UAE拠点のディープテック企業XPANCEOがシリーズA資金調達で2億5000万ドルを確保し、企業評価額13億5000万ドルでXR分野の最新ユニコーン企業となったと発表した。
同社は2021年にロシア系起業家Roman Axelrod氏とウクライナ系科学者Valentyn S. Volkov博士により設立された。資金調達ラウンドはOpportunity Venture(Asia)が主導し、2023年の4000万ドルシードラウンドに続く投資である。総調達額は2億9000万ドルに達する。
XPANCEOは世界初のオールインワン・スマートコンタクトレンズを開発中で、XR機能、リアルタイム健康モニタリング、暗視機能、ズーム機能を統合する。同社は2026年の臨床試験開始を目標とし、2023年のシードラウンド以降15の動作プロトタイプを開発した。従業員数は50人から100人に拡大し、マンチェスター大学、シンガポール国立大学、ドノスティア国際物理学センター、ドバイ大学との協力関係を築いている。
From: Smart Contact Maker Raises $250M Investment at a Whopping $1.35B Valuation
【編集部解説】
XPANCEOのユニコーン達成は、単なる資金調達成功以上の意味を持っています。この企業が描く未来像は、私たちの日常的なデジタル体験を根本から変える可能性を秘めているからです。
技術的な革新性について
XPANCEOが開発する15のプロトタイプは、それぞれが異なる技術的課題を解決しています。特に注目すべきは、0.5mm未満のプロジェクターを搭載したディスプレイシステムです。これは人間の髪の毛よりも薄い厚さでありながら、AR機能を実現する技術力を示しています。
ワイヤレス給電技術においても、コンタクトレンズケースのような小型デバイスからの充電を可能にし、日常使用への道筋が見えてきました。同社の技術は、従来のウェアラブルデバイスと同等の安全性を確保しながら、より広範囲での無線給電を実現しています。
医療分野への影響
涙液からの生体情報測定技術は、医療診断の概念を変える可能性があります。従来の血液検査に代わり、グルコース、コルチゾール、エストラジオール、プロゲステロン、テストステロンなどのホルモン、さらにはビタミンB1、B2、B3、E、Dまでを非侵襲的に測定できる技術は画期的です。
眼圧測定による緑内障の早期発見システムも、失明リスクを大幅に軽減する可能性を持っています。スマートフォンアプリを使用してレンズ上の光学パターンを読み取り、リアルタイムで眼圧を測定する仕組みは、定期的な眼科受診が困難な地域でも活用できるでしょう。
市場競争における位置づけ
創設者のRoman Axelrod氏が述べているように、XPANCEOは既存のXR企業とは異なるアプローチを取っています。MetaのRay-Banスマートグラスや、2026年にAppleから投入が噂されているスマートアイウェアと比較すると、コンタクトレンズという形状は優位性を持つと考えられます。
視界を遮らず、装着していることが外見上分からないという点で、社会的受容性が高いと考えられます。「すべてのデバイスを単一の見えないインターフェースに統合する」というビジョンは、スマートフォンの次世代プラットフォームとしての可能性を示唆しています。
潜在的なリスクと課題
しかし、技術的な課題も多く残されています。眼球という極めてデリケートな部位に電子デバイスを装着することの長期的な安全性は、まだ十分に検証されていません。特に、連続装着による角膜への影響や、電子回路からの微弱な電磁波の長期的影響については慎重な検証が必要です。
規制面では、医療機器としての承認プロセスが必要になる可能性が高く、2026年末の臨床試験開始目標も各国の規制当局による厳格な審査が予想されます。特に、生体情報を測定する機能については、医療機器としての精度と安全性の証明が求められるでしょう。
長期的な社会への影響
XPANCEOが掲げるビジョンは、プライバシーやデータセキュリティの観点から新たな課題を生み出す可能性があります。常時装着するデバイスが生体情報やAR表示内容を記録し続けることで、個人の行動パターンや健康状態が詳細に把握される社会が到来するかもしれません。
一方で、視覚障害者の生活の質向上や、糖尿病患者の血糖値管理の簡素化など、社会的な恩恵も計り知れません。暗視機能や3Dイメージング技術は、建設業や製造業などの産業分野でも革新的な変化をもたらす可能性を秘めています。
