アメリカ食品医薬品局(FDA)が新しい青色食品着色料「ガーデニア(ゲニピン)ブルー」を承認した。これは2025年にFDAが承認した4番目の天然食品色素添加物である。
同着色料は常緑樹ガーデニア・ジャスミノイデス・エリス植物の成熟果実から製造され、ハードキャンディー、ソフトキャンディー、スポーツドリンク、すぐに飲める茶、風味付け無炭酸水、果汁飲料およびエードで使用可能である。
この承認は、FDAが2025年1月に赤色着色料第3号の食品への使用承認を取り消し、石油系合成着色料から天然着色料への移行を推進する取り組みの一環である。FDAは食品製造業者に対し、2027年の期限前に赤色第3号の使用中止を迅速化するよう要請している。
ガーデニア(ゲニピン)ブルーは、ガーデニア・ブルー・インタレスト・グループ(GBIG)からの申請により承認された。製造時に大豆タンパク質加水分解物を使用するが、未反応のタンパク質加水分解物は製造過程で除去されるため、最終製品には大豆タンパク質アレルゲンは含まれない。GBIGは食品アレルゲン表示からの免除をFDAに申請中である。
From: The FDA Just Approved a New Blue Food Dye. Is It an Allergen?
【編集部解説】
今回のガーデニア(ゲニピン)ブルーの承認は、食品業界における大きなパラダイムシフトの一環として捉える必要があります。これは単なる新しい着色料の登場ではなく、石油化学由来の合成着色料から天然由来成分への根本的な転換を象徴する出来事です。
FDAコミッショナーのマーティー・マカリー氏が「迅速化されたタイムライン」と表現したように、この承認プロセスは通常よりも早められています。背景には、消費者の健康意識の高まりと、欧州を中心とした国際的な規制強化の流れがあります。
従来の石油系合成着色料は、安価で色調が安定し、大量生産に適しているという利点がありました。しかし、健康への懸念や環境負荷の問題から、消費者の意識が大きく変化しています。特に赤色着色料第3号の禁止は、発がん性の懸念から欧州では既に規制されていたものの、アメリカでようやく実現した形となります。
ガーデニア(ゲニピン)ブルーの技術的な特徴として注目すべきは、大豆タンパク質加水分解物を使用しながらも、最終製品からアレルゲンを除去する精密な製造プロセスです。これは食品技術における分離・精製技術の進歩を示しており、天然由来でありながら工業的な品質管理を両立させた画期的な成果といえるでしょう。
この動きが業界に与える影響は多岐にわたります。食品メーカーは2027年の期限までに赤色第3号の使用を中止する必要があり、代替となる天然着色料への投資や製造プロセスの見直しが急務となっています。一方で、天然着色料は一般的に石油系よりもコストが高く、色調の安定性や保存性に課題があることも事実です。
長期的な視点では、この規制強化は食品添加物業界全体のイノベーションを促進する可能性があります。天然由来の着色料開発競争が激化し、より効率的で安全な製造技術が生まれることが期待されます。また、消費者の健康意識の高まりと相まって、「クリーンラベル」食品市場の拡大にも寄与するでしょう。
【用語解説】
ゲニピン(Genipin)
クチナシ(ガーデニア)の果実に含まれる天然色素成分。青色の着色料として利用される。
ガーデニア・ジャスミノイデス・エリス
学名でクチナシを指す。アカネ科の常緑低木で、果実は古くから染料として使用されてきた。
タンパク質加水分解物
タンパク質を酸やアルカリ、酵素によって分解したもの。食品添加物として風味向上や機能性向上に使用される。
赤色着色料第3号(Red Dye No. 3)
エリスロシンとも呼ばれる合成着色料。発がん性の懸念から多くの国で規制されている。
石油系合成着色料
石油を原料として化学的に合成された着色料。安価で安定性が高いが、健康への懸念が指摘されている。
クリーンラベル
人工添加物を使用せず、天然由来の原材料を使用した食品の表示概念。
GBIG(Gardenia Blue Interest Group)
ガーデニア・ブルー・インタレスト・グループ。今回の着色料申請を行った業界団体。
【参考リンク】
FDA(アメリカ食品医薬品局)(外部)
アメリカの食品・医薬品の安全性を監督する政府機関。食品添加物の承認や規制を行う。
CNET(外部)
テクノロジーやヘルスケア分野のニュースを配信するアメリカのニュースサイト。
【参考記事】
既存天然添加物等の変異原性を中心とした安全性研究(外部)
国立医薬品食品衛生研究所による天然食品添加物の安全性評価に関する研究報告書
クチナシ青色素の技術的特性と製造方法(外部)
日本化学工業による天然クチナシ青色素の詳細な技術解説と製造プロセス
ガーデニアブルーの技術情報(外部)
神戸化学工業による天然青色素の技術的特性と応用分野に関する解説
【編集部後記】
私たちの日常に欠かせない食品の色彩が、いま大きく変わろうとしています。石油由来から天然由来へのシフトは、単なる規制の変化を超えて、食品テクノロジーの新たな可能性を示しているのではないでしょうか。皆さんが普段手に取る飲み物やお菓子の裏側で、どんな技術革新が起きているか気になりませんか?また、「天然」という言葉に対して、私たちはどこまで信頼を置けるのでしょうか?食品添加物の未来について、ぜひ一緒に考えてみませんか。