ロッキード・マーティン、NASA火星サンプルリターンを30億ドルで救済提案

ロッキード・マーティン、NASA火星サンプルリターンを30億ドルで救済提案

ロッキード・マーティンはNASAの火星サンプルリターン(MSR)ミッションを30億ドル以下の固定価格で実施する提案を発表した。

同ミッションは、パーサヴィアランスローバーが収集した火星の土壌と岩石サンプルを地球に持ち帰ることを目的とする。NASAの現在の予算見積もりは70億ドルで、独立審査では最大110億ドルに達する可能性が指摘されている。トランプ政権はNASAへの大幅な予算削減を提案し、MSRミッションの中止も検討されている。ロッキード・マーティンの提案は、2018年11月に火星着陸に成功したInSight着陸機の設計を基にした小型着陸機、小型火星上昇機、小型地球再突入システムを使用する。

同社は過去にNASAの火星探査機22機のうち11機を製造した実績を持つ。NASAは2025年1月8日、2つの着陸アーキテクチャを同時に追求する新しいアプローチを発表し、2026年後半にプログラムの確定を予定している。パーサヴィアランスは現在43本のチューブのうち約20数本にサンプルを封入し、うち10本を火星表面に配置済みである。

From: 文献リンクThis company could save NASA’s doomed Martian Sample Return mission

【編集部解説】

火星サンプルリターンミッションをめぐる今回の動きは、単なる予算削減の話を超えて、宇宙開発における官民連携の新たなモデルケースとして注目すべき事案です。

ロッキード・マーティンの提案は、従来のNASA主導型プロジェクトから「固定価格契約」への転換を意味しています。これは、コスト超過のリスクを企業側が負担する仕組みで、SpaceXが商業宇宙輸送で成功させたビジネスモデルと同様のアプローチです。

技術的な観点から見ると、同社の戦略は「既存技術の活用」に重点を置いています。2018年に成功したInSight着陸機の設計をベースとした小型着陸機、小型火星上昇機、そして2023年9月にOSIRIS-RExミッションで培われた地球再突入システムを組み合わせることで、開発リスクを大幅に削減する計画です。

この技術統合により実現される可能性があるのは、火星探査の「標準化」です。従来のように各ミッションで新規開発を行うのではなく、実績のあるコンポーネントを組み合わせることで、コストと時間の両方を圧縮できる可能性があります。

一方で、潜在的なリスクも存在します。固定価格契約では、予期せぬ技術的困難が発生した場合、企業が損失を被る可能性があります。また、コスト削減を優先するあまり、科学的価値の高いサンプル収集機会を逃すリスクも考慮する必要があります。

政策的な影響として、この提案はトランプ政権の宇宙政策にも適合しています。同政権は月面基地建設と有人火星探査を優先事項としており、火星サンプルリターンで得られる地質学的データは、将来の有人ミッションの安全性向上に直結します。

長期的な視点では、この事案は宇宙開発の産業化を加速させる可能性があります。NASAが2025年1月8日に発表した「2つの着陸アーキテクチャを同時追求する」新戦略は、複数の民間企業による競争を促進し、イノベーションの加速が期待されます。

特に注目すべきは、SpaceXも「Starship」を使用した代替案を提案していることです。これにより、従来の段階的アプローチではなく、大型輸送システムによる「大量サンプル回収」という新たな選択肢も浮上しています。

火星サンプルの科学的価値は計り知れません。パーサヴィアランスが現在43本のチューブのうち23本にサンプルを封入し、うち10本を火星表面に配置していることからも、その重要性が伺えます。これらのサンプルは、地球上での詳細分析により、火星の地質史と生命存在の可能性について決定的な証拠を提供する可能性があります。

【用語解説】

火星サンプルリターン(Mars Sample Return, MSR)
火星の土壌や岩石サンプルを地球に持ち帰る宇宙ミッション。NASAとESAが共同で計画している史上初の他惑星からのサンプル回収プロジェクトである。

パーサヴィアランス(Perseverance)
2021年2月に火星に着陸したNASAの探査ローバー。火星のジェゼロクレーターで土壌と岩石のサンプルを採取し、43本のチューブのうち23本にサンプルを封入済みである。

火星上昇機(Mars Ascent Vehicle, MAV)
火星表面から軌道上にサンプルを打ち上げる小型ロケット。史上初の他惑星からのロケット打ち上げを実現する予定で、ロッキード・マーティンが開発を担当している。

InSight着陸機
2018年11月に火星着陸に成功したNASAの火星探査機。地震計を搭載し火星内部構造の調査を行った。ロッキード・マーティンが製造を担当した。

OSIRIS-REx
小惑星ベンヌからサンプルを採取し2023年9月に地球に帰還したNASAの探査機。地球再突入システムの実証に成功している。

ジェゼロクレーター
火星にある直径約45kmのクレーター。古代に湖が存在していたと考えられており、パーサヴィアランスの着陸地点である。

固定価格契約
契約金額が事前に確定され、コスト超過のリスクを請負企業が負担する契約方式。従来のコストプラス契約と異なり予算管理が容易で、SpaceXが商業宇宙輸送で成功させたビジネスモデルである。

【参考リンク】

Lockheed Martin Corporation(外部)
アメリカの大手航空宇宙・防衛企業。火星探査機22機のうち11機を製造した実績を持つ

NASA Science – Mars Sample Return(外部)
NASAの火星サンプルリターンミッションの公式情報サイト。技術的詳細を提供

European Space Agency (ESA)(外部)
ヨーロッパ宇宙機関の公式サイト。地球帰還軌道船を担当する国際パートナー

SpaceX(外部)
イーロン・マスクが設立した宇宙開発企業。Starshipを使用した代替案を提案

【参考記事】

NASA、火星サンプルリターンで2つのオプションを検討へ(外部)
NASAが2025年1月8日に発表した火星サンプルリターンミッションの最新状況

NASAが火星サンプルリターンミッションの手法研究で7社の企業を選定(外部)
2024年6月にNASAが選定した7社の企業リストとロッキード・マーティンの提案内容

NASA、小惑星のサンプル入りカプセルを回収(外部)
2023年9月のOSIRIS-RExミッション成功について報じるBBC記事

【編集部後記】

火星サンプルリターンミッションをめぐる今回の動きを見ていて、私たちは宇宙開発の転換点に立ち会っているのかもしれません。ロッキード・マーティンの提案は、従来の「国家主導」から「民間主導」への変化を象徴しているように感じます。宇宙開発において、コスト効率と科学的価値のバランスをどう取るべきでしょうか。また、火星からのサンプルが地球に届いたとき、それが私たちの日常生活にどのような影響をもたらすのでしょうか?宇宙技術の進歩は、私たちが思っている以上に身近な技術革新につながることが多いものです。火星探査で培われた技術が、将来どのような形で私たちの生活を変えていくのか、一緒に考えてみませんか?

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