ローマン宇宙望遠鏡、打ち上げレベル振動試験をクリア 2026年打ち上げへ最終段階

ローマン宇宙望遠鏡、打ち上げレベル振動試験をクリア|2026年打ち上げへ最終段階

NASAのナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡が2025年6月上旬、ゴダード宇宙飛行センターで打ち上げレベルの振動試験に合格した。

この試験では望遠鏡のコア部分を実際の打ち上げ時に想定される125%の応力まで段階的に加え、推進剤タンクに295ガロン(約1,117リットル)の脱イオン水を充填して打ち上げ時の質量を再現した。主任構造解析者のコリー・パウエルは「深刻な地震と同程度の威力」と説明し、試験責任者のジョエル・プロエブストルが飛行電源投入構成での実施を指揮した。

現在、望遠鏡は内部科学モジュールと外部構造システムの2つの主要部分に分かれており、2025年11月に接続予定である。太陽電池アレイサンシールドは既に熱真空試験を完了し、飛行準備完了の太陽パネルを設置中である。
完全な観測装置統合は2025年末までに完了し、早ければ2026年秋、遅くとも2027年5月までに打ち上げ予定である。

ローマン宇宙望遠鏡はダークエネルギーの調査と系外惑星探索を目的とし、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を補完する役割を担う。

From:
文献リンクRoman Space Telescope Clears Major Shake Test, Nears Final Assembly

【編集部解説】

宇宙望遠鏡にとって打ち上げ時の振動は最も過酷な試練の一つです。ロケットエンジンの燃焼による激しい振動は、精密な光学機器のアライメントを狂わせ、ミッション全体を台無しにする可能性があります。

今回の試験では実際の打ち上げ時の125%の応力を加えるという厳格な基準が採用されました。これは宇宙開発における標準的な安全マージンを示しており、想定外の事態にも対応できる設計の堅牢性を証明しています。

ローマン宇宙望遠鏡が目指すダークエネルギーの観測は、現代宇宙論における最重要課題の一つです。宇宙の加速膨張を引き起こすこの謎の力を解明することで、宇宙の最終的な運命を予測できるようになります。

また、マイクロレンズ法による系外惑星探索は、従来の手法では発見困難な地球型惑星の統計的把握を可能にします。これにより、銀河系内の居住可能惑星の分布が明らかになり、地球外生命探査の戦略に大きな影響を与えるでしょう。

技術的な観点では、ローマン宇宙望遠鏡はハッブル宇宙望遠鏡と同サイズの2.4メートル主鏡を持ちながら、視野は200倍広い設計となっています。この広視野観測能力により、大規模宇宙構造の調査が飛躍的に向上します。

一方で、総予算約40億ドルという巨額投資に対する懸念も存在します。2025年度のNASA予算削減提案により、プロジェクトの継続性に不安要素があることも事実です。しかし、現時点では2026年秋から2027年5月の打ち上げスケジュールは維持されており、最終段階の統合作業が順調に進行しています。

【用語解説】

ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡
NASAが開発中の赤外線宇宙望遠鏡。2027年5月までの打ち上げを予定し、ダークエネルギーの調査と系外惑星探索を主目的とする。ハッブル宇宙望遠鏡と同サイズの2.4メートル主鏡を持ちながら、視野は200倍広い。

ダークエネルギー
宇宙の加速膨張を引き起こしている謎のエネルギー。現在の宇宙全体のエネルギーの68%を占めるとされるが、その正体は不明。密度は非常に低いが宇宙全体に均一に分布している。

重力マイクロレンズ法
重力レンズ効果を利用した系外惑星探索手法。恒星や惑星の重力が背景の恒星光を曲げることで生じる一時的な増光現象を観測し、惑星の存在を検出する。従来手法では困難な遠方惑星や浮遊惑星の発見が可能。

振動試験
宇宙機器が打ち上げ時のロケット振動に耐えられるかを確認する試験。実際の打ち上げ時の125%の応力を段階的に加え、機器の構造的完全性とアライメントを検証する。

熱真空試験
宇宙空間の極低温・真空環境を地上で再現し、宇宙機器の動作を確認する試験。温度変化による材料の膨張収縮や電子機器の動作確認を行う。

バリオン音響振動
初期宇宙で物質とエネルギーが相互作用して生じた音波の痕跡。現在の宇宙の大規模構造に刻まれており、ダークエネルギーの性質を探る重要な手がかりとなる。

【参考リンク】

NASA ゴダード宇宙飛行センター(外部)
ワシントンD.C.近郊にあるNASAの主要研究施設で約10,000人が勤務

ジェット推進研究所(JPL)(外部)
カリフォルニア工科大学が運営するNASAの研究開発センター

宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)(外部)
ハッブル、ウェッブ、ローマン宇宙望遠鏡の科学運用センター

BAEシステムズ(外部)
イギリスの多国籍防衛・航空宇宙企業で約10万人の従業員を擁する

L3ハリステクノロジーズ(外部)
2019年設立のアメリカの技術・防衛企業で通信システム分野が専門

テレダイン・サイエンティフィック・アンド・イメージング(外部)
防衛・宇宙分野の研究開発を行う従業員501-1000人規模の企業

【参考記事】

Core Components for NASA’s Roman Space Telescope Pass Major Shake Test(外部)
NASA公式発表による振動試験完了の詳細情報と今後のスケジュール

Nancy Grace Roman Space Telescope – Wikipedia(外部)
ローマン宇宙望遠鏡の概要、技術仕様、科学目標について網羅的な情報

Dark Energy – NASA Science(外部)
ローマン宇宙望遠鏡によるダークエネルギー観測の科学的意義と手法

【編集部後記】

ローマン宇宙望遠鏡の振動試験成功は、私たちが宇宙の謎に一歩近づいた瞬間でもあります。ダークエネルギーの正体が明らかになったとき、宇宙に対する私たちの理解はどう変わるでしょうか。また、10万個の系外惑星が発見されれば、地球外生命への期待も高まります。みなさんは、この宇宙望遠鏡によってどんな発見を最も期待されますか。そして、これらの発見が私たちの日常生活や未来にどのような影響をもたらすと思われるでしょうか。ぜひSNSで、みなさんの宇宙への想いをお聞かせください。

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