8月18日【今日は何の日?】フォボス・ダイモス発見から紐解く火星探査の過去・現在・未来

火星への夢を駆り立てた小さな衛星たち:フォボスとダイモスの発見から始まる探査の歴史

1877年8月18日、アメリカの天文学者アサフ・ホールは、ひとつの画期的な発見を成し遂げました。彼の望遠鏡が捉えたのは、火星の周りを回る二つの小さな衛星、フォボスダイモスです。この発見は、人類が火星という惑星に抱いていた好奇心を、一気に現実的な探査への意欲へと変えるきっかけとなりました。


「火星人」ブームの到来:観測技術の進歩がもたらした誤解

同じ1877年、イタリアの天文学者ジョヴァンニ・スキアパレッリは火星表面に直線的な模様を観測し、これをイタリア語で「運河」を意味する Canali(カナーリ) と記録しました。
ところが、英語に翻訳される際に「Canals(水路)」と解釈され、火星に高度な文明が存在し、水を運ぶための人工運河を築いたという説が世界中で広まりました。

この誤解はやがてSF作品の題材にもなり、H.G.ウェルズの小説『宇宙戦争』(1898年)を経て、1938年のオーソン・ウェルズによる同作のラジオドラマが、米国で「火星人襲来パニック」を引き起こす事件に繋がりました。

観測技術の向上により、これらの「運河」が目の錯覚や自然な地形であることは後に判明しましたが、この壮大な誤解こそが火星探査への熱意を世界規模で高めたのです。


リアルな火星へ:探査機が明らかにした真の姿と、現在進行中のミッション

1960年代に入ると、人類は火星に探査機を送る試みを始めます。旧ソ連とアメリカによる熾烈な宇宙開発競争のなかで、火星探査は重要な目標となりました。そして、現在も複数のミッションが火星の謎を解き明かすために活動しています。

  • NASA パーサヴィアランス・ローバー(Perseverance Rover)
    2021年に火星のジェゼロ・クレーターに着陸したパーサヴィアランスは、かつての古代湖の底を探索し、微生物の生命の痕跡を探しています。最も重要なミッションの一つは、岩石や土壌のサンプルを採取し、将来のミッションで地球に持ち帰る**「マーズ・サンプル・リターン」**計画の準備を行うことです。2025年現在、パーサヴィアランスは自律走行技術を駆使して、探査記録を塗り替え続けています。
  • NASA キュリオシティ・ローバー(Curiosity Rover)
    2012年から活動を続けるキュリオシティは、ゲール・クレーターを探査し、火星に生命が存在可能な環境が過去に存在したことを発見しました。現在も活動を続け、火星の気候や地質に関する貴重なデータを収集しています。
  • CNSA 天問1号(Tianwen-1)
    中国初の火星探査ミッションである天問1号は、オービター(周回機)とローバー(祝融号)で構成され、2021年に火星に到着しました。祝融号は火星表面の観測を行い、そのミッションは人類史上初の周回、着陸、巡視探査を一度に達成するという快挙を成し遂げました。
  • ESA/ロスコスモス エクソマーズ(ExoMars)
    欧州宇宙機関(ESA)の**トレース・ガス・オービター(TGO)**は、2016年から火星軌道で活動し、大気中のメタンなどの微量ガスを分析しています。これらのガスは生命活動の兆候である可能性があり、火星の生命探査において重要な手がかりとなります。また、2028年の打ち上げを目指して、火星の地下を掘削して生命の痕跡を探すローバー「ロザリンド・フランク」の開発が進められています。

未来への展望:そして、人類は火星に住む

フォボスとダイモスの発見から1世紀半、人類は火星人の夢から現実の探査へと歩みを進めてきました。しかし、生命の可能性を秘めた火星は、今なお人類の好奇心を刺激し続けています。

将来、私たちは火星に人類の拠点を築くことを目指しています。

イーロン・マスク率いるSpaceXは、火星への移住を最終目標に掲げ、再利用可能な巨大ロケットスターシップの開発を加速させています。また、日本でもJAXAが火星の衛星フォボスからのサンプルリターンを目指す「MMX(Martian Moons eXploration)」計画を進めており、2026年度の打ち上げを予定しています。

火星が持つ壮大な謎は、私たちを未来へと駆り立てる、終わらない物語の始まりなのかもしれません。


【Information】

NASA (National Aeronautics and Space Administration)(外部)
アメリカの航空宇宙開発を担当する政府機関。火星探査の中心的な役割を担い、数多くのローバーや探査機を火星に送り込んできました。本記事に登場するパーサヴィアランスやキュリオシティ、インジェニュイティなどのミッションを主導しています。

ESA (European Space Agency)(外部)
ヨーロッパの宇宙開発機関。火星探査では、ロシアとの協力ミッション「エクソマーズ」などを通じて、火星の大気や生命の可能性を調査しています。

JAXA (宇宙航空研究開発機構)(外部)
日本の宇宙開発機関。小惑星探査機「はやぶさ」シリーズなどで世界的に知られています。現在、火星の衛星フォボスからのサンプルリターンを目指す「MMX」計画を進めており、火星探査における重要な役割を担っています。

SpaceX(外部)
イーロン・マスクが創設した宇宙開発企業。再利用可能なロケット技術を開発し、火星への有人探査と植民地化を究極の目標としています。スターシップなどの超大型ロケットの開発を進め、火星移住の実現を目指しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です