GoogleとWestinghouse Electric Companyが、AIツールHiVEとberthaを活用した原子力発電所建設の効率化で提携を発表した。同システムは75年間の原子力データに基づき構築され、AP1000、AP300、eVinciの各原子炉モデルの建設加速と運用最適化を目指す。Westinghouse暫定CEOのDan Sumnerは、AP1000が現在利用可能な唯一の完全ライセンス取得済み建設準備完了モジュラー原子炉であると強調した。現在、AP1000は世界で6基が商業運転中(米国2基、中国4基)で、さらにポーランド3基、ブルガリア2基、ウクライナ9基が計画されている。
GoogleはBrookfield Asset Managementと30億ドル規模の20年間水力発電電力購入契約を締結し、ペンシルベニア州のHoltwoodとSafe Harbor水力発電施設から3,000MW供給を確保した。この契約はPJMとMISO電力市場でのGoogle事業を支援する。両社はWestinghouse WNEXUSデジタルプラント設計プラットフォームとGoogle Cloud技術を組み合わせ、AP1000モジュラー建設作業パッケージの自動生成と最適化の概念実証を完了した。
From:Google plugs AI into nuclear reactor biz – what could possibly go wrong?
【編集部解説】
このニュースは、AI時代のエネルギー問題に対する画期的なアプローチを示しています。GoogleとWestinghouseの提携は、単なる技術連携を超えて、AI開発によって増大する電力需要を、AI自身が解決に導く「循環型イノベーション」の実現を目指しています。
HiVEとberthaの革新性について
Westinghouseが開発したHiVE(Highly Intelligent Virtual Engineer)システムは、原子力分野では初の包括的な生成AIシステムです。特に興味深いのは、大規模言語モデル「bertha」の名称が、1893年に米国初の女性機械工学士となったBertha Lammeに由来し、Westinghouseが雇用した最初の女性エンジニアでもあることです。
これらのシステムは100年以上の原子力データを基盤としており、従来の汎用AIとは根本的に異なる「原子力特化型AI」として設計されています。
建設効率化の具体的メカニズム
今回の提携で特に注目すべきは、AP1000原子炉の「モジュラー建設作業パッケージ」の自動生成機能です。これは、複雑な原子炉建設プロセスを標準化されたモジュール単位に分解し、AIが最適な建設順序や資材配置を自動計算するシステムです。
従来の原子力発電所建設は、個別案件ごとに設計・建設プロセスが異なり、これが工期遅延やコスト増大の主要因でした。しかし、AIによる標準化により、建設プロセスが「再現可能」なものに変わる可能性があります。
AI開発と電力需要の逆説的関係
The Register記事が指摘する「皮肉」は、実はより深刻な構造的課題を示しています。GoogleのようなAI企業が大量の電力を消費する一方で、その電力問題の解決策もAI技術で模索するという状況は、現代のテクノロジー発展における根本的ジレンマを象徴しています。
Deloitte Insightsの予測によれば、今後10年間でAIデータセンターの電力需要は30倍に増加する可能性があり、これは単なる電力不足を超えて、エネルギーインフラ全体の再構築を迫る規模です。
原子力ルネッサンスへの影響
AP1000は現在、世界で6基が商業運転中(米国2基、中国4基)で、さらに14基が建設・計画段階にあります。この提携により、建設期間の短縮とコスト削減が実現すれば、停滞していた米国の原子力産業に新たな活力をもたらす可能性があります。
特に、AP300やeVinciといった小型・超小型原子炉への応用は、従来の大型原子炉では困難だった分散型エネルギー供給を可能にします。eVinciは5MWの出力で8年間の運転が可能な設計となっており、データセンターのような特定用途向け電源として、原子力の新しい活用形態を示しています。
潜在的リスクと課題
しかし、重要な懸念点も存在します。AIシステムは「幻覚」と呼ばれる誤情報生成の問題を抱えており、原子力という高度に安全性が要求される分野での活用には慎重な検証が必要です。
また、AIによる建設最適化が人間の専門知識を代替する程度や、システム障害時の対応能力についても、十分な検討が求められます。
規制・政策への影響
この技術革新は、原子力規制委員会(NRC)をはじめとする規制機関にとって新たな課題を提起しています。AI支援による建設プロセスの審査基準や、AI系統の安全性評価方法など、従来の規制枠組みでは対応困難な領域が拡大しています。
長期的視点での意義
