インドネシア政府は2025年7月、25万台のChromebook導入を含む6億ドルの教育デジタル化プログラムで汚職が発生した疑いで調査を開始した。
司法長官事務所は、2018年から2019年にかけてのパイロットテストでChromebookがインターネット接続なしでは使用困難と判明したにも関わらず、当局がWindowsマシンの採用計画を不適切に取り下げた可能性があると発表した。前教育大臣のナディーム・マカリムは6か月間の出国禁止処分を受け、マカリムが設立したGoToグループのオフィスは当局により捜索された。
中国湖南省政府は先週、大規模なリチウム鉱床を発見したと発表した。中国は電気自動車の普及政策を推進しているが、リチウム鉱床に恵まれず輸入に依存している。日本とEUは来週の日EU首脳会談で、SpaceXのStarlinkに代わる衛星通信ネットワークの共同開発について議論する予定である。IDCはインドのパブリッククラウド市場が2029年に304億ドル(2024-29年の年平均成長率22.6%)に達すると予測した。
From: Google Indonesia tangled up in $600 million Chromebook corruption probe
【編集部解説】
インドネシアChromebook汚職事件の深層を見ると、単なる政府調達の不正を超えた、テクノロジー業界と政治の複雑な関係が浮き彫りになります。この事件の核心は、約6億ドル規模の教育デジタル化プログラムにあります。
注目すべきは、2018年から2019年にかけての技術評価でChromebookがインドネシアの劣悪なインターネット環境には適さないと判定されたにも関わらず、Windows機器の採用が見送られた点です。これは、オフライン機能を重視した合理的な判断が、何らかの理由で覆されたことを意味します。
技術選択の政治的意味
この事件が示すのは、教育技術の導入における「技術中立性」の重要性です。ChromebookとWindows機器の選択は、単なる価格や性能の問題ではなく、長期的な教育インフラの方向性を決定づけます。
ChromebookはGoogleのエコシステムに強く依存するため、一度大規模導入すると、将来的な変更が困難になる「ベンダーロックイン」のリスクを抱えています。特に途上国では、このような技術的依存が国家の教育政策に与える影響は軽視できません。
新興国における教育技術導入の課題
インドネシアの事例は、新興国における教育技術導入の典型的な課題を浮き彫りにしています。安定したインターネット接続が前提となるクラウドベースのソリューションは、インフラが未整備の地域では実用性に欠けるからです。
このような技術ギャップは、デジタル格差を拡大させる危険性を秘めています。都市部と農村部、あるいは富裕層と貧困層の間で教育機会に差が生じる可能性があります。
巨大テック企業の市場戦略
Google Indonesia のスタッフが当局の聴取を受けた事実は、巨大テック企業の新興市場進出戦略に一石を投じています。教育分野への参入は、長期的な市場シェア獲得とユーザー囲い込みの重要な戦略です。
しかし、今回の事件により、テック企業の政府調達プロセスへの関与に対する監視が強化される可能性があります。これは、透明性と公正性を重視する調達システムの構築につながる一方で、技術革新の導入速度を遅らせる可能性もあります。
中国のリチウム資源戦略
中国湖南省での大規模リチウム発見は、電気自動車時代における資源戦略の重要性を改めて示しています。これまでリチウム原料の大部分を輸入に依存していた中国が、国内資源の確保に向けて前進したことは、電気自動車のサプライチェーンにおける地政学的バランスを変える可能性があります。
この発見が世界的に重要な意味を持つのは、中国が電気自動車の普及政策を推進しながらも、リチウム鉱床に恵まれていないという構造的な問題を抱えていたからです。
宇宙技術における西側連携の意義
日本とEUの衛星通信ネットワーク共同開発構想は、宇宙技術分野における「第三極」の形成を目指す重要な取り組みです。SpaceXのStarlinkに代表される米国の宇宙技術覇権に対する、民主主義陣営内での多様化戦略といえます。
この協力は、技術安全保障の観点から極めて重要です。重要な通信インフラを単一の民間企業に依存することのリスクを軽減し、より resilient な宇宙通信システムの構築を可能にします。
