元米陸軍中佐、出会い系アプリのロマンス詐欺で国家機密漏洩 – 10年の禁錮刑に直面

元米陸軍中佐、出会い系アプリのロマンス詐欺で国家機密漏洩 - 10年の禁錮刑に直面

デイビッド・フランクリン・スレイターは64歳の元米陸軍中佐で、2020年に退役後、2021年からネブラスカ州オマハの米戦略軍で民間契約職員として勤務していた。2022年2月から4月にかけて、外国の出会い系アプリでウクライナ人女性と名乗る相手に、ロシアのウクライナ侵攻に関する軍事目標やロシア軍の能力などの機密情報を提供した。2025年7月11日に国家防衛情報の開示共謀罪で有罪を認めた。判決は2025年10月8日に予定されており、最大10年の禁錮刑と最大25万ドルの罰金が科される可能性があるが、司法取引により5年から7年の刑期が推奨されている。相手は「私の秘密情報愛」「私の秘密エージェント」などと呼びかけ、NATOとバイデンの秘密計画について質問していた。

From:文献リンクDating app scammer cons former US army colonel into leaking national secrets

【編集部解説】

このデイビッド・スレイター事件は、現代のサイバー脅威における「ヒューマンファクター」の危険性を浮き彫りにした象徴的な事案です。特に注目すべきは、高度な軍事訓練を受けた専門家でさえ、感情的操作によって機密情報を漏洩してしまう現実でしょう。

ソーシャルエンジニアリング攻撃の進化

従来のサイバー攻撃といえば、マルウェアやハッキングといった技術的手法が主流でした。しかし本件では、恋愛感情という人間の根源的な欲求を悪用した「ロマンス詐欺」が国家機密レベルの情報窃取に活用されています。

相手は「私の秘密情報愛」「私の秘密エージェント」といった親密な呼びかけを巧妙に織り交ぜながら、「愛するデイブ、NATOとバイデンには私たちを助ける秘密計画があるの?」という具合に、自然な会話の流れで機密情報を引き出していました。

軍事機密漏洩の深刻な影響範囲

スレイターは職務上、米国の機密情報分類で最高レベルにあたるTS//SCI(極秘//機密区分情報)を含むブリーフィングに出席していました。彼が漏洩したとして有罪答弁で認めたのは、ロシア軍の能力分析や軍事目標に関する**「秘密(Secret)」レベルの国防情報です**

これらの情報が敵対国に渡った場合、進行中の作戦計画の見直しを余儀なくされたり、情報の入手元である人的・技術的ソースが危険に晒されたりするなど、米軍および同盟国の戦略全体に深刻な影響を与える可能性があります。

デジタル時代の新たな脅威モデル

興味深いのは、この攻撃が「外国の出会い系アプリ」で実行された点です。国境を越えたデジタルプラットフォームでは、相手の正体確認が困難であり、国家レベルのスパイ活動にとって格好の舞台となっています。

従来のスパイ活動は物理的な接触が必要でしたが、デジタル技術により遠隔地からの長期的な関係構築が可能になりました。これにより、敵対国は低リスクで高価値な情報収集を実現できるようになったのです。

規制・セキュリティ体制への影響

この事件を受けて、米国防総省は機密情報へのアクセス権限を持つ職員に対する教育強化や、SNS・出会い系アプリの使用に関するガイドライン見直しを進めると予想されます。

また、民間企業においても、機密情報を扱う従業員のソーシャルメディア活動監視や、定期的なセキュリティ意識向上研修の必要性が高まるでしょう。

長期的な社会への影響

本事件は、デジタル社会における「信頼」の概念を根本的に問い直します。オンライン上での人間関係構築が日常化する中、相手の真の正体を見抜くことはますます困難になっています。

特に、AI技術の発達により、より自然で説得力のある偽装が可能になれば、一般市民も同様の脅威に晒される可能性があります。これは単なる軍事機密の問題ではなく、社会全体のデジタルリテラシー向上が急務であることを示しているのです。

現在進行中のウクライナ戦争という文脈においても、情報戦の重要性が改めて浮き彫りになった事例として、長く記憶されることになるでしょう。

【用語解説】

ソーシャルエンジニアリング
人間の心理的な隙や信頼関係を悪用して、機密情報を不正に取得する手法である。技術的な侵入ではなく、人間の感情や行動パターンを利用する攻撃手法だ。

ロマンス詐欺
出会い系サイトやSNSで恋愛関係を装い、相手の感情を操作して金銭や情報を騙し取る詐欺手法である。被害者は孤独感や愛情欲求を悪用され、判断力を失いやすい。

機密情報(クラシファイド)
国家安全保障に関わる重要な情報で、アクセスが制限される。米国では「機密(Secret)」「極秘(Top Secret)」などの分類がある。

TS//SCI(極秘//機密区分情報)
Top Secret//Sensitive Compartmented Informationの略で、米国の機密情報分類の最高レベルである。特別な認可を受けた者のみがアクセス可能だ。

司法取引(プリーディール)
被告人が有罪を認める代わりに、検察側が起訴内容を軽減したり刑期を短縮したりする制度である。米国の司法制度では一般的だ。

共謀罪
複数の人間が犯罪を計画・準備することを処罰する罪である。実際に犯罪を実行しなくても、計画段階で処罰される。

【参考リンク】

Malwarebytes(外部)
カリフォルニア州に本社を置くサイバーセキュリティ企業で、マルウェア対策製品を提供

米国戦略軍(外部)
ネブラスカ州オフット空軍基地に司令部を置く米軍の統合戦闘コマンド

アメリカ合衆国司法省(外部)
米国の連邦法執行を統括する行政機関で、FBIやDEAなどを傘下に持つ

【参考記事】

User on Dating Site Tricked Ex-Army Officer Into Sharing Defense Secrets(外部)
PCマガジンによる同事件の報道で、64歳の元陸軍中佐の詳細を報じている

Former US Army Lt. Col. sent defense secrets over dating app(外部)
スレイターが2025年7月11日に有罪を認めた詳細を報じているサイバーニュース記事

【編集部後記】

この事件を読んで、皆さんはどのようなことを感じられたでしょうか?私たちの日常にも、実は似たような「心の隙」が潜んでいるのかもしれません。

出会い系アプリやSNSを利用している方も多いと思いますが、相手の正体を見抜く確実な方法はあるのでしょうか?また、身近な人が孤独感から判断を誤りそうになったとき、どのように声をかければよいのでしょう?

テクノロジーが人間関係を豊かにする一方で、新たな脅威も生み出しています。皆さんの体験談やご意見を、ぜひSNSでシェアしていただけませんか?私たちinnovaTopia編集部も、一緒に考えていきたいと思います。

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