この提携は、単なる技術的協力を超えて、「AI時代のエネルギー自立」という新しいパラダイムの出発点となる可能性があります。電力を大量消費するAI技術が、同時に電力問題の解決策も提供するという構造は、持続可能な技術発展の新しいモデルを示唆しています。
特に、Googleが同時に発表したBrookfieldとの30億ドル規模の水力発電契約と組み合わせることで、原子力と再生可能エネルギーの最適な組み合わせをAIが判断する統合エネルギー管理システムの実現も視野に入ります。
この動きは、日本の原子力産業やAI開発企業にとっても重要な示唆を与えており、技術革新と社会実装の新しい可能性を探る上で注目すべき事例といえるでしょう。
【用語解説】
AP1000
Westinghouse Electric Company設計の加圧水型原子炉。出力1,110MWe、157燃料集合体コア、2ループ設計を採用。受動的安全システムを特徴とし、現在世界で6基が商業運転中(米国2基、中国4基)。
AP300
AP1000を小型化した小型モジュラー原子炉(SMR)。AP1000の設計思想を継承しながら、より小規模な電力需要に対応するために開発された次世代原子炉。
eVinciマイクロ原子炉
Westinghouseが米国エネルギー省の資金援助を受けて開発中の超小型原子炉。5MWの出力で8年間の運転が可能な設計。
加圧水型原子炉(PWR)
原子炉圧力容器内の水を高圧に保ち、沸騰させずに蒸気発生器で蒸気を生成する方式の原子炉。世界で最も普及している商用原子炉タイプ。
受動的安全システム
電力や人間の操作に依存せず、重力や自然循環などの物理法則を利用して自動的に原子炉を安全に停止させるシステム。
PJM Interconnection
米国東部13州とワシントンD.C.の電力系統を運用する地域送電機関。北米最大の電力市場を運営している。
MISO(Midcontinent Independent System Operator)
米国中西部15州とカナダ・マニトバ州の電力系統を管理する独立系統運用機関。
電力購入契約(PPA)
電力の売買に関する長期契約。発電事業者と電力購入者の間で、一定期間にわたって電力を供給する条件を定めた契約。
大規模言語モデル(LLM)
大量のテキストデータで訓練された深層学習モデル。自然言語の理解・生成能力を持ち、様々な言語タスクに適用可能。
Bertha Lamme
1893年に米国初の女性機械工学士となった人物。Westinghouseが雇用した最初の女性エンジニアとして知られ、berthaシステムの名称由来。
【参考リンク】
Westinghouse Nuclear(外部)
世界最大の原子力企業。AP1000原子炉の設計・製造を手がけ、HiVE GenAIシステムとberthaを開発。
Google Cloud(外部)
Googleが提供するクラウドコンピューティングサービス。Vertex AI、Gemini、BigQueryなどを含む。
Brookfield Asset Management(外部)
カナダの大手資産運用会社。Googleとの30億ドル規模の水力発電契約を運営。
Nuclear Engineering International(外部)
原子力産業の専門誌。GoogleとWestinghouseの提携について詳細な技術解説を掲載。
【参考動画】
【参考記事】
Google and Westinghouse in AI performance play(外部)
Nuclear Engineering International記事。両社の提携による技術的詳細と業界への影響を専門的視点から分析。
Westinghouse Unveils Pioneering Nuclear Generative AI System(外部)
2024年9月4日発表のWestinghouse公式プレスリリース。HiVE GenAIシステムの初回発表時の詳細。
Westinghouse unveils nuclear-specific generative AI system(外部)
World Nuclear Newsによる報道。HiVEシステムの技術的特徴とBertha Lammeの歴史的背景を詳細に解説。
【編集部後記】
AIが原子力発電所の建設を支援する時代が始まろうとしています。この技術革新を目の当たりにして、皆さんはどのような未来を想像されますか?
私たちの日常生活で当たり前に使っているスマートフォンやクラウドサービスが、実は膨大な電力を消費していることを意識したことはありますか?そして、その電力問題を解決する手段として、AI自身が原子力発電所の建設を最適化するという循環的なアプローチが現実化しつつあります。
この動きが日本の原子力産業や私たちの暮らしにどのような影響を与えるのか、また、AI時代のエネルギー自立について、皆さんはどう考えられますか?ぜひSNSで皆さんの率直な感想や疑問をお聞かせください。一緒に未来のエネルギー像について考えていきましょう。
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