ビジネスデスクトップのLinux使用率急上昇:1,850万台調査でサイバーセキュリティ対策が推進力に

ビジネスデスクトップのLinux使用率急上昇:1,850万台調査でサイバーセキュリティ対策が推進力に

Lansweeper調査によると、ビジネス端末(デスクトップ・ラップトップ)におけるLinux使用率は2025年1月の1.6%から6月に1.9%へ上昇し、3月1日以降に新たに追加されたデバイスでは2.5%に達した。調査対象は約1,850万台(コンシューマー機器1,400万台、ビジネス機器350万台)である。同社CTO Guido Patanellaは指数関数的な成長トレンドを予測し「継続的な加速がある」と述べている。主要な推進要因はサイバーセキュリティ強化であり、脆弱性と攻撃の指数関数的増加がIT組織の不安を高めている。DevOps関連活動も採用を後押ししている。地域別では欧州が北米をわずかに上回り、技術・電気通信分野では北米で約7%の高い採用率を示している。Windows 10のサポート終了(2025年10月14日)も移行要因として挙げられる。フランスのリヨン市がMicrosoftからオープンソースツールへの移行を決定するなど、公共機関での採用も加速している。

From:文献リンクNetwork scans find Linux is growing on business desktops, laptops

【編集部解説】

今回のLansweeperレポートが示すLinux採用率の上昇は、企業ITインフラの根本的な変革を予兆する重要なシグナルです。
数値的には小さく見える変化ですが、その背景には現代企業が直面する深刻な課題への対応策が見て取れます。

まず理解すべきは、この調査の規模と信頼性です。Lansweeperは企業のIT資産を網羅的に監視するツールとして、1,850万台という膨大なデバイスから得られたデータを基にしています。この規模での継続的な監視から得られる傾向分析は、市場全体の動向を把握する上で非常に価値が高いものです。

最も注目すべき点は、Linux採用が「指数関数的な成長パターン」を示していることです。従来のテクノロジー採用では、初期の緩やかな成長期を経て急激な普及期に入るS字カーブを描くことが知られており、現在はその転換点に差し掛かっている可能性があります。

セキュリティ強化という推進要因は、単なる技術的選択を超えた戦略的判断を反映しています。近年のサイバー攻撃は企業の存続に関わるレベルの損害をもたらす可能性があり、従来のセキュリティ対策では対応が困難になっています。Linuxの持つ構造的なセキュリティ優位性と、オープンソースコミュニティによる迅速な脆弱性対応は、こうしたリスクへの有効な対策となります。

DevOps環境でのLinux普及も重要な要素です。クラウドネイティブ開発が主流となる中、開発者はLinuxベースの環境での作業に慣れ親しんでおり、この流れがデスクトップ環境にも波及しています。特にコンテナ技術やKubernetes環境での作業では、Linuxデスクトップの方が効率的な場合が多く、生産性向上の観点からも採用が進んでいます。

Windows 10のサポート終了というタイミングも、企業の意思決定に大きな影響を与えています。Windows 11への移行に必要なハードウェア投資と比較して、既存ハードウェアでも軽快に動作するLinuxは、コスト効率の観点から魅力的な選択肢となっています。

地域別の動向では、欧州における高い採用率が注目されます。これはGDPRをはじめとするデータ保護規制への対応や、デジタル主権への関心の高さが背景にあると考えられます。リヨン市の事例は、こうした政策的な後押しがある環境での採用拡大の好例です。

しかし、企業のLinux採用にはまだ課題も残されています。レガシーソフトウェアの互換性、従業員の訓練コスト、サポート体制の構築などは、特に中小企業にとって大きなハードルとなる可能性があります。

長期的な視点では、この動きは単なるOS選択を超えて、企業のテクノロジー戦略全体に影響を与える構造的変化の始まりと捉えることができるでしょう。オープンソーステクノロジーへの依存度が高まることで、イノベーションの速度向上とコスト削減を両立できる可能性がある一方、内製化能力の向上が今まで以上に重要になってきます。

【用語解説】

DevOps
開発(Development)と運用(Operations)を統合したソフトウェア開発・運用手法。継続的なアプリケーション開発・配信を実現し、ビジネスの俊敏性向上に貢献する。

コンテナ技術
アプリケーションとその実行環境をパッケージ化する軽量な仮想化技術。DockerやKubernetesが代表的で、クラウドネイティブ開発の基盤となっている。

オープンソース
ソースコードが公開され、自由に使用・改変・再配布可能なソフトウェア。透明性が高く、コミュニティによる継続的な改善が行われる。

セキュリティ強化(ハードニング)
システムの脆弱性を排除し、攻撃に対する耐性を向上させる技術的・運用的対策。不要なサービスの無効化、アクセス制御の厳格化などを含む。

デジタル主権
国家や組織が自国・自組織のデジタルインフラとデータを完全にコントロールできる状態。外国企業への技術依存を減らす政策的概念。

ベンダーロックイン
特定の企業の製品・サービスに依存し、他の選択肢への変更が困難になる状況。技術的・経済的な切り替えコストが障壁となる。

S字カーブ(普及曲線)
新技術の普及パターンを表すモデル。初期の緩やかな成長期、急速な普及期、成熟期の3段階を経て普及が進む。

【参考リンク】

Lansweeper(外部)
ベルギーを拠点とするIT資産管理ソリューション企業。企業のIT環境の完全な可視化を実現

The Register(外部)
1994年創刊の英国発ITニュースメディア。辛辣で率直な報道スタイルで知られる

Red Hat(外部)
エンタープライズ向けLinuxとクラウドソリューションの世界的リーダー。IBMの子会社

Linux Foundation(外部)
Linuxカーネル開発とオープンソースプロジェクト推進を支援する非営利団体

【参考記事】

Lyon Switches to Linux, Open-Source from Microsoft by 2026(外部)
フランス・リヨン市のオープンソース移行計画。OnlyOfficeとPostgreSQL採用

The municipality of Lyon moves towards open source(外部)
欧州委員会による公式報告。リヨン市のオープンソース移行の政策的背景を解説

【編集部後記】

皆さんの職場でも、サイバーセキュリティ対策やDX推進について議論されることが増えているのではないでしょうか。
今回のLinux採用率上昇は、まさに私たちが日常的に直面している「セキュリティ vs コスト」「革新性 vs 安定性」といったジレンマへの現実的な解答の一つかもしれません。
実際にLinuxデスクトップを業務で使用された経験をお持ちの方、または導入検討中の組織にいらっしゃる方は、どのような点を重視されているでしょうか。
技術選択の現場での生の声をお聞かせいただけると、同じような課題を抱える他の読者の方々にとっても貴重な参考になると思います。

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