ElevationSpace「ELS-RS」地球低軌道で革新を目指す高頻度物資回収システム

ElevationSpace「ELS-RS」地球低軌道で革新を目指す高頻度物資回収システム

株式会社ElevationSpaceは2025年11月14日、宇宙戦略基金事業(第二期)において「高頻度物資回収システム技術」の実施機関として採択されたと発表した。

同社は宮城県仙台市に本社を置き、代表取締役CEOは小林稜平氏である。研究代表者は藤田和央氏が務める。本採択により、地球低軌道の宇宙ステーションなどの有人拠点から実験サンプルや製造物資を地球に回収するサービス「ELS-RS」のシステム開発を進める。文部科学省の公表によると、本技術開発テーマの支援総額は25億円程度、支援期間は最長で3年程度とされている。

同社は2023年4月よりJAXAとJ-SPARCのもと「地球低軌道拠点からの高頻度再突入・回収事業」に関する共創活動を2年間実施している。2030年のISS運用終了後を見据えて地球低軌道利用サービス市場は拡大が見込まれており、JAXAは2040年代に3兆円規模になる可能性を示している。

From: 文献リンク宇宙戦略基金事業「高頻度物資回収システム技術」に採択

【編集部解説】

今回のElevationSpaceによる「高頻度物資回収システム技術(ELS-RS)」の宇宙戦略基金事業採択は、宇宙産業における新時代の幕開けを象徴する出来事です。国際宇宙ステーションの運用終了が近づく中、「ポストISS時代」には地球低軌道の有人拠点が民間主導の施設に移行することが計画されており、そのインフラとなる高頻度回収サービスは国内外の宇宙環境利用に不可欠です。従来は、ISSからサンプル等を地球に持ち帰る輸送手段は年3回程度に限られ、日本国内での即時解析も難しい状況が続いていました。被験サンプルは長期間軌道上に留まり、劣化リスクや研究タイミングの制約も大きな課題となっていました。

ElevationSpaceの「ELS-RS」は、これまで有人宇宙船に依存していた物資回収を、小型無人カプセルを使って高頻度かつ低コストで実現する点が特長です。実験サンプルや製造物資を研究者が望むタイミングですぐに回収し、データの即時活用や産業応用へつなげることが狙いとされています。JAXAとのJ-SPARCを通じた共創活動や、Axiom Spaceなどとの国際連携も進められており、グローバルに競争が激化する地球低軌道利用サービス市場で、日本発イノベーションの存在感を強めつつあります。

技術面では、大気圏再突入時の熱制御システムや精密なランディング、国内即納体制構築が大きな挑戦となっています。一方で、衛星や宇宙ステーションの将来的な自律運用化と連動し、多様な研究・開発が民間主導で活発化する見通しです。実験だけでなく、将来的には医療用試料、素材開発、データストレージ、さらには月・火星探査への応用も期待されています。

今回の公的資金による後押しは、日本の宇宙輸送インフラの「自立性」向上にも直結します。国際協調や世界市場での勝負を見据えたとき、この分野での技術とサービスの積み重ねは大きな意味を持ちます。国内外で動き出した類似事例と比較しても、民間革新のスピード感と地球規模での課題解決力が、日本の宇宙ビジネスを次のレベルへ引き上げるきっかけとなるでしょう。今後、より広範な用途、さらなる多頻度化、迅速性向上を目指し、日本発の技術進化が続くことが注目されます。

【用語解説】

地球低軌道(LEO)
地表高度160〜2,000km付近の衛星軌道。ISSは約400kmで周回している。

ポストISS時代
2030年の国際宇宙ステーション退役後。民間宇宙ステーションによる利用へ移行。

宇宙戦略基金
総額1兆円規模で民間の宇宙技術開発を支援する日本政府の基金。JAXA等が運用。

【参考リンク】

ElevationSpace公式サイト(外部)
仙台発ベンチャーが開発する地球低軌道物資回収サービスや企業概要、ニュースなどを掲載

Axiom Space公式サイト(外部)
世界初の民間商業宇宙ステーション「Axiom Station」の建設や宇宙サービスを紹介している

JAXA宇宙戦略基金(外部)
日本政府とJAXAが主導する大規模宇宙技術開発支援制度の公式情報を網羅

J-SPARC(JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ)(外部)
JAXAと民間が共創する新事業共創プログラムの詳細や実績を掲載

ELS-RSサービス詳細ページ(外部)
高頻度物資回収サービス「ELS-RS」のサービス内容や仕組み・技術のイメージ

【参考記事】

Axiom Space, ElevationSpace Sign Agreement to Assess High-Frequency Atmospheric Reentry and Recovery Services(外部)
Axiom SpaceとElevationSpaceが2025年10月に締結した基本合意と今後の運用計画

Japan releases Phase 2 of its ¥1 trillion, 10-year Strategic Space Fund(外部)
日本宇宙戦略基金の第二期予算の規模・配分や主な採択テーマに関する詳細な解説

Cargo Reentry Vehicle Market Research Report 2033(外部)
グローバルなカーゴリエントリー機市場の規模、将来予測や地域別シェア・成長率等を分析

ESA LEO Cargo Return Phase 2 to Proceed Without Geo-Return(外部)
欧州宇宙機関によるLEOカーゴリターンサービスに係る2030年デモ・企業契約と国際動向

【編集部後記】

宇宙の物資回収技術が、今まさに大きな変革を迎えています。地球低軌道からサンプルや物資をタイムリーに回収できる仕組みが実現すると、今後の宇宙研究や産業の可能性はさらに広がるはずです。みなさんは、もし自分自身が研究開発者や企業のメンバーだったら、宇宙でどんな実験や挑戦をしてみたいですか?身近な疑問や夢が、これから現実になるかもしれない――そう思うだけでもワクワクします。どんな分野に興味がありますか?皆さんの声もぜひお聞かせください。

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