HRL Laboratories機密流出:赤外線ミサイルセンサー3,600件をChenguang Gong被告が窃取

HRL Laboratories機密流出:赤外線ミサイルセンサー3,600件をChenguang Gong被告が窃取

シリコンバレーのエンジニアChenguang Gong(59、米中二重国籍)は2023年3月30日から4月25日にかけ、サンノゼの防衛関連企業の業務用PCから赤外線ミサイル撹乱用センサーや軌道上早期警戒カメラの設計図を含む機密ファイル3,600件超を個人ストレージに転送した。同年4月5日に競合企業へ転職後も1,800件以上を移し替え、被害額は数億ドルと見積もられる。FBIは2025年2月に彼を逮捕・起訴し、7月21日に企業機密窃盗で有罪答弁したため、最長10年の禁錮刑に直面している。

From:文献リンクSilicon Valley engineer admits theft of US missile tech secrets

【編集部解説】

ボーイングとゼネラルモーターズが共同所有するHRL Laboratoriesから赤外線センサーや放射線耐性カメラの設計図3,600件超を持ち出したChenguang Gong被告の有罪答弁は、「中国系⼈材プログラム」による知財流出がいかに現実的な脅威になっているかを示しています。同様のケースは近年増加しており、米司法省は今回の事件を重要視する一方、被害企業側は数億ドル規模の損害と評価しており、技術流出の深刻度が浮き彫りになりました。

今回盗まれた技術は大きく二つあります。第一に、航空機が赤外線誘導ミサイルを撹乱するための受動・能動式センサーです。これは民間機向け「DIRCM(Direction Infrared Counter Measure)」とも構造が近く、将来的にドローンや空飛ぶクルマへ転用される可能性があります。第二に、宇宙空間で核・極超音速ミサイルを早期検知する放射線耐性カメラです。高線量下でも動作するCMOSは、月面探査ローバーや原子力施設の点検カメラなど非軍事用途でも需要が高まっています。

「人材プログラム」は論文・特許の共同出願や研究資金を用意する一方で、帰国やデュアルワークを促し、未公開技術の提出を契約で縛る仕組みが特徴です。Gong被告も2014〜2022年に少なくとも数回応募し、転職のたびに自社技術を”売り込み資料”として流用していました。米国側は近年、関与を自己申告しない研究者への補助金停止やビザ審査強化を進め、企業はゼロトラスト型の内部統制と外部ストレージ遮断を急いでいます。

技術流出が完全に防げない一方で、この事件はポジティブな側面も示唆します。宇宙配備型早期警戒センサーや低可視環境向け赤外線アレイは、災害監視・地球観測・自動運転LIDAR補完など民生応用が期待できます。国防系スタートアップへの投資は増え、量産コスト低下とデュアルユースの加速が見込まれます。

ただし極超音速兵器の迎撃技術は米中だけでなく第三国でも軍拡を呼び込む懸念があり、国際的な輸出管理・透明性ガイドラインの整備が不可欠です。米国はITAR規制を一段と強化し、AI設計ツールやEDAソフトにも波及する可能性があります。開発現場では”オープンサイエンス”と国家安全保障のバランスをどう取るかが長期的課題になるでしょう。

読者の皆さまは、センサーとIC設計という基盤技術が単なる軍事トピックにとどまらず、宇宙ビジネスや自動運転、安全保障リスク管理へと波及していく流れを押さえてください。技術そのものの進化とガバナンスのせめぎ合いが、ここ数年の重要な観察ポイントになります。

【用語解説】

CMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)
相補型金属酸化膜半導体の略称。デジタルカメラやスマートフォンのイメージセンサーに広く使用される半導体技術である。CMOSイメージセンサーは低消費電力で高画質を実現でき、軍事用途では暗視カメラや赤外線センサーに応用される。

CAD(Computer-Aided Design)
コンピュータ支援設計の略称。半導体回路や機械部品の設計図を作成するソフトウェア技術である。今回の事件では、ミサイル追跡システムの回路設計図がCADファイルとして盗まれた。

ASIC(Application-Specific Integrated Circuit)
特定用途向け集積回路の略称。汎用CPUとは異なり、特定の機能に特化して設計された半導体チップである。軍事用センサーや暗号処理など、高度な性能と秘匿性が求められる分野で使用される。

放射線耐性カメラ
宇宙空間の高放射線環境下でも正常に動作するよう設計されたカメラシステム。宇宙配備型の早期警戒衛星や惑星探査機に搭載され、核爆発やロケット発射の検知に使用される。

赤外線誘導ミサイル
目標の熱源(赤外線)を追跡して飛行するミサイル。航空機のエンジンや車両の排熱を狙う。対抗手段として、航空機側は偽の熱源を放射したり、赤外線を撹乱する装置を使用する。

ハイパーソニック車両
音速の5倍以上(マッハ5以上)で飛行する超高速兵器。従来の弾道ミサイルと異なり、大気圏内を機動的に飛行するため探知・迎撃が困難とされる。

【参考リンク】

HRL Laboratories LLC(外部)
ボーイングとゼネラルモーターズが共同所有するマリブの研究開発企業。センサー技術や応用電磁学の分野で軍事・宇宙・自動車向けの先端技術を開発している。

FBI – Chinese Talent Plans(外部)
中国政府が運営する人材プログラムの仕組みと脅威について、FBIが詳細に解説している公式ページ。契約内容や参加者への要求事項を説明している。

US Department of Justice プレスリリース(外部)
Chenguang Gong被告の有罪答弁に関する米司法省の公式発表。事件の詳細と法的措置について記載されている。

Georgetown CSET – Chinese Talent Program Tracker(外部)
ジョージタウン大学安全保障・新興技術センターが運営する中国人材プログラム追跡ツール。数百のプログラムを分類・分析している。

【参考動画】

【参考記事】

Former engineer stole US-made missile technology to help China(外部)
Courthouse Newsによる詳細報道。HRL Laboratoriesが被害企業であることを同社広報担当が確認したことや、被告の保釈金について報じている。

Former engineer pleads guilty to stealing missile tracking blueprints(外部)
CBS News による詳細報道。被告の経歴、盗まれた技術の軍事的意義、判決予定について説明している。事件の背景と影響を分析している。

Chinese-born engineer arrested for theft involving missile sensor technology(外部)
The Washington Timesによる詳細報道。被告の出身地(浙江省)や学歴、中国人材プログラムへの参加経緯について詳述している。

【編集部後記】

今回の事件を知って、皆さんはどう感じられましたか?私たちが日常使っているスマートフォンのカメラセンサーと、軍事用の赤外線センサーが実は同じ技術基盤から生まれているという事実に、正直驚きました。

テクノロジーの「デュアルユース」という側面について、皆さんはどこまでご存知でしょうか?宇宙探査や自動運転に使われる技術が、同時に国防分野でも重要な役割を担っているという現実。この境界線がますます曖昧になる中で、私たちエンジニアや開発者はどのような責任を負うべきなのでしょう。

皆さんの職場や研究環境では、こうした技術流出リスクにどのような対策を取られていますか?
ぜひSNSで教えてください。一緒に考えていければと思います。

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