ISC2は2025年7月16日、世界最大のサイバーセキュリティ専門家組織として「2025 AI Adoption Pulse Survey」を発表した。調査は2025年5月13日から22日にかけて、436名のサイバーセキュリティ専門家を対象に実施された。
調査結果によると、回答者の所属組織のうち30%がAIセキュリティツールを「導入済み」、42%が「評価・テスト中」と回答した。組織規模別では、従業員数10,000人以上の大規模組織で導入率が最も高く37%に達している。これに中大規模組織(2,500-9,999人)と小規模組織(100-499人)が33%で続く。中規模組織(500-2,499人)と最小規模組織(1-99人)の導入率は20%に留まっている。
業界別では、産業企業が38%、ITサービスが36%、専門サービス組織が34%で導入をリードしている。一方、金融サービス部門は21%、公共部門は16%と導入率が低い。
AIが最も効果的とされる分野は、ネットワーク監視・侵入検知が60%、エンドポイント保護・対応が56%、脆弱性管理が50%、脅威モデリングが45%、セキュリティテストが43%となっている。導入済み組織の70%が、チームの全体的効果に積極的な影響があったと報告している。
From: ISC2 Finds Orgs Are Increasingly Leaning on AI
【編集部解説】
今回のISC2調査結果は、サイバーセキュリティ業界におけるAI導入の転換点を示す重要な指標となっています。調査の数値自体は複数の信頼できる情報源で一致しており、事実関係に問題はありません。しかし、この調査結果を深く読み解くと、単なる技術導入の数字以上の意味が見えてきます。
AI導入の「慎重さ」が示す業界の成熟度
42%の組織が「評価・テスト段階」にあるという数値は、サイバーセキュリティ業界の慎重なアプローチを物語っています。これは他の業界と比較して特徴的な傾向です。金融サービス(21%)や公共部門(16%)の導入率が低い一方で、それぞれ41%と36%が将来的な導入を検討していることから、規制の厳しい業界ほど慎重にAIの検証を進めていることがわかります。
組織規模による導入格差の現実
大規模組織(10,000人以上)の37%に対し、中小規模組織(1-99人、500-2,499人)が20%という導入率の差は、セキュリティ格差の拡大を示唆しています。
AIセキュリティツールの導入・運用にはコストと専門知識が必要であり、リソースの豊富な大企業が先行する構造となっています。これは中小企業のセキュリティ水準に長期的な影響を与える可能性があります。
技術的能力の向上と実践的効果
ネットワーク監視・侵入検知(60%)、エンドポイント保護・対応(56%)での高い効果は、AIの大規模データ処理能力がサイバーセキュリティの中核機能と親和性が高いことを示しています。
これらの分野では、リアルタイムでの大量データ解析が必要であり、AIの得意領域と完全に合致します。従来は経験豊富なアナリストが時間をかけて行っていた脅威の特定・分析が、秒単位で実行できるようになります。
人材育成における新たな課題
Casey Marks ISC2最高資格責任者の発言にもあるように、AIは反復的なタスクを自動化し、専門家がより意味のある作業に集中できるようにしています。しかし、これは同時に従来のエントリーレベル職に影響を与える可能性も示唆しています。
採用への影響と新たな人材要件
調査では、44%の専門家がAI導入による採用への影響がないと報告し、28%がエントリーレベルの新たな機会創出を見込んでいます。これは業界がAIとの共存を模索していることを示しています。
未来への展望と戦略的考察
今回の調査結果は、サイバーセキュリティ業界が技術革新と人材育成のバランスを模索している過渡期にあることを示しています。AI導入による効率化は確実に進む一方で、新しいスキルセットを持つ人材の育成が急務となっています。
特に導入済み組織の70%が積極的な効果を報告していることから、AIの実用性は確実に証明されつつあります。今後は技術的な効果だけでなく、人材育成や組織文化の変革も含めた総合的なアプローチが求められるでしょう。
【用語解説】
SOC(Security Operations Center)
企業のセキュリティ監視・分析・対応を24時間365日で行う専門組織。リアルタイムで脅威を検知し、インシデント対応を実施する。
2025 AI Adoption Pulse Survey
ISC2が実施したAIセキュリティツールの導入状況の調査。組織の効果性、エントリーレベル職、採用への影響を評価する。
エージェンシックAI(Agentic AI)
自律的に判断・行動できる人工知能システム。人間の指示なしに複雑なタスクを実行し、状況に応じて適切な対応を選択する。
脅威モデリング
システムやアプリケーションに対する潜在的な脅威を体系的に分析・評価し、適切なセキュリティ対策を策定する手法。
生成AI(Generative AI)
テキスト、画像、音声などのコンテンツを自動生成する人工知能技術。GPTやChatGPTなどが代表例。
【参考リンク】
ISC2公式サイト(外部)
世界最大のサイバーセキュリティ専門家組織。CISSP等の認定資格を提供
ISC2 Japan Chapter(外部)
日本におけるISC2の公式支部。技術交流・情報共有を促進
【参考記事】
ISC2 Research Reveals Cybersecurity Teams Are Taking a Cautious Approach to AI Adoption(外部)
ISC2公式の調査発表ページ。436名の専門家を対象とした詳細な調査結果を報告
ISC2 Research Reveals Cybersecurity Teams Are Taking a Cautious Approach to AI Adoption – PR Newswire(外部)
調査結果の公式発表。Casey Marks最高資格責任者のコメントを含む包括的な調査結果
【編集部後記】
今回のISC2調査結果を見て、皆さんはどのように感じられましたか?特に印象的だったのは、導入済み組織の70%が「チームの全体的効果に積極的な影響があった」と報告している点です。もし皆さんが現在サイバーセキュリティ業界で働いている、もしくは転職を検討されているなら、この30%という導入率をどう捉えますか?また、組織規模による導入格差(大企業37% vs 中小企業20%)について、皆さんの職場ではいかがでしょうか?AI導入による効率化の恩恵を受けながらも、人間にしかできない戦略的思考や倫理的判断の重要性がむしろ高まっているように思えます。皆さんは、この変化の波をどのように捉え、どのようなスキルを身につけていこうと考えていますか?皆さんのご意見やご体験を、ぜひお聞かせください。
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