OpenAI Stargate Norway発表 10億ドル投資でヨーロッパ初の大規模AIデータセンター

OpenAIは2025年7月31日、ノルウェー北部のナルヴィク近郊クヴァンダルに、欧州初のStargate Norwayデータセンター建設を発表した。ロンドンに拠点を置くデータセンター建設業者のNscaleとノルウェーのエネルギー大手Aker ASAとの合弁事業で、総額10億ドルを投じて2026年までにNvidia製GPU10万基を配備する。

施設は水力発電により完全に再生可能エネルギーで稼働し、初期容量は20メガワットから開始し、最終的に230メガワット、将来的に290メガワット追加し最大520メガワットまで拡張可能である。サム・アルトマンCEOは「ヨーロッパが全ヨーロッパ人のためにAIの真の可能性を実現するにはより多くの計算能力が必要」と述べた。

施設では直接冷却システムを採用し、余剰熱は地域暖房などに活用される。OpenAIのみならず英国、北欧、北ヨーロッパのユーザーにも余剰容量を提供する。このプロジェクトはOpenAIの世界展開戦略の一環で、2025年5月にはアラブ首長国連邦アブダビに1ギガワットのStargate UAE建設を発表、2026年に200メガワットで稼働予定である。さらに7月22日にはOracle社と提携し、米国でStargateデータセンター容量を4.5ギガワット追加すると発表した。

From:Altman embraces inner Viking, raids Europe with 100K GPU supercluster in Norway

【編集部解説】

本案件について、複数の信頼できる英語圏メディアの報道を確認したところ、The Registerの記事内容は概ね正確であることが確認できました。このStargate Norwayプロジェクトを編集部の視点で分析すると、地政学的な重要性と技術的なイノベーションの両面で非常に示唆に富んだ動きといえます。

なぜ今このニュースが重要なのか

まず背景として理解すべきは、2025年1月にドナルド・トランプが米国で発表した5,000億ドル規模のStargateプロジェクトに対して、イーロン・マスクが「OpenAIには実際にはそのような資金がない」と批判していた点です。今回のノルウェー進出は、OpenAIがその批判に対する明確な反証として、実際に国際展開を進めている証拠といえます。

欧州の「AI主権」戦略との整合性

現在、欧州連合は「AI主権（AI Sovereignty）」という概念を強く推進しており、重要なデータ処理とAIワークロードを欧州域内で完結させることを目指しています。NscaleのCEOジョシュ・ペインも「主権的でスケーラブル、そして持続可能なインフラは今や競争力を維持するために不可欠」と述べており、このプロジェクトが単なる商業的投資を超えた戦略的意味を持つことが分かります。

技術的側面での革新性

施設では「ダイレクト・トゥ・チップ液冷」システムを採用し、GPUから発生する余剰熱を地域の暖房システムに再利用する計画が含まれています。これは従来のデータセンターが抱える環境負荷問題への革新的な解決策として注目されます。

エネルギー効率と立地の戦略性

ナルヴィクという立地選択は偶然ではありません。この地域の電力料金は欧州平均を30-40％下回り、豊富な水力発電による再生可能エネルギーが利用可能です。さらに人口密度が低く送電容量に余裕があるため、大規模なAIインフラに最適な「グリーンフィールド」環境を提供します。

規模感の現実性

10万GPUという数字について、初期フェーズの20メガワットでは約10,500個のNvidia最新GPUしか動かせないと推定されており、2026年までに目標を達成するには段階的な大幅なスケールアップが必要です。これは技術的・物理的な挑戦として注目すべき点です。

長期的なインパクト

このプロジェクトの成功は、欧州全体のAIエコシステムに大きな影響を与える可能性があります。優先的にノルウェーのAIスタートアップや科学研究者にアクセスを提供し、余剰容量を英国、北欧、北ヨーロッパに提供することで、地域全体のAI能力向上が期待されます。

OpenAIが5月に発表したUAEのStargate（1ギガワット規模）、7月に発表したOracleとの4.5ギガワット提携に続く今回の動きは、同社が真に国際的なAIインフラネットワークの構築を進めていることを示しており、AI技術の地政学的な再編成における重要な一歩として捉えるべきでしょう。

【用語解説】

Stargate
OpenAIが主導する大規模AIインフラストラクチャー構築プロジェクトである。5,000億ドル規模の投資により、世界各地に大規模データセンターネットワークを構築し、AI計算能力の拡充を目指している。

ダイレクト・トゥ・チップ液冷
GPUチップに直接冷却液を接触させる冷却技術である。従来の空冷や間接冷却よりも効率的に熱を除去でき、高密度のGPU配置を可能にする。

水力発電（Hydroelectric Power）
水の位置エネルギーを利用して電力を生成する再生可能エネルギーである。ノルウェーは豊富な水資源により、電力の約96％を水力発電で賄っている。

メガワット（MW）
電力の単位で、100万ワットに相当する。大規模データセンターの消費電力を表す際に使用され、1MWで約800-1,000世帯分の電力に相当する。

AI主権（AI Sovereignty）
国家が自国のAI技術とデータを管理・統制する権利や能力を指す概念である。外国企業への依存を避け、自国のAIエコシステムを構築することを目的としている。

オフテイカー（Off-taker）
データセンターやエネルギー施設において、生産された容量やエネルギーを購入・利用する契約者を指す業界用語である。

【参考リンク】

OpenAI公式サイト – Stargate Norway（外部）
OpenAIのStargate Norwayプロジェクトの公式発表ページ。プロジェクトの詳細、パートナー企業、計画などが掲載されている。

Nscale公式サイト（外部）
AIクラウドプラットフォームを提供する英国企業。持続可能で主権的なAIインフラを構築し、欧州と北米でデータセンター事業を展開している。

Aker ASA公式サイト（外部）
ノルウェーの産業投資会社。石油ガス、再生可能エネルギー、グリーン技術などの分野で事業を展開し、1841年創業の歴史ある企業である。

OpenAI for Countries プログラム（外部）
各国政府と連携してAIインフラを構築し、民主的なAI開発を支援するOpenAIの国際イニシアチブプログラムの公式ページ。

NVIDIA Blackwell アーキテクチャ（外部）
NVIDIAの最新GPU アーキテクチャ。AI計算に特化した設計で、高性能なAI推論と学習を実現する次世代チップアーキテクチャの情報が掲載。

【参考記事】

Nscale, Aker and OpenAI to establish Stargate Norway（外部）
Nscale公式プレスリリース。合弁事業の詳細、投資規模、技術的特徴、ヨーロッパのAI主権への貢献について詳述。

OpenAI to launch AI data center in Norway, its first in Europe（外部）
TechCrunchによる包括的な報道。欧州のAI主権戦略との関連性、投資の詳細、技術的仕様について専門的な分析を提供。

OpenAI backs AI data center in Norway With 100,000 Nvidia GPUs（外部）
CNBCによる詳細報道。投資規模、技術仕様、欧州AI戦略との関係性について経済的な視点から解説。

OpenAI is building Stargate Norway while its annual spending is expected to soar to $8 billion（外部）
The Decoderによる分析記事。OpenAIの財務状況とStargateプロジェクトの関係性、欧州展開戦略について詳細に解説。