完全自律手術ロボット、ChatGPT技術で胆嚢摘出を実現 – 医療革命の新段階へ

完全自律手術ロボット、ChatGPT技術で胆嚢摘出を実現 - 医療革命の新段階へ

ジョンズ・ホプキンス大学、スタンフォード大学、コロンビア大学の研究チームが、AI訓練されたロボットによる完全自律胆嚢摘出手術に成功した。

2025年7月9日にThe Guardianが報じた。豚の死体臓器を使用した実験で8回の手術を実施し、100%の成功率を記録した。手術は17のステップで構成され、ロボットは5分強で完了した。各手術でロボットは平均6回の軌道修正を人間の介入なしに実行した。

ChatGPTやGoogle Geminiと同じトランスフォーマー技術を基盤とするニューラルネットワークを使用している。研究を主導したジョンズ・ホプキンス大学機械工学助教授のアクセル・クリーガーは、高レベルの自律性での外科手術実行が可能になったと発表した。英国王立外科医師会のヌハ・ヤシン氏とロボット手術専門家のジョン・マクグラスは研究結果を評価した。
現在イングランドのNHSでは年間7万件のロボット手術が実施されているが、ほぼ全てが人間の完全制御下である。NHSは10年以内に内視鏡手術の90%をロボット支援で実行する計画を発表している。研究結果はScience Robotics誌に掲載された。人間での試験開始は10年以内と予測されている。

From:文献リンクRobot surgery on humans could be trialled within decade after success on pig organs

【編集部解説】

今回のジョンズ・ホプキンス大学の研究は、医療ロボティクスの分野において真の転換点を示しています。これまでの手術ロボットは人間の操作に完全に依存していましたが、今回の成果は「自律的な判断」を行うロボットの実現可能性を証明しました。

技術的な革新性について

この研究で使用されたAI訓練された手術ロボットシステムは、ChatGPTやGoogle Geminiと同じトランスフォーマー技術を基盤としています。単純な動作の繰り返しではなく、リアルタイムで状況を判断し、異なるツールを要求し、予期しない状況に適応する能力を持っています。

従来の手術ロボットが「決められたルートを走る自動車」だとすれば、今回のシステムは「あらゆる道路状況に対応できる自動運転車」に例えられます。これは医療技術における根本的なパラダイムシフトを意味しています。

現実的な課題と限界

ただし、豚の死体臓器での実験と実際の人間の手術には大きな隔たりがあります。生きた患者では呼吸による臓器の動き、予期しない出血、電気凝固による煙、カメラレンズの曇りなど、数多くの変数が存在します。

英国王立外科医師会のヌハ・ヤシン氏が指摘するように、人間での臨床試験に向けては慎重な段階的アプローチが必要です。安全性の確保が最優先課題となります。

医療システムへの影響

NHSが発表した10年計画では、10年以内に年間の内視鏡手術の90%をロボット支援で実施する予定です。これは現在の5分の1から大幅な増加を意味します。

自律手術が実現すれば、熟練外科医が複数の手術を同時に監督することが可能になり、医師不足の解決策となる可能性があります。また、手術の標準化により、地域や病院による技術格差の解消も期待されます。

規制と倫理的課題

現在の手術ロボットは人間の完全制御下で動作しています。完全自律手術の実現には、新たな規制フレームワークの構築が不可欠です。

医療事故の責任の所在、患者の同意のあり方、ロボットの判断に対する医師の最終的な責任など、法的・倫理的な課題が山積しています。

長期的な展望

この技術は単なる効率化を超えて、医療の根本的な変革をもたらす可能性があります。世界最高レベルの外科医の技術を大規模に複製できれば、医療格差の解消や発展途上国での高度医療の提供が現実となります。

一方で、医師の役割の変化、雇用への影響、技術への過度な依存といったリスクも慎重に検討する必要があります。テクノロジーと人間の協働による新しい医療の形を模索していく段階に入ったと言えるでしょう。

【用語解説】

AI訓練ロボット人工知能技術を用いて学習能力を持つロボット。映像データから手術手順を学習し、自律的に判断・実行する能力を持つ。

トランスフォーマー技術自然言語処理で使われる機械学習アーキテクチャ。文脈を理解し、複雑なパターンを学習する能力に優れている。ChatGPTなどの生成AIと同じ技術基盤である。

内視鏡手術(キーホール手術)小さな切開部からカメラと手術器具を挿入して行う低侵襲手術。従来の開腹手術と比較して患者の負担が少ない。

胆嚢摘出術胆石症や胆嚢炎の治療で行われる手術。消化を助ける胆汁を貯蔵する胆嚢を摘出する一般的な外科手術である。

Science Roboticsロボット工学分野の査読付き学術誌。Science誌の姉妹誌として2016年に創刊され、ロボティクス研究の最新成果を発表している。

【参考リンク】

ジョンズ・ホプキンス大学(外部)米国メリーランド州ボルチモアの私立研究大学。医学・工学分野で世界トップクラスの研究実績を持つ。

英国王立外科医師会(外部)1800年設立の英国外科医師専門団体。外科医の教育・資格認定・研究支援を行う。

NHS England(外部)英国の国民保健サービス。世界最大の公的医療制度の一つでロボット手術普及を推進。

ジョンズ・ホプキンス大学 LCSR研究室(外部)計算センシング・ロボティクス研究所。医療ロボットや画像誘導手術の革新的研究を実施。

【参考記事】

Robot performs first realistic surgery without human help(外部)ジョンズ・ホプキンス大学公式発表。AI手術ロボットの技術詳細と従来システムとの違いを解説。

A robot shows that machines may one day replace human surgeons(外部)スペイン有力紙による詳細分析。生成AIと機械学習を組み合わせた新システムの技術的背景を解説。

Robot performs realistic gallbladder surgery ‘with 100% accuracy’(外部)英国主要メディア報道。人間での臨床試験への移行における安全性の重要性を強調。

NHSE projects 500k robotic assisted operations a year by 2035(外部)NHS Englandのロボット手術拡大計画詳細。2035年までに年間50万件の目標を発表。

【編集部後記】

今回のロボット手術の話、いかがでしたでしょうか。私たちが生きているうちに、手術室の風景が根本的に変わる可能性があるなんて、正直驚きました。

皆さんはもし自分や大切な人が手術を受けることになったとき、人間の外科医とロボット、どちらに任せたいと思われますか?技術の進歩は素晴らしいものの、やはり人間の温かさや判断力も捨てがたいですよね。

この技術が実用化されれば、地方の病院でも都市部と同じレベルの手術が受けられるようになるかもしれません。医療格差の解消という視点で考えると、とても希望的な話だと感じています。皆さんはこの変化をどう受け止められますか?
ぜひご意見をお聞かせください。

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