Quaise Energy、ミリ波掘削でスーパーホット地熱エネルギー実現へ|AI時代の電力需要に革新的解決策

Quaise Energy、ミリ波掘削でスーパーホット地熱エネルギー実現へ|AI時代の電力需要に革新的解決策

マサチューセッツ州拠点のスタートアップQuaise Energy社は、地表から最大19.3キロメートル(12マイル)の深さまで掘削して摂氏500度の超高温岩石にアクセスするスーパーホット地熱技術を開発している。同社CEOのカルロス・アラケ氏によると、従来の地熱発電の5~10倍の電力を1つの井戸から抽出できる。技術の核心は岩石を気化させる電磁ビーム(ミリ波)で、マサチューセッツ工科大学のポール・ウォスコフ氏により2007年から研究が開始された。

Quaise社は2018年7月に設立され、これまでに総額1億300万ドルを調達している。支援者にはNabors Industries社のほか、Prelude Ventures、Engine Ventures、Safar Partners、三菱、Collab Fundが含まれる。同社は2025年6月にNabors Industries社と技術実証を実施し、オレゴン州ベンド近郊で2028年までに世界初のスーパーホット地熱発電所の運転開始を目指す。Nabors Industries社のエネルギー転換担当副社長ギジェルモ・シエラ氏は、データセンターやAI需要による電力増加への対応策として期待を示している。

From:文献リンクClean Start
Superhot geothermal energy could unearth big power boost for the AI era

【編集部解説】

スーパーホット地熱技術は、従来の地熱発電とは本質的に異なる新しいアプローチです。従来の地熱発電が浅い地層の天然の熱水や蒸気を利用するのに対し、スーパーホット地熱は地下深部の高温の乾燥した岩石そのものをターゲットとしています。

この技術の革新性は「ミリ波掘削技術」にあります。従来のドリルビットでは硬い花崗岩や玄武岩を深く掘削することが困難でしたが、Quaise社のミリ波(電磁ビーム)は岩石を文字通り気化させて貫通するため、既存の掘削技術の限界を突破しています。

AI時代の電力需要との密接な関係

この技術が注目される背景には、急速に拡大するAIデータセンターの電力需要があります。従来の再生可能エネルギーは天候に左右されますが、地熱エネルギーは24時間365日安定した出力を維持できる「ベースロード電源」として機能します。

国際エネルギー機関(IEA)の分析によると、世界のスーパーホット地熱エネルギーの潜在力は現在の世界年間電力需要を大幅に上回る規模であり、エネルギー安全保障の観点からも重要な技術となります。

技術的優位性と経済性

スーパーホット地熱の発電効率が既存地熱の5-10倍となる理由は、超臨界状態の蒸気にあります。摂氏374度以上の温度では、水は超臨界流体となり、従来の蒸気よりも5-10倍のエネルギーを運ぶことができます。

コスト面では、初期掘削費用は高額ですが、長期的な運用により従来の化石燃料火力発電と競合可能な発電コストを実現する見込みです。また、既存の石油・ガス業界のインフラと技術者を活用できるため、技術移転が比較的容易です。

規制環境と政策支援

米国では2025年のトランプ政権下で地熱エネルギーが国家エネルギー緊急事態令に明記され、税制・歳出法案でも地熱への資金提供が維持されています。これは他の再生可能エネルギーへの資金が削減される中での特例的な扱いです。

潜在的リスクと課題

技術的課題として、超深度掘削に伴う地震リスクの評価と管理が重要です。また、ミリ波掘削技術は実証段階であり、商業規模での運用実績がまだ限られています。

長期的展望と社会的影響

この技術の普及により、石油・ガス産業の労働力の転換が可能になります。既存の掘削インフラや技術者の知識を活用できるため、エネルギー転換における雇用の継続性が期待されています。

地理的制約も大幅に緩和されます。従来の地熱発電は火山帯などの特定地域に限定されましたが、スーパーホット地熱は地球上のほぼどこでも利用可能となり、エネルギー安全保障の向上に寄与します。

【用語解説】

スーパーホット地熱(Superhot Geothermal)
地下深部の摂氏374度以上の超高温岩石から得られる地熱エネルギー。この温度では水が超臨界状態となり、従来の地熱発電の5-10倍の電力を1つの井戸から抽出できる。

ミリ波掘削技術(Millimeter Wave Drilling)
高周波電磁波(ミリ波)を使用して岩石を気化させながら掘削する技術。ジャイロトロンと呼ばれる装置で生成される。従来のドリルビットでは困難な超深度掘削を可能にする。

ジャイロトロン(Gyrotron)
高周波電磁波を発生させる装置。核融合実験や産業用加熱プロセスで数十年間使用されている実績のある技術で、Quaise社の掘削システムの中核を成す。

超臨界流体(Supercritical Fluid)
摂氏374度、圧力22.1MPa以上の条件下で存在する水の状態。液体と気体の境界がなくなり、非常に高いエネルギー密度を持つ。

ベースロード電源(Baseload Power)
24時間365日安定して供給される基底電力。太陽光や風力とは異なり、天候に左右されない安定性を持つ。

【参考リンク】

Quaise Energy(外部)
MIT発のミリ波掘削技術でスーパーホット地熱エネルギー商業化を目指すスタートアップ

Nabors Industries(外部)
世界最大級の陸上掘削リグを保有する石油・ガス掘削サービス企業

Engine Ventures(外部)
MIT発のベンチャーキャピタル。タフテック分野に投資しQuaise社の支援者

【参考動画】

「Hotter is Better | The Superhot Blueprint | Part 1」
Quaise Energy公式チャンネル(2025年4月15日公開)世界初のスーパーホット地熱発電所建設に向けた同社のアプローチとミリ波掘削技術の仕組みを解説。

【編集部後記】

スーパーホット地熱という新しい技術が、私たちのエネルギー問題を解決する鍵になるかもしれません。Quaise社の取り組みを見ていると、従来の「不可能」が「可能」に変わる瞬間を目撃しているような気がします。

みなさんは、こうした次世代エネルギー技術についてどう思われますか?AIが急速に発達する中で、安定した電力供給の重要性はますます高まっています。私たち一人ひとりが未来のエネルギーについて考え、関心を持つことから始まるのではないでしょうか。技術革新の現場を一緒に見守っていけたらと思います。

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