マツダ株式会社は、新型バッテリーEV「MAZDA CX-6e」を欧州および豪州などの市場に導入すると発表した。1月9日(現地時間)にベルギー・ブリュッセルモーターショーで世界初公開され、欧州では今夏、豪州では年内の発売を予定している。
「MAZDA CX-6e」は昨年の上海モーターショーで発表した「MAZDA EZ-60」をベースに開発され、「MAZDA 6e」に続く協業バッテリーEVラインアップの第2弾となる。協業パートナーは重慶長安汽車股份有限公司で、クロスオーバーSUVとして開発された。デザインコンセプトは「FUTURE + SOUL x MODERN」で、音声・ジェスチャー認識、最新運転支援、デジタルサイドミラーなどを搭載する。欧州市場では昨年9月に発売した「MAZDA 6e」が累計7,000台以上を販売している。
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マツダ、新型バッテリーEV 「MAZDA CX-6e」 を世界初公開
【編集部解説】
マツダがブリュッセルモーターショーで発表した「CX-6e」は、日本の中堅自動車メーカーがEV時代をどう生き抜くかという戦略の縮図といえます。この車両は中国の重慶長安汽車が開発したEPA1プラットフォームをベースとしており、マツダが担当したのはデザインと走行性能のチューニング、そしてブランド価値の付加です。
注目すべきは、マツダがこの協業モデルを「暫定的な解決策」として位置づけている点です。同社は当初2025年に独自開発のEVプラットフォームを投入する計画でしたが、これを2027年、そして2028年へと2度延期しています。理由は明確で、EV技術の急速な進化に対して、限られたリソースでは追従しきれないという現実的な判断です。
欧州市場では、昨年9月に発売されたセダンタイプの「6e」が約4カ月で7,000台を販売しました。月平均1,750台という数字は決して華々しいものではありませんが、マツダにとっては欧州のCO₂規制をクリアするための重要な実績となっています。CX-6eの投入により、より需要の高いSUVセグメントをカバーし、規制対応力を強化する狙いがあります。
技術的には、78kWhのLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーを採用している点が興味深いところです。LFPバッテリーはニッケルやコバルトを使用しないため環境負荷が低く、熱安定性に優れ、コストも抑えられます。一方で、エネルギー密度ではNMC(ニッケル・マンガン・コバルト)バッテリーに劣るため、航続距離は約480km(WLTP基準)と、テスラ モデルYやBMW iX3といったライバルと比較すると控えめな数値にとどまっています。
特筆すべきは26インチの巨大タッチスクリーンです。これは運転席と助手席で別々の情報を表示できるデュアルゾーン設計で、従来のメーターパネルを廃止し、ヘッドアップディスプレイに一本化しています。音声認識やジェスチャーコントロールなど、長安汽車が得意とする「知能化技術」が惜しみなく投入されており、日本メーカーが苦手としてきた領域での技術補完が明確に表れています。
日本市場への投入予定がない点も重要です。これは単なる右ハンドル対応の遅れではなく、マツダの戦略的判断を示しています。日本市場ではまだEVへの移行圧力が欧州ほど強くなく、マツダは国内では引き続きハイブリッドや内燃機関車を中心に展開する方針です。一方で欧州では2035年以降の内燃機関車販売禁止が迫っており、EVラインアップの拡充が喫緊の課題となっています。
この協業モデルには潜在的なリスクも存在します。中国製EVへの依存度が高まることで、地政学的リスクや貿易摩擦の影響を受けやすくなります。実際、米国市場への投入が見送られたのは、中国製EVに対する関税措置を考慮したためと見られています。
しかし、より大きな視点で見れば、この動きは自動車産業の構造変化を象徴しています。かつて日本メーカーが内燃機関技術で世界をリードしたように、今や中国メーカーがEVの電動化技術やバッテリー技術、そしてソフトウェア技術で優位に立っています。マツダの選択は、この現実を認識したうえでの賢明な判断といえるでしょう。
2028年、マツダは独自のEVプラットフォームを投入する計画です。当初は2025年、その後2027年と予定されていましたが、EV技術の急速な進化と限られたリソースを理由に再延期されました。このプラットフォームではパナソニックとの協業でバッテリーを調達する予定です。それまでの期間、長安汽車との協業モデルは市場での存在感を維持し、顧客データを蓄積し、技術を学ぶための「橋渡し」としての役割を果たすことになります。
CX-6eは、日本の自動車メーカーが直面する厳しい現実と、その中での現実的な生存戦略を体現した一台といえます。
【用語解説】
バッテリーEV(BEV)
Battery Electric Vehicleの略。内燃機関を持たず、バッテリーに蓄えた電力のみで走行する電気自動車。充電インフラへの依存度が高い一方、走行時のCO₂排出がゼロとなる。