アジア太平洋地域の技術生態系
インドのパブリッククラウド市場が年率22.6%で成長し、2029年には304億ドル規模に達するという予測は、同地域の急速なデジタル化を反映しています。しかし、この成長は諸刃の剣でもあります。
クラウドサービスの普及は、効率性とコスト削減をもたらす一方で、データ主権やプライバシー保護の新たな課題を生み出します。特に、海外のクラウドプロバイダーへの依存度が高まることで、データの国外流出や外国政府によるアクセス可能性への懸念が高まっています。
規制環境の変化と企業戦略
ニュージーランドの競争当局がUberの使用を控えるよう勧告した事例は、プラットフォーム経済における規制強化の兆しを示しています。従来の「規制の真空地帯」で急成長したテック企業に対し、各国政府が適切な規制フレームワークの構築を模索している状況です。
これは、イノベーションの促進と公正な競争環境の確保という、相反する要請のバランスを取る必要性を示しています。企業にとっては、コンプライアンス コストの増加とビジネスモデルの見直しを迫られる可能性があります。
【用語解説】
Chromebook
Googleが開発したChrome OSを搭載するノートパソコン。クラウドベースのオペレーティングシステムのため、インターネット接続が必須で、オフライン環境では機能が大幅に制限される。
教育デジタル化プログラム
インドネシア政府が2020年から2022年にかけて実施した学校教育のIT化政策。約25万台のChromebookを全国の学校に配備することを目的とした。
衛星コンステレーション
複数の人工衛星を協調的に運用するシステム。単一の大型衛星では困難な高頻度・高精度の観測や通信を可能にする。
パブリッククラウド
IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)などのクラウドサービスを第三者が提供する形態。
Gaganyaan
インドが開発中の有人宇宙船プロジェクト。2027年に初の有人宇宙飛行を目指している。
ベンダーロックイン
特定の企業の製品やサービスに依存することで、他社製品への乗り換えが困難になる状況。
【参考リンク】
Google(外部)
世界最大の検索エンジン企業。Chrome OSやChromebookの開発元。
Cisco Systems(外部)
アメリカのネットワーク機器大手。2025年7月にベン・ドーソンをアジア太平洋・日本・大中華圏担当プレジデントに任命。
SpaceX(外部)
イーロン・マスクが設立した宇宙開発企業。Starlinkサービスで衛星通信市場を牽引。
ISRO(インド宇宙研究機関)(外部)
インドの宇宙開発を担う政府機関。Gaganyaan有人宇宙飛行計画を推進。
【参考記事】
Google Ensnared in $600M Chromebook Corruption Probe(外部)
インドネシアChromebook汚職事件の詳細を分析した記事。
Indonesia scrutinizes Chromebook procurement(外部)
新華社通信によるGoogle Indonesia幹部の検察聴取に関する報道。
Indonesia Probes IDR 9.9T Chromebook Scandal(外部)
インドネシア教育省のChromebook汚職事件で6人の高官が聴取を受けた報道。
【編集部後記】
今回のアジア各国の動向を見ていて、皆さんはどのニュースが最も印象に残りましたか?インドネシアの教育技術導入における課題、中国のリチウム資源確保、日本・EU・インドの宇宙技術競争など、それぞれが私たちの日常に深く関わってくる変化です。中でも教育現場でのChromebook導入問題は、単なる調達の話を超えて、次世代の学習環境をどう構築するかという根本的な問いを投げかけています。皆さんの職場や身の回りでも、似たような「技術選択の難しさ」を感じた経験はありませんか?また、これらの地政学的な変化が、日本の技術産業や私たちの働き方にどのような影響を与えると思われますか?ぜひSNSで教えてください。
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