Copilot+ PC普及率9%、企業のAI機能評価は期待値を下回る現状が明らかに

Copilot+ PC普及率9%、企業のAI機能評価は期待値を下回る現状が明らかに

Microsoftが2024年春に発売開始したCopilot+ PCsが企業市場で苦戦している。CanalysのKieren Jessopが公表した調査結果によると、2025年3月時点でCopilot+ PCsの認知度は73%に達したが、4月の調査では33%の企業しかAI機能を重要視していない。Context Senior AnalystのMarie-Christine Pygottの分析では、2025年第2四半期にヨーロッパの流通業者がリセラーに出荷したAI対応PC120万台のうち、Copilot+ PCsは9%に留まった。これは2024年第4四半期の2%、2025年第1四半期の4%から改善したが、依然として低い水準である。DellとIntelが実施した英国IT意思決定者1000人への調査では、62%がCopilot+ PCsを「通常のAI PC」より選好すると回答した。一方、TECHnalysis ResearchのBob O’Donnellは、現在の企業向け機能が限定的で、企業はローカルAI処理が重要になる数年先を見越した投資をしていると指摘した。Copilot+ PCsはQualcomm Snapdragon X、Intel Core Ultra 200V、AMD Ryzen AI 300シリーズを搭載し、40+ TOPS(毎秒兆回の演算)のNPU性能を持つ。これはIntelの前世代Meteor Lake CPUの11 TOPSを大幅に上回る。

From:文献リンクAI don’t know: Enterprises slow to pick up on Copilot+ PCs

【編集部解説】

このCopilot+ PCの企業導入における課題は、AI技術の実用化プロセスで必然的に発生する「期待と現実のギャップ」を象徴的に示しています。40+ TOPSという数値だけを見れば確かに強力ですが、企業が実際に求めているのは具体的な業務改善効果なのです。

注目すべきは、認知度73%に対して重要視する企業が33%という数字の乖離です。これは単なるマーケティング不足ではなく、オンデバイスAIの価値提案そのものが曖昧であることを意味します。Recallのような機能は消費者向けとしても議論を呼んでいますが、企業環境ではプライバシーとセキュリティの観点からさらに慎重な検討が必要になります。

特にSnapdragon X搭載の初期モデルでは、Arm系アーキテクチャ特有のソフトウェア互換性問題が企業の導入を躊躇させる要因となりました。既存のx86アプリケーションとの互換性は、企業にとって極めて重要な判断基準です。

技術的な観点から見ると、NPUによるローカル処理は確実にメリットがあります。クラウドへの依存度を下げ、レスポンス時間を短縮し、機密データの外部送信リスクを軽減できるためです。しかし現時点では、これらの理論的メリットを活用する具体的なビジネスアプリケーションが不足しているのが実情です。

興味深いのは、企業の購買動機がAI機能ではなく「ハードウェアリフレッシュサイクル」にあるという指摘です。これは結果的に、企業が将来のAI活用に向けたインフラ投資を無意識のうちに行っていることを示唆しています。

長期的な視点では、この状況は必ずしも悲観的ではありません。初期のスマートフォンやクラウドサービスも同様の導入パターンを辿りました。重要なのは、40+ TOPSのNPUが標準装備される環境が整いつつあることで、これが将来的なAIアプリケーションの土台となる可能性が高いということです。

今後数年間で、オンデバイスAIを活用した革新的なビジネスアプリケーションが登場すれば、現在のCopilot+ PCが真の価値を発揮する日が来るでしょう。企業は今、この技術的転換点における先行投資を行っているのかもしれません。

【用語解説】

NPU(Neural Processing Unit)
AIの推論処理に特化した専用チップ。従来のCPUやGPUと比較して、機械学習タスクを効率的に実行する。TOPSで性能が測定される。

TOPS(Trillions of Operations Per Second)
毎秒兆回の演算回数を示す性能指標。NPUやAIチップの処理能力を表す単位として用いられる。

Arm系デバイス
Arm Holdings社設計のCPUアーキテクチャを採用したコンピューター。x86アーキテクチャと比較して低消費電力が特徴だが、ソフトウェア互換性に課題がある場合がある。

VBS(Virtualization-based Security)エンクレーブ
Windows 11に搭載された仮想化技術ベースのセキュリティ機能。重要なデータやプロセスを他の部分から物理的に分離して保護する。

Meteor Lake
Intelが2023年に発表したCPUアーキテクチャ。NPU搭載により11 TOPSのAI性能を実現した。

Snapdragon X
QualcommがPC向けに開発したArm系SoC。45 TOPSのNPU性能を持つ最初のCopilot+ PC対応チップ。

OOBE(Out of the Box Experience)
新しいデバイスの初回セットアップ時に表示される設定画面の総称。

【参考リンク】

Microsoft Copilot+ PCs公式サイト(外部)
MicrosoftのCopilot+ PC公式ページ。製品概要、技術仕様、対応デバイス一覧を提供している。

Microsoft Copilot+ PCs ビジネス向けページ(外部)
企業向けCopilot+ PC情報。ビジネス機能、導入支援、セキュリティ機能について詳細に説明している。

Dell公式サイト(外部)
世界最大手のPCメーカーの一つ。AI PC、モニター、サーバーなどの技術ソリューションを提供。

Canalys(Omdia傘下)(外部)
1998年設立のグローバル技術市場分析企業。ITチャネル、スマートフォン、新興技術分野で業界屈指の調査・分析を提供している。

TECHnalysis Research(外部)
Bob O’Donnell氏が代表を務める技術市場調査企業。戦略コンサルティングと市場調査サービスを技術産業および金融業界向けに提供。

Microsoft Recall公式サポートページ(外部)
Microsoft Recallの日本語公式サポートページ。機能説明、使用方法、プライバシー設定について詳細情報を提供。

【参考動画】

【参考記事】

Windows 11: AI Potential Unveiled – Dell & Intel(外部)
DellとIntelによる「Windows 11 & AI PC Readiness Report」の詳細解説。英国IT意思決定者1000人への調査結果を報告している。

Dell and Intel Look Into the Mass Shift to AI-Ready PCs(外部)
Windows 10サポート終了を契機とした企業のAI PC移行動向分析。71%の企業がWindows 11移行時にAI対応PCへのアップグレードを検討していると報告。

【編集部後記】

皆さんは最近、AIを搭載したPCやデバイスについて検討されたことはありますか?今回のCopilot+ PCの企業導入事例を見ていると、新しい技術と実際の業務現場との間には、まだまだ興味深いギャップがあるようですね。

私たちも3児の母として、また技術系メディアに携わる立場として、「便利そうだけど、本当に必要?」と感じることがよくあります。特に職場でのAI活用については、期待と現実の間で揺れ動く気持ちを抱いている方も多いのではないでしょうか。

皆さんの職場や日常で、AI機能について「これは便利!」と感じた体験や、逆に「まだまだかな」と思った瞬間があれば、ぜひお聞かせください。一緒に、本当に私たちの生活を豊かにしてくれる技術について考えていけたらと思います。

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