Mozillaは2025年11月12日、Firefox 145をリリースした。主な新機能として、PDFファイルへのコメント追加・閲覧機能が実装され、共同での文書編集作業が可能になった。プライバシー保護機能ではフィンガープリンティングに対する防御が強化され、タブグループの内容をポップアップで表示する機能が追加された。パスワードマネージャーはサイドバーからアクセス可能となり、ウェブページのテキスト一部へのリンク共有機能も搭載された。自動翻訳機能は左から右、右から左へのスクリプト間でコンテンツをミラーリングできるようになった。Windows版では新しいFirefoxデスクトップランチャーが導入され、アイコンが同期されたマシンへ自動インストールされる。プロファイル管理機能が改善され、GoogleユーザーはGoogle Lensによる画像内検索が利用可能になった。一方で、Perplexityの「AI駆動の回答エンジン」がアドレスバーに統合された。32ビットLinux版の提供は終了したが、T2/SDEプロジェクトが24時間以内に独自の32ビット版Firefox 145をリリースした。
From:
Mozilla’s Firefox 145 is heeeeeere: Buffs up privacy, bloats AI
【編集部解説】
今回のFirefox 145で最も注目すべきは、ブラウザの「プラットフォーム化」が新たな段階に入ったことです。PDFへのコメント機能は、Adobe Acrobat ProやOkularといった専門ツールでしか実現できなかった共同作業環境を、ブラウザ単体で完結させる試みといえます。
この機能により、PDFファイルをダウンロードせずにブラウザ上で直接レビューやフィードバックを行えるようになりました。テキスト選択後に右クリックでコメントを追加でき、すべてのコメントはサイドバーで一覧管理されます。リモートワークが定着した現在、ドキュメントベースのコラボレーションツールとしてのブラウザの重要性は増しています。
一方で、Perplexityの統合は賛否が分かれる決定です。Mozillaは10月にまず米国、英国、ドイツでテストを開始し、肯定的なフィードバックを受けてグローバル展開を決定しました。
しかしPerplexityは、Amazonから「ひどい顧客」と批判されるなど、ウェブスクレイピングの倫理性について議論を呼んでいます。
Mozillaはユーザーの個人データを共有・販売しないというPerplexityの方針を評価していますが、AI検索エンジンそのものが抱える「情報の盗用」という構造的問題は解消されていません。幸いなことに、この機能は設定から簡単に削除できます。
プライバシー面では、フィンガープリンティング保護の強化が実装されました。これはウェブサイトがブラウザの設定やデバイス情報からユーザーを識別する手法を防ぐもので、Enhanced Tracking Protectionがデフォルトで厳格モードになっています。
32ビットLinux版の廃止は一定のユーザーに影響を与えますが、T2/SDEプロジェクトが24時間以内に独自ビルドを公開したことは、オープンソースコミュニティの即応性を示す好例といえるでしょう。
【用語解説】
フィンガープリンティング
ウェブサイトがユーザーのブラウザ設定、デバイス情報、画面解像度、インストールされたフォント、グラフィックカードの描画方法などを組み合わせて個人を識別する追跡技術である。Cookieを削除してもユーザーを追跡できるため、プライバシー保護の観点から問題視されている。
Enhanced Tracking Protection (ETP)
Firefoxに搭載されているトラッキング防止機能で、既知のトラッキングスクリプトやフィンガープリンティングスクリプトをブロックする。標準、厳格、カスタムの3つのモードがあり、厳格モードではより強力な保護が提供される。
LLM(Large Language Model)
大規模言語モデルの略称で、膨大なテキストデータで学習された人工知能モデルである。自然言語の理解と生成が可能で、ChatGPTやPerplexityなどのAI検索エンジンの基盤技術となっている。
プロファイル管理
ブラウザ内で複数の独立した設定環境を作成・管理する機能である。異なるブックマーク、拡張機能、履歴、パスワードを持つ複数のプロファイルを切り替えて使用でき、仕事用と個人用などの使い分けが可能になる。
【参考リンク】
Firefox公式サイト(外部)
Mozillaが提供する無料のウェブブラウザ。プライバシー保護とカスタマイズ性を重視し、Windows、Mac、Linux、モバイル版が提供されている。
Mozilla公式サイト(外部)
Firefoxを開発する非営利団体のコーポレートサイト。インターネットの健全性とプライバシー保護を使命とし、ブラウザ以外にもVPNサービスなどを提供。
Perplexity AI公式サイト(外部)
2022年設立のAI検索エンジンサービス。回答に引用元を明示し、OpenAI、Anthropic、Metaなどの複数のLLMモデルを活用している。
Firefox 145リリースノート(外部)
Firefox 145の公式リリースノート。PDFコメント機能、プライバシー保護強化、プロファイル管理改善などの新機能の詳細を掲載。
【参考記事】
Firefox 145 official release, adding comments to PDF(外部)
GIGAZINEによるFirefox 145のリリース記事。PDFコメント機能の使い方やフィンガープリンティング保護の強化について詳細に解説。
Mozilla’s Firefox adds Perplexity’s AI answer engine as a search option(外部)
TechCrunchによる記事。Mozillaが米英独でテストを開始し、肯定的フィードバックを受けてグローバル展開を決定した経緯を報じている。
【編集部後記】
ブラウザに求めるものは人それぞれですが、Firefox 145の機能を見ていると、「ツールとしてのブラウザ」から「プラットフォームとしてのブラウザ」への進化を感じます。PDFに直接コメントを残せる機能は、リモートワークをされている方にとって便利かもしれませんし、フィンガープリンティング保護の強化は、普段何気なく使っているウェブサイトから自分がどう見られているかを改めて考えるきっかけになるのではないでしょうか。一方でAI統合については賛否がありますね。みなさんは普段のブラウジングで、どんな機能があると嬉しいですか?
