OpenAI×Instructureが教育AI提携、Canvas内で歴史人物のペルソナ機能実現

InstructureとOpenAIが教室向けAIツールで提携し、学習プラットフォームCanvas内で教師が「LLM対応課題」を作成できる新機能を発表した。この機能により、教師は歴史上の人物などのペルソナを設定してAIとの対話型授業を実現する。ウォルトン・ファミリー財団とギャラップの調査では、2024-2025年度に10人中6人の教師がAIツールを仕事で使用したと報告された。ファーストレディのメラニア・トランプは火曜日に「大統領AI挑戦」を発表し、K-12年生がAIで地域課題に取り組むことを奨励している。OpenAI、Microsoft、Anthropicは全米およびニューヨーク州の米国教員連盟と連携し、40万人のK-12年生教師向けに約2,300万ドルのAI研修プログラムに投資している。しかし、Character.AIに関連した14歳の少年の自殺訴訟事例など、AIのメンタルヘルスへの影響や教育格差の拡大を懸念する声もある。

From: 文献リンク‘The new encyclopedia’: how some kids will use AI at school this year

【編集部解説】

今回のInstructureとOpenAIの提携は、教育テクノロジー分野における重要な転換点を示しています。

Canvas学習管理システム(LMS)は世界8,000校以上で使用されており、数千万人の学生と教師が利用するプラットフォームです。このような巨大な教育インフラにAIが直接統合されることの意味は計り知れません。

最も注目すべき点は、従来の「点」での解決策ではなく、システム全体に組み込まれた包括的なAIソリューションが実現されることです。教師は自然言語プロンプトでカスタムチャットボットを作成し、歴史上の人物のペルソナを設定した対話型授業を実現できます。これは単なるツールの追加ではなく、教育体験そのものの再設計と言えるでしょう。

技術面では、学生のAIとの対話データがすべてCanvas内に保存され、OpenAIと共有されない仕組みが構築されています。この「エデュケーター主導、アウトカム整合型AI」のアプローチは、教師が完全に制御権を保持しながらAIの恩恵を受けられる設計となっています。

しかし、The74 Millionの調査では、MagicSchoolやKhanmigoなどのAI教育ツールが偏見のある内容や不適切な教材を生成するリスクが指摘されています。特に特別支援教育のIEP(個別教育プログラム)生成機能では、十分なデータなしに重要な教育計画が作成される危険性があります。

政策面でも大きな動きがあります。トランプ政権が2025年4月に署名した大統領令14277「アメリカの若者への人工知能教育推進」により、連邦レベルでのAI教育支援が加速しています。メラニア・トランプによる「大統領AI挑戦」は、K-12年生がAIを活用して地域課題を解決することを奨励する施策です。

最も深刻な懸念は教育格差の拡大です。高貧困地区ではAI研修の実施率が低く、都市部や農村部の学区は現在のニーズに追われてAIツール導入が困難という現実があります。この「AIを持つ者と持たざる者」の格差は、従来のデジタルデバイドをさらに深刻化させる可能性があります。

教師の受け入れ状況も複雑です。60%の教師がAIツールを使用する一方で、20年以上の経験を持つベテラン教師からは「AIは学習を阻害する松葉杖」という厳しい批判も出ています。教育の本質が「情報の入出力以上の個人的分析」にあるという指摘は、AI時代の教育論議の核心を突いています。

長期的視点では、現在の学生が「AI経済」で成功するために必要なスキルを身につけることが重要課題となっています。AIが職場で標準的なツールとなる未来に向けて、教育現場での適切な統合と倫理的使用の確立が急務です。

この動向は、日本の教育界にとっても重要な示唆を与えています。GIGAスクール構想の次のステップとして、AI統合教育の在り方を検討する時期に来ているのかもしれません。

【用語解説】

LLM(Large Language Model)
大規模言語モデルの略。ChatGPTやBardなどのAIチャットボットの基盤技術で、大量のテキストデータを学習して自然言語を理解・生成する。

K-12年生
幼稚園(Kindergarten)から12年生(高校3年生相当)までのアメリカの教育システム。日本の義務教育から高校教育に相当する。

LMS(Learning Management System)
学習管理システム。デジタル教材の配信、学習進捗の管理、成績評価などを一元的に行う教育プラットフォーム。

IEP(Individualized Education Program)
個別教育プログラム。特別支援が必要な学生向けに作成される個別の教育計画。

ペルソナ
AIが特定のキャラクターや役割を演じるための設定。教育現場では歴史上の人物や専門家の役割をAIに担わせることで、より魅力的な学習体験を提供する。

【参考リンク】

Instructure公式サイト(外部)
Canvas LMSを開発・提供する教育技術企業。世界8,000校以上の教育機関で利用されるシステムを展開している。

OpenAI公式サイト(外部)
ChatGPTやGPTシリーズを開発するAI企業。「安全で有益な汎用人工知能」の実現を目指している。

Canvas LMS(外部)
北米でシェアNo.1の学習管理システム。アクセシブルな学習環境を提供し、600以上のパートナーと統合可能。

Presidential AI Challenge(外部)
トランプ政権が推進するK-12年生向けAI教育チャレンジ。地域課題をAIで解決するプロジェクト競技会。

【参考記事】

Instructure’s New Deal With OpenAI Aims to Move AI Beyond ‘Point Solutions’(外部)
InstructureとOpenAIの提携により、従来の「点的解決策」を超えたAIソリューション実現について詳細解説。

OpenAI’s new Canvas deal pushes AI deeper into schools(外部)
8,000校以上で使用されるCanvasプラットフォームへのAI統合が教育分野に与える影響力を分析。

Instructure and OpenAI Announce Global Partnership(外部)
公式発表による提携詳細。学生データがOpenAIと共有されない安全対策について説明している。

AI Teacher Assistants Are Useful but Can Pose Risks in Classroom(外部)
AI教育ツールが偏見のある内容や不適切な教材を生成するリスクを詳細分析した調査報告。

Melania Trump Issues an AI Challenge for Students(外部)
大統領AI挑戦の教育政策としての意義と課題を分析。K-12年生のAIリテラシー向上への期待を解説。

Expanded AI training for teachers, funded by OpenAI and Microsoft(外部)
40万人のK-12教師向け2,300万ドル研修プログラムの詳細と教育格差への懸念を報告。

【編集部後記】

この記事を読んで、皆さんはどのようにお感じになりましたか?もしかすると、ご自身のお子さんやお孫さんの教育環境が大きく変わろうとしていることに驚かれたかもしれませんね。

私たちも、教育の現場でここまでAIが浸透していることに正直驚いています。同時に、このようなテクノロジーが子どもたちの学習体験をどう変えていくのか、とても興味深く感じています。

皆さんは、AIが「新しい百科事典」として子どもたちの学習を支援することについて、どのようにお考えでしょうか?また、もし皆さんが学生時代にこのようなツールがあったとしたら、どのように活用してみたいと思われますか?

ぜひ、ご家族やお知り合いの方と、未来の教育について語り合ってみてください。

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