2025年、アメリカでZiplocとRubbermaidが集団訴訟に直面している。カリフォルニア州在住のLinda Cheslow氏がSC Johnson(Ziploc製造元)を、別の原告らがNewell Brands(Rubbermaid製造元)を提訴した。
両社の製品は「電子レンジ対応」「冷凍庫対応」と表示されているが、実際にはポリエチレンとポリプロピレン製で、極端な温度でマイクロプラスチックを食品に放出するとされている。訴状では、この表示が消費者に「誤解を招いている」と主張されている。
SC Johnson広報担当者は「説明書に従って使用する限り安全であり、訴訟には根拠がない」と反論している。マイクロプラスチックの摂取量は推定で年間39,000から52,000個、空気中の粒子を含めると120,000個に達するとされている。血管内のマイクロプラスチックは心臓発作や脳卒中のリスク増加との関連が指摘されている。
From: Ziploc, Rubbermaid Sued Over Microplastics: Should You Ditch Plastic Food Containers?
【編集部解説】
マイクロプラスチック問題の科学的メカニズム
今回の集団訴訟で焦点となっているのは、日常的に使用されるプラスチック食品容器から放出されるマイクロプラスチックの問題です。マイクロプラスチックとは直径5ミリメートル以下の微小なプラスチック片で、大きなプラスチック製品が物理的・化学的に分解されることで発生します。
特に問題視されているのは、ZiplocやRubbermaidの製品に使用されているポリエチレンとポリプロピレンという素材です。これらの材料は電子レンジでの加熱や冷凍庫での保存時に構造的ストレスを受け、表面層が劣化してマイクロプラスチック粒子を放出することが科学的に確認されています。
健康リスクの最新知見
近年の研究では、マイクロプラスチックが単なる環境汚染物質を超えた深刻な健康リスクをもたらす可能性が明らかになっています。これらの微小粒子は消化管や肺の組織を通過して血流に入り込み、心臓、脳、肝臓などの重要な臓器に蓄積することが確認されています。
特に懸念されているのは、マイクロプラスチックが血液脳関門を通過する能力を持つことです。血管内に蓄積されたマイクロプラスチックは、心臓発作や脳卒中のリスク増加と関連があることが研究で示されており、組織炎症や細胞死を引き起こす可能性も指摘されています。
法的動向と企業の対応
SC Johnson社は「説明書に従って使用する限り安全」との立場を維持していますが、この訴訟は製品表示の適切性を根本から問うものです。現行のFDA基準では「電子レンジ対応」という表示に対する統一的な承認制度が存在せず、メーカーの自主判断に委ねられている部分があります。
企業側は「マイクロプラスチックは環境中に広く存在しており、発生源は多岐にわたる」と主張していますが、消費者団体は「意図的にリスクを隠蔽している」と反論しています。この対立は、食品包装業界全体の透明性向上を促す契機となる可能性があります。
技術的解決策と代替手段の現状
この問題に対する実用的な解決策として、ガラス製容器、ステンレススチール製品、セラミック容器などの非プラスチック代替品への注目が高まっています。これらの材料は温度変化に対して安定しており、化学物質の溶出リスクがほぼゼロです。
同時に、生分解性プラスチックや植物由来材料の研究開発も加速しています。ただし、これらの新材料も完全な解決策ではなく、製造コスト、保存性能、環境への影響など多角的な検討が必要です。
消費者行動への長期的影響
この訴訟は消費者の食品安全に対する意識を根本的に変える可能性があります。便利さを重視してきた現代の食生活において、安全性への関心が高まることで、より持続可能で健康的な選択肢への需要が増加すると予想されます。
特に、テイクアウト文化が定着した現代社会において、食品容器の安全性は個人の健康だけでなく、公衆衛生の観点からも重要な課題となっています。この問題は、食品業界全体のイノベーションを促進する触媒となる可能性を秘めています。
【用語解説】
マイクロプラスチック
直径5ミリメートル以下の微小なプラスチック片。環境中に広く存在し、食品や水を通じて人体に摂取される可能性がある。
ポリエチレン
プラスチックの一種で食品包装や容器に広く使用される材料。熱や冷凍の繰り返しで劣化しやすく、マイクロプラスチックを放出することがある。
ポリプロピレン
耐熱性と耐寒性を持つプラスチック材料。食品容器に広く利用されているが、極端な温度で構造劣化を起こしマイクロプラスチックを放出する可能性がある。
血液脳関門
血液中の物質が脳内に侵入することを防ぐ生体防御機構。マイクロプラスチックはこの関門を通過する能力を持つとされている。
Linda Cheslow
カリフォルニア州在住でSC Johnson社に対してZiplocのマイクロプラスチック問題で集団訴訟を提起した原告。
【参考リンク】
Ziploc(外部)
食品保存用のジップ付きプラスチック袋や容器を提供するブランド。50年以上にわたり家庭で広く使用されている。
Rubbermaid – Newell Brands(外部)
家庭用の収納、整理、清掃製品を展開するブランド。高品質な革新的ソリューションの開発を目指している。
SC Johnson(外部)
Ziplocブランドを所有する企業で、家庭用品メーカー。レイドやグレードなどの自社ブランドを展開している。
【参考記事】
マイクロプラスチックを放出?アメリカで「ジップロック」に集団訴訟(外部)
カリフォルニア州のLinda Cheslow氏によるSC Johnson社への集団訴訟について詳細に報告。
「マイクロプラスチックを放出している」ジップロックに対し(外部)
アメリカでのZiplocに対する集団訴訟について、企業側の主張とマイクロプラスチック問題の背景を解説。
【編集部後記】
今回のZiplocとRubbermaidの訴訟は、私たちの日常生活に直結する重要な問題を提起しています。普段何気なく使っている「電子レンジ対応」表示の容器が、実は安全ではない可能性があるという事実は衝撃的です。みなさんの家庭では、食品の保存や再加熱にどのような容器を使用されているでしょうか。また、この問題についてみなさんはどのような対策を考えられますか。また、食品安全性に関してどのような情報を求めていらっしゃるでしょうか。ぜひご意見をお聞かせください。
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