EPA1プラットフォーム
中国の長安汽車が開発した電動車向けモジュラープラットフォーム。純電動(BEV)、レンジエクステンダー(EREV)、燃料電池(FCEV)の3つのパワートレインに対応できる柔軟性を持つ。開発に5年を要し、Deepalブランドなどで採用されている。
LFP(リン酸鉄リチウム)バッテリー
リン酸鉄をカソード材料に使用するリチウムイオン電池。ニッケルやコバルトを含まないため環境負荷が低く、熱安定性に優れ、コストも抑えられる。エネルギー密度ではNMCバッテリーに劣るが、長寿命という特徴を持つ。
NMC(ニッケル・マンガン・コバルト)バッテリー
ニッケル、マンガン、コバルトを含む三元系リチウムイオン電池。LFPバッテリーと比較してエネルギー密度が高く、同じ重量でより長い航続距離を実現できるが、コストは高い。
WLTP基準
Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedureの略。世界統一試験サイクルと呼ばれ、実際の走行に近い条件で燃費や航続距離を測定する国際基準。欧州で採用されている。
ヘッドアップディスプレイ(HUD)
運転に必要な情報をフロントガラスや専用の透明パネルに投影する表示装置。ドライバーが視線を大きく移動させることなく情報を確認できるため、安全性が向上する。
クロスオーバーSUV
乗用車のプラットフォームをベースに、SUVの外観や機能性を持たせた車両。本格的なオフロード走行を想定したSUVと比較して、舗装路での乗り心地や燃費性能に優れる。
デュアルゾーン設計
1つのディスプレイを複数のゾーンに分割し、運転席と助手席でそれぞれ異なる情報を表示できる設計。運転者がナビゲーションを見ている間、同乗者がエンターテインメントコンテンツを楽しむといった使い方が可能。
【参考リンク】
マツダ株式会社(外部)
広島に本社を置く日本の自動車メーカー。「人馬一体」の走りを追求し、独自のデザイン哲学「魂動デザイン」で知られる。
重慶長安汽車股份有限公司(外部)
中国重慶に本拠を置く大手自動車メーカー。EPA1プラットフォームなどの電動化技術に強みを持つ。
Brussels Motor Show 2026(外部)
ベルギーで開催される国際モーターショー。欧州で重要性を増している自動車展示会の一つ。
Tesla Model Y(外部)
テスラが製造する電動SUV。CX-6eの主要な競合車種の一つ。航続距離や加速性能で優位性を持つ。
【参考記事】
Mazda unveils battery-powered CX-6e at Brussels Motor Show(外部)
マツダCX-6eが長安汽車のEPA1プラットフォームをベースに開発され、78kWhのLFPバッテリーを搭載することを報じている。
Stylish Mazda CX-6e electric SUV revealed ahead of UK launch(外部)
CX-6eの詳細スペックを報告。258馬力のモーター、26インチタッチスクリーン、195kW急速充電対応などを掲載。
All-new Mazda CX-6e unveiled at Brussels Motor Show(外部)
マツダ欧州社長のコメントを含む公式発表。CX-6eがマツダの電動化戦略を強化する役割について説明。
Mazda delays in-house EV platform again, now to 2028(外部)
マツダが独自開発のEVプラットフォーム投入を2028年に再延期。技術進化の速さとリソース不足を理由としている。
Mazda Readies New EV Platform but Shifts to a “Multi-Solution” Strategy(外部)
マツダの電動化投資が133億ドルから100億ドルに削減され、パートナー企業への依存度を高める戦略転換を報じている。
Mazda CX-6e Promises Pure Electric Jinba Ittai(外部)
CX-6eが中国ではEZ-60として販売され、長安汽車のDeepal S07とプラットフォームを共有していることを詳述。
Mazda outlines electrification strategy(外部)
マツダがEVバッテリーへの投資を7500億円から半減させ、協業を通じて開発投資を40%削減する計画を報じている。
【編集部後記】
マツダのCX-6eは、かつて技術で世界をリードした日本メーカーが、今度は中国企業のプラットフォームを借りてEVを作るという、少し複雑な感情を抱かせる一台かもしれません。しかし、これは単なる技術力の逆転なのでしょうか。それとも、変化の激しい時代における賢明な選択なのでしょうか。みなさんは、自動車産業のこうした構造変化をどのように捉えますか。そして、日本のものづくりの未来について、どんな可能性を感じますか。ぜひSNSで、みなさんの考えを聞かせてください。

