThunderbird 139リリースは、Mozillaのメールクライアント戦略における重要な転換点を示しています。2025年3月から開始された月次リリースサイクルにより、ThunderbirdはFirefoxと歩調を合わせ、より迅速な機能追加とセキュリティ修正が可能になりました。
この変更の背景には、Windows 10サポート終了を控え、Microsoft製品からの移行を検討するユーザーが増加している現状があります。特に企業環境では、Office 365の代替手段としてオープンソースソリューションへの関心が高まっており、Thunderbirdはその有力候補として位置づけられています。
今回追加された通知からの直接操作機能は、モバイルファーストの時代におけるデスクトップメールクライアントの使い勝手向上を狙ったものです。スマートフォンでは当たり前の機能をデスクトップに持ち込むことで、ユーザー体験の統一を図っています。
エンタープライズポリシー管理の強化も注目すべき点です。これにより、企業のIT管理者は通知設定を細かく制御でき、セキュリティポリシーに準拠した運用が可能になります。特に金融機関や官公庁など、厳格な情報管理が求められる組織での導入が期待されます。
セキュリティ面では、CVE-2025-5262を含む10件の脆弱性が修正されており、特にlibvpxエンコーダーでの問題は重要度が高く設定されています。WebRTC機能を使用する企業では、速やかなアップデートが推奨されます。
一方で、カードビューへの自動復帰問題は、ユーザー体験の一貫性を損なう課題として指摘されています。この種の問題は、新機能の押し付けと受け取られかねず、オープンソースプロジェクトの信頼性に影響を与える可能性があります。
長期的な視点では、この月次リリースサイクルがThunderbirdの競争力向上に寄与すると考えられます。現在のリリースチャネル利用率は全体の0.27%にとどまっていますが、開発チームは2025年中に20%以上への引き上げを目標としており、Gmail、Outlook、Apple Mailといった大手プラットフォームに対抗する戦略の一環となっています。
【用語解説】
ESR(Extended Support Release)
延長サポートリリースの略。企業や組織向けに長期間の安定性を重視したバージョンで、通常の月次リリースよりも頻繁な変更を避けたい場合に選択される。セキュリティ修正とバグ修正のみが提供され、新機能の追加は最小限に抑えられる。
カードビュー
Thunderbird 115「Supernova」で導入された新しいメール表示形式。各メールを個別のカード状で表示し、視覚的に分かりやすくした表示方法。従来のテーブルビュー(一覧表示)とは異なり、モダンなインターフェースを提供する。
WebRTC
Web Real-Time Communicationの略。ウェブブラウザ間でリアルタイム通信を可能にする技術標準。音声通話、ビデオ通話、データ共有などを実現する。Thunderbirdでも一部機能で使用されている。
libvpx
Googleが開発したオープンソースの動画コーデックライブラリ。VP8とVP9動画フォーマットのエンコード・デコード機能を提供する。WebRTCでの動画圧縮に使用される。
CVE(Common Vulnerabilities and Exposures)
共通脆弱性識別子。セキュリティ脆弱性に対して割り当てられる一意の識別番号。CVE-2025-5262のように年と番号で構成される。
【参考リンク】
Mozilla Thunderbird公式サイト(外部)
Mozilla財団が運営するThunderbirdの公式ウェブサイト。最新版のダウンロード、機能紹介、サポート情報を提供している。
MZLA Technologies Corporation(外部)
Thunderbirdプロジェクトを運営するMozilla財団の完全子会社。2020年1月に設立され、Thunderbirdの開発・運営を専門に行っている。
Thunderbird Beta Notes(外部)
Thunderbird 139ベータ版のリリースノート。新機能の詳細説明と修正されたバグの一覧を掲載している。
【編集部後記】
メールクライアントの選択について、皆さんはどのような基準をお持ちでしょうか。Windows 10サポート終了を機に、Microsoft製品からの移行を検討されている方も多いのではないでしょうか。Thunderbirdの月次リリース化は、オープンソースソフトウェアの可能性を示す興味深い事例だと感じています。普段お使いのメールアプリで「こんな機能があったら」と思うことはありませんか。通知からの直接操作など、今回の新機能についてもぜひご意見をお聞かせください。
【参考記事】
Thunderbird Desktop Release Channel Will Become Default in March 2025(外部)
月次リリースサイクルへの移行について詳細に解説した公式ブログ記事。ESRから月次リリースへの変更理由と今後の戦略を説明している。
Thunderbird Monthly Developer Digest – April 2025(外部)
2025年4月の開発状況をまとめた公式レポート。年次ESRリリースの準備状況と新機能開発の進捗について詳述している。
Mozilla Security Advisory MFSA2025-45(外部)
Thunderbird 139で修正された10件のセキュリティ脆弱性の公式セキュリティアドバイザリ。CVE番号、影響度、技術的な説明が含まれている。