約533万年前、地球史上最大規模の洪水「ザンクリアン大洪水」が発生し、地中海全体を数ヶ月から2年で形成した。この洪水は大西洋からジブラルタル海峡を通って流入し、現在のアマゾン川の約1,000倍の水量を放出した。
洪水発生前の地中海は「メッシニアン塩分危機」により約600万年前から533万年前まで乾燥した塩の盆地となっていた。
この現象はスペイン地球科学研究所のダニエル・ガルシア・カステリャーノス博士が2009年に理論を提唱し、最新の研究では毎秒1億立方メートルの激流が発生し、1日あたり10メートル以上海面が上昇したことが判明している。ジブラルタル海峡の海底峡谷やシチリア島周辺の堆積物がこの大洪水の物理的証拠として確認されている。
From:
The Biggest Flood in History Swallowed The Entire Mediterranean In Just Hours
【編集部解説】
ザンクリアン大洪水理論は、従来の「徐々に海水が戻った」という定説を覆す画期的な発見です。
メッシニアン塩分危機の全貌
約600万年前から533万年前まで続いた「メッシニアン塩分危機」により、地中海は現在の海面より1,600メートル以上低下し(約600メートルの低下だったとする説もある)、厚さ約3,200メートルの塩の層が形成されました。この塩の量は、全世界77億人に対してギザの大ピラミッド50基分の塩を配れるほどの膨大な量に相当します。
技術革新が解明した古代の謎
この発見は、現代の海底地形マッピング技術と数値流体力学シミュレーションの進歩によって実現しました。グローマー・チャレンジャー号による1970年代の海底掘削調査から始まり、地震波探査や堆積物分析などの最新技術により、500万年前の出来事が詳細に再現されています。
地球環境システムへの影響
ザンクリアン大洪水は単なる地質現象ではなく、地球全体の海洋循環システムに根本的な変化をもたらしました。地中海の復活により大西洋との海水交換が再開され、現在の地球規模の海洋ベルトコンベア循環の基盤が形成されたのです。この循環システムは現在の気候パターンや嵐の発生に直接影響を与えています。
現代への教訓と研究の展望
この研究は、地球システムの予測不可能性と急激な環境変化の可能性を示しています。現在進行中の気候変動研究において、過去の急激な環境変化事例は重要な参考データとなります。今後は地中海各地での掘削調査により、さらに詳細な証拠の発見が期待されています。
【用語解説】
ザンクリアン大洪水(Zanclean Megaflood)
約533万年前に地中海を再び満たした史上最大規模の洪水。大西洋からジブラルタル海峡を通じて毎秒1億立方メートルの水が流入し、現在のアマゾン川の約1,000倍の流量を記録した。
メッシニアン塩分危機(Messinian Salinity Crisis)
約600万年前から533万年前まで続いた地質学的現象。地中海が大西洋から切り離され、蒸発により海面が1,600メートル以上低下し、厚さ3,200メートルの塩の層が形成された期間。
グローマー・チャレンジャー号(Glomar Challenger)
1970年代に地中海海底の掘削調査を行った深海掘削船。メッシニアン塩分危機の物理的証拠となる塩の層を初めて発見した。
【参考リンク】
スペイン高等科学研究院地球科学研究所ハウメ・アルメラ(外部)
ダニエル・ガルシア・カステリャーノス博士が所属する研究機関でザンクリアン大洪水研究を主導
ブリストル大学地質学部(外部)
レイチェル・フレッカー博士が所属する英国の研究大学で地中海古環境復元研究を実施
ユトレヒト大学地球科学部(外部)
バウト・クリフスマン博士が所属するオランダの研究大学で地中海堆積物研究を実施
【参考記事】
干上がった太古の地中海 再び満たした大洪水の証拠? – 日本経済新聞(外部)
2020年3月発表の日本語解説記事でメッシニアン塩分危機とザンクリアン大洪水を詳述
ザンクリアン洪水 – Wikipedia(外部)
ザンクリアン大洪水に関する包括的な百科事典記事で最新研究成果と理論変遷を網羅
黒海洪水説 – Wikipedia(外部)
類似の古代大洪水現象である黒海洪水説の解説でザンクリアン大洪水との比較研究参考
【編集部後記】
地球の歴史を振り返ると、私たちが想像もできないスケールの自然現象が数多く起こっていたことに驚かされます。今回のザンクリアン大洪水のように、わずか数年で地中海全体が生まれ変わったという事実は、地球システムの予測不可能性を物語っています。現在進行中の気候変動も、過去の急激な環境変化から学べることがあるのではないでしょうか。皆さんは、このような地球規模の変化が現代に起こるとしたら、どのような影響があると思われますか?また、古代の環境変化から現代の気候問題解決のヒントを見つけることは可能でしょうか?
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