ドン・キホーテ運営PPIH、卵子凍結補助導入 保管費全額負担

ドン・キホーテ運営PPIH、卵子凍結補助導入 保管費全額負担

株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は2025年11月25日より、国内グループ会社の女性社員を対象に卵子凍結に関わる費用補助制度を福利厚生として導入した。セルソース株式会社が提供する「卵子凍結あんしんバンク™」と提携し、40歳以下の女性社員が対象となる。補助内容は卵子凍結保管費用全額(初回輸送分)と卵子採卵費用の補助(上限40万円、一定条件を満たす場合)である。PPIHグループが2023年8月に実施した女性社員の意識調査では、回答者1,071名中25.1%が卵子凍結に関心を持ち、そのうち約7割が20代・30代だった。制度導入の背景には、キャリア形成期と妊娠・出産適齢期が重なる時間的制約という課題がある。

From: 文献リンクPPIHグループの新たな福利厚生に卵子凍結に関わる費用補助がスタート!

【編集部解説】

今回のPPIHの発表は、日本企業における卵子凍結補助という新しい福利厚生の広がりを象徴する動きです。サイバーエージェントが2022年7月に上限40万円の補助制度を導入し、パナソニック コネクトが2023年10月に34歳以下を対象に同様の制度を開始するなど、先進的な企業が相次いで導入しています。PPIHが保管費用の全額補助に踏み込んだ点は特筆すべきでしょう。

卵子凍結の実効性については、データを冷静に見る必要があります。日本産科婦人科学会の2020年データでは、凍結卵子を用いた移植1回あたりの妊娠率は29.0%です。融解後の卵子生存率は80~95%、受精率は60~80%程度とされ、融解卵子1個あたりの妊娠率は4.5~12%という報告もあります。つまり、35歳以下で10個の卵子を凍結した場合、約60%の確率で出産が期待できる一方、35歳以上では約30%まで低下します。

この制度が広がる背景には、日本政府の少子化対策があります。2026年度からこども家庭庁が卵子凍結に1回あたり最大20万円の補助を開始する予定で、東京都は18~39歳を対象に最大20万円の補助を実施しています。需要は非常に高く、東京都の制度には7,000人以上が情報登録し、1,800人が申請しました。

ただし、企業による卵子凍結補助には慎重な議論も必要です。シンガポールの専門家は、高額な費用ゆえに一部のエリート社員に限定される不公平性、医学的理由のない侵襲的処置への誘導、出産を先延ばしにさせる隠れた圧力の可能性を指摘しています。制度があることで、女性社員が「今は子どもを持つべきでない」という無言のメッセージを受け取らないか、企業側は配慮が求められます。

一方で、キャリア形成期と出産適齢期の重なりという構造的問題に対し、選択肢を増やす意義は大きいでしょう。重要なのは、卵子凍結が「保険」であって「保証」ではないことを理解した上で、個人が主体的に判断できる環境を整えることです。

【用語解説】

社会的卵子凍結(ノンメディカル卵子凍結)
医学的な理由(がん治療など)ではなく、キャリア形成やライフプランの都合で、将来の妊娠に備えて健康な卵子を凍結保存すること。若いうちに採取・凍結することで、年齢による妊孕性の低下に備える選択肢となる。

妊孕性(にんようせい)
妊娠する能力のこと。女性の場合、加齢とともに卵子の数と質が低下し、特に35歳以降は妊孕性が急速に低下する。卵子は生まれた時から体内にあり、新たに作られることはない。

セルソース株式会社
再生医療・細胞医療の分野で事業を展開する企業。自己脂肪由来幹細胞(ASC)を用いた再生医療の提供や、卵子・精子の凍結保管サービス「卵子凍結あんしんバンク」などを手がける。

【参考リンク】

株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)(外部)
ドン・キホーテを中核とする小売グループの持株会社。女性社員向けに卵子凍結費用補助を福利厚生として導入した。

【参考記事】

Program to Provide Up to ¥200,000 in Subsidies Per Egg Freezing Procedure(外部)
日本政府が2026年度から卵子凍結に最大20万円の補助を開始する計画を報じる記事。

More women in Japan turn to egg freezing amid increase in subsidies(外部)
日本における卵子凍結需要の増加と自治体による補助制度の拡大について詳しく解説。

Tokyo Overwhelmed by High Demand for New Fertility Subsidy(外部)
東京都の卵子凍結補助制度に7,000人以上が登録し、1,800人が申請した高い需要を報じる。

卵子凍結で妊娠できる確率はどのくらいですか?(外部)
日本産科婦人科学会のデータに基づき、卵子凍結による妊娠率を年齢別に詳しく解説。

費用、妊娠率を解説します。(外部)
凍結卵子を用いた移植1回あたりの妊娠率29.0%など、具体的な数値データを提供。

【編集部後記】

キャリアと出産、どちらも大切にしたいと考える方にとって、卵子凍結は新しい選択肢のひとつかもしれません。ただ、凍結した卵子が将来の妊娠を必ず保証するわけではないことも知っておく必要があります。企業の福利厚生として広がりつつあるこの制度、あなたはどう感じますか?「選択肢が増えてよかった」と思う方もいれば、「出産を先延ばしにさせる圧力では」と感じる方もいるでしょう。大切なのは、正確な情報をもとに自分で判断できる環境があることではないでしょうか。

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