投資環境から見る意義
13億5000万ドルという評価額は、Magic Leapの過去最高64億ドル(2018年)やInfinite Realityの122億5000万ドル(2025年初頭)と比較すると控えめですが、実用化に向けた具体的なプロトタイプを15種類も開発している点で、より現実的な投資判断と言えるでしょう。
Opportunity Venture(Asia)が2度にわたって投資を主導していることも、技術の継続的な進歩を評価している証拠です。複数の国際的研究機関との協力関係は、学術的な裏付けの強さを示しています。
【用語解説】
XR(Extended Reality)
拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(MR)を総称する技術概念である。現実世界とデジタル世界を融合させ、新たな体験を提供する次世代コンピューティング技術として注目されている。
ユニコーン企業
企業評価額が10億ドル以上の未上場スタートアップ企業を指すベンチャーキャピタル業界の用語である。その希少性から伝説上の動物「ユニコーン」に例えられている。
シリーズA資金調達
スタートアップ企業が事業拡大のために行う本格的な資金調達ラウンドである。通常、シードラウンド後に実施され、製品開発や市場展開に必要な資金を調達する段階を指す。
眼圧(IOP:Intraocular Pressure)
眼球内部の圧力を示す医学用語である。緑内障の診断や治療において重要な指標となり、正常値は10-21mmHgとされている。
涙液分析
涙に含まれる生体分子を分析して健康状態を把握する非侵襲的診断技術である。グルコース、ホルモン、ビタミンなどの測定が可能で、血液検査に代わる新たな診断手法として研究が進んでいる。
ナノ粒子強化技術
ナノメートルサイズの微細粒子を材料に組み込むことで、従来の性能を大幅に向上させる技術である。光学特性や電気特性の改善に活用される。
ワイヤレス給電
電線を使わずに電力を伝送する技術である。電磁誘導や電磁波を利用して、非接触で電子機器に電力を供給する仕組みを指す。
【参考リンク】
XPANCEO公式サイト(外部)
スマートコンタクトレンズを開発するディープテック企業の公式サイト。製品情報、プロトタイプ、研究開発チームの詳細情報を提供している。
Magic Leap公式サイト(外部)
AR技術のパイオニア企業であるMagic Leapの公式サイト。AR/VR業界の先駆的技術と製品情報、企業の歴史と実績を紹介している。
Infinite Reality公式サイト(外部)
没入型デジタルメディア企業のInfinite Realityの公式サイト。AI技術と没入型テクノロジーを活用したデジタルコンテンツ事業を展開している。
Road to VR(外部)
VR・AR・XR技術に特化した専門メディアサイト。業界の最新ニュース、製品レビュー、技術解説を提供する信頼性の高い情報源である。
【参考記事】
XPANCEO Becomes UAE’s Newest Unicorn with $250M to Build Smart Contact Lenses(外部)
中東地域メディアによるXPANCEOのユニコーン達成報道。UAE経済における同社の位置づけと地域のイノベーション生態系への影響を分析している。
XPANCEO takes us inside its lab where it makes smart contact lenses(外部)
XPANCEOの研究開発施設内部を紹介する技術メディアの詳細レポート。創設者へのインタビューと15種類のプロトタイプの技術的特徴を解説している。
【編集部後記】
XPANCEOのスマートコンタクトレンズが2026年に臨床試験を迎えるという今回のニュースを読んで、皆さんはどのような未来を想像されますか?涙から健康状態を測定し、目の前にAR映像が浮かび上がる世界は、もはやSFの話ではありません。一方で、常時装着するデバイスが私たちの生体情報を記録し続けることへの不安もあるでしょう。この技術が実用化されたとき、皆さんは使ってみたいと思われますか?それとも慎重派でしょうか?ぜひSNSで、この「見えないコンピューター」に対する率直なお気持ちをお聞かせください。私たちも一緒に、この技術がもたらす未来について考えていきたいと思います。
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