QpiAI、3200万ドル調達でインド量子コンピューター開発を加速 – 政府主導で世界進出へ

QpiAI、3200万ドル調達でインド量子コンピューター開発を加速 - 政府主導で世界進出へ

インドのスタートアップQpiAIは2025年7月16日、AIと量子コンピューティングを統合する企業向けソリューションでシリーズA資金調達ラウンドにて3200万ドルを調達したと発表しました。インド政府の7億5000万ドル規模の国家量子ミッションとAvataar Venturesが共同主導し、ポストマネー評価額は1億6200万ドルとなりました。

ベンガルール本社のQpiAIは2019年設立で、米国とフィンランドに子会社を持ちます。同社は2025年4月にインド初のフルスタック量子コンピューター「QpiAI-Indus」を25超伝導量子ビットで発表しました。

QpiAIは技術ロードマップで2027年に128量子ビット、2028年に1000量子ビットの開発を目指します。論理量子ビットでは2027年に5論理量子ビット、2030年に100論理量子ビットのシステム開発を計画しています。同社は新資金でシンガポールと中東への市場参入を目指しています。

From: 文献リンクIndia eyes global quantum computer push — and QpiAI is its chosen vehicle

【編集部解説】

今回のQpiAIの資金調達は、単なるスタートアップの成長記録を超えた重要な意味を持っています。インドが国家戦略として量子技術分野で世界的プレゼンスを確立しようとする野心的な取り組みの象徴的な出来事として捉えるべきでしょう。

量子コンピューティングの現在地と技術的意義

量子コンピューティングは、従来のコンピューターが0と1のビットで情報を処理するのに対し、量子ビット(qubit)が0と1の重ね合わせ状態を利用して並列処理を行う革新的な技術です。QpiAIの「QpiAI-Indus」が搭載する25量子ビットという規模は、現在の技術水準では実用的な応用が可能なレベルにあります。

特に注目すべきは、同社が単一量子ビットゲートの忠実度99.7%、2量子ビットゲートの忠実度96%を達成している点です。これは量子計算の精度を示す重要な指標で、実用的な量子アルゴリズムの実行に必要な品質水準を満たしています。また、量子ビット持続時間(T1/T2)が30マイクロ秒/25マイクロ秒という性能は、実用的な量子計算に十分な時間を提供します。

野心的な技術ロードマップの意義

QpiAIの開発計画は段階的かつ戦略的に設計されています。物理量子ビットでは2025年の64量子ビットから始まり、2027年の128量子ビット、2028年の1000量子ビットへと進化します。

同時に、実用的な量子コンピューティングに不可欠な論理量子ビットの開発も並行して進めており、2030年の100論理量子ビットまで明確な目標を設定しています。この二重のアプローチは、NISQ時代から誤り耐性量子コンピューティング(FTQC)時代への移行を見据えた戦略として評価できます。

AIとの融合がもたらす新たな可能性

QpiAIの独自性は、量子コンピューティングとAIの統合アプローチにあります。CEOのナガラジャ氏が述べているように、「量子チップの設計空間は非常に大きく、誤り訂正のための論理量子ビットを得るために数千の量子ビットを統合する際、AIがより大きな役割を果たす」という視点は技術的に正確です。

同社のエージェンティックAIシステムは、量子ビットの製造と最適化を自動化し、忠実度・誤り訂正・ノイズを目的に応じて調整する革新的な技術として位置づけられます。

インドの国家戦略と地政学的含意

7億5000万ドル規模の国家量子ミッション(NQM)は、2023年に開始されたインド政府の戦略的イニシアチブです。このミッションは量子技術を経済機会と国家安全保障の両方の観点から位置づけており、8年以内に50-1000物理量子ビットを持つ中規模量子コンピューターの開発を目指しています。

政府が直接QpiAIの資金調達に参加したことは、単なる産業支援を超えた戦略的投資であることを示唆しています。これは中国や米国が量子技術分野で先行する中、インドが第三極として台頭しようとする意図の表れでしょう。

商業的実現性と市場展開

QpiAI100人体制(25人の博士号取得者を含む)は、技術開発と商業化の両面で適切な規模と言えるでしょう。シンガポールや中東への展開計画は、アジア太平洋地域での量子技術普及の起点となる可能性があります。

潜在的リスクと課題

一方で、量子コンピューティング分野には技術的・商業的リスクが存在します。1000量子ビットシステムや100論理量子ビットシステムの実現は、現在の技術進歩率を考慮しても挑戦的な目標です。

また、QpiAIが目指すローカル製造についても、量子デバイス製造に必要な極低温環境や高精度部品の調達が課題となる可能性があります。

長期的な産業への影響

このニュースが示す最も重要な含意は、量子技術の競争が従来の米中二極構造から、インドを含む多極構造に移行する可能性です。QpiAIの成功は、他のアジア諸国による量子技術投資の触発要因ともなり得ます。

製薬、化学、金融、物流といった産業分野では、今後5-10年間で量子コンピューティングが実用的な問題解決ツールとして浸透していく可能性が高まっています。特に分子シミュレーションや最適化問題の領域では、従来のスーパーコンピューターでは不可能な計算が現実的になるでしょう。

【用語解説】

量子ビット(Qubit)
量子コンピューターの基本単位。従来のコンピューターのビット(0または1)と異なり、0と1の重ね合わせ状態を持つことができ、並列処理による高速計算を可能にする。

超伝導量子ビット
超伝導体の性質を利用した量子ビット。極低温環境で動作し、量子コンピューターの実装方式の一つとして広く採用されている。

論理量子ビット
複数の物理量子ビットを組み合わせてエラー訂正を行い、実用的な量子計算に使用できる安定した量子ビット。

NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)
ノイズあり中規模量子の略。現在の量子コンピューター技術の段階を示す用語で、完全な誤り訂正は持たないが有用な計算が可能な規模の量子システム。

FTQC(Fault-Tolerant Quantum Computing)
誤り耐性量子コンピューティング。量子エラー訂正技術を用いて、ノイズや誤りに対して耐性を持つ量子計算システム。

量子ゲート忠実度
量子ゲート操作の精度を示す指標。理想的な量子操作に対する実際の操作の正確さを表す。

T1/T2時間
量子ビットの持続時間を示す指標。T1は緩和時間、T2はデコヒーレンス時間を表し、量子状態がどれだけ長く維持できるかを示す。

【参考リンク】

QpiAI公式サイト(外部)
AIと量子コンピューティング統合ソリューション提供企業の公式サイト

National Quantum Mission公式サイト(外部)
インド政府の国家量子ミッション詳細と最新情報を提供

【参考動画】

【参考記事】

QpiAI、インドで量子時代の幕開けを告げる25量子ビットの量子コンピューター「Indus」を発表(外部)
2025年4月発表のQpiAI-Indusの技術仕様と開発ロードマップ詳細

QpiAI、インド初のフルスタック25量子ビット超伝導量子コンピューターを国家量子ミッションの下で発表(外部)
量子ビジネス専門誌による25量子ビットシステム発表の詳細分析



【編集部後記】

量子コンピューティングとAIの融合という、まさに「未来の計算」が現実のものとなりつつある今、皆さんはどのような可能性を感じていらっしゃるでしょうか。特に興味深いのは、インドという新たなプレイヤーが量子技術の世界地図を塗り替えようとしている点です。皆さんの業界や関心分野において、この技術進歩がどのような変化をもたらすと思われますか?創薬、材料開発、金融最適化など、様々な分野での応用可能性について、ぜひ皆さんの視点をお聞かせください。

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