CNETが2025年7月24日に発表したノートPC用CPU市場分析によると、2025年の主要プロセッサーは4つの陣営に分かれる。
AppleのM4チップは2024年5月7日に発表され、M4搭載のMac製品群が2024年11月8日から販売開始された。IntelのCore Ultra 200Vシリーズ(Lunar Lake)は2024年9月3日のIFA 2024で発表され、NPU性能48 TOPS、TDP8-37Wを実現する。AMDのRyzen AI 300シリーズは2024年6月のComputex 2024で発表され、Ryzen AI 7 350はNPU性能50 TOPS、TDP15-54Wである。QualcommのSnapdragon Xシリーズは2023年10月に発表され、2024年6月18日からSnapdragon X搭載機の販売が開始された。MicrosoftのCopilot Plus PCプラットフォームは40 TOPS以上のNPU性能を要求し、Snapdragon X搭載機は20時間超のバッテリー駆動を実現する。
記事執筆者Alan Bradleyは、総合的にApple Mシリーズを最優先推奨とし、Windows環境ではQualcomm Snapdragon Xシリーズを第一選択肢として評価している。
From: Laptop CPUs in 2025 Explained: What to Know Before Buying Your Next Laptop
【編集部解説】
CPU市場の構造変化が示す「コンピューティングの民主化」
2025年のノートPC用CPU市場を見渡すと、単なる性能競争を超えた根本的な変化が起きています。これまでWindowsの世界ではIntelとAMDによるx86アーキテクチャが絶対的な支配を続けてきましたが、2024年6月のCopilot Plus PC登場により、QualcommのSnapdragon Xシリーズが真の第三極として確立されました。
この変化の本質は、コンピューティング能力の「民主化」にあります。従来、長時間のバッテリー駆動と高性能を両立できるのはAppleのMacBookだけでしたが、Windows環境でも同等の体験が可能になったのです。
NPU搭載が標準化する意味とAI処理の分散化
MicrosoftがCopilot Plus PCに40 TOPS以上のNPU性能を要求したことで、AI処理専用チップの搭載が事実上の標準となりました。これは単なるスペック競争ではなく、コンピューティングの根本的なパラダイムシフトを意味します。
従来のAI処理は、インターネット経由でクラウドサーバーに依存していました。しかし、NPU搭載により、個人のデバイス上で高度なAI処理が可能になります。これにより、プライバシーの保護、レスポンス速度の向上、オフライン環境での利用が実現されます。
特に注目すべきは、エントリーレベルのSnapdragon X(X1-26-100)でも45 TOPSのNPU性能を確保している点です。600ドル台のノートPCでも本格的なAI機能が利用できることで、AI技術の恩恵を受けられるユーザー層が大幅に拡大するでしょう。
アーキテクチャ戦争の新局面とx86の対応
Arm系プロセッサの躍進に対し、x86陣営も対抗策を打ち出しています。2024年9月のIFA 2024で発表されたIntel Lunar Lake(Core Ultra 200V)は従来のx86設計でありながら、Arm系に迫る電力効率を実現しました。一方で、AMDは2024年6月のComputex 2024で発表したZen 5アーキテクチャベースのRyzen AI 300シリーズで、マルチコア性能とAI処理能力の両立を図っています。
しかし、ここで重要なのは互換性の問題です。Arm系WindowsではPrismエミュレーションにより多くのx86アプリが動作しますが、パフォーマンスの低下は避けられません。企業環境では既存のソフトウェア資産との互換性が最優先されるため、x86系プロセッサの需要は当面続くと予想されます。
バッテリー技術革新の波及効果
Snapdragon X搭載機の20時間超という駆動時間は、単なる利便性向上以上の意味を持ちます。これにより、電源アダプターを持ち歩く必要がなくなり、真の意味でのモバイルワークが可能になります。
また、長時間駆動が実現されることで、災害時や停電時のバックアップコンピューターとしての役割も期待できます。社会インフラとしてのコンピューターの在り方を変える可能性があるのです。
潜在的なリスクと課題
一方で、この急激な変化には懸念もあります。まず、Arm系Windowsの互換性問題は完全には解決されていません。特に企業の基幹システムや特殊なソフトウェアでは、予期しない不具合が発生する可能性があります。
また、Intel Lunar Lakeでは16GBまたは32GBのメモリがチップに統合されており、後からのアップグレードが不可能です。これは将来的な拡張性を制限する要因となる可能性があります。さらに、NPUによるローカルAI処理の普及は、個人データの取り扱いに関する新たな課題を生み出すかもしれません。MicrosoftのRecall機能に対する批判が示すように、プライバシーとAI機能の利便性のバランスを取ることが重要になります。
産業構造への長期的影響
この変化は、単なる技術的な進歩を超えて、産業構造全体に影響を与えるでしょう。従来のWintel(Windows + Intel)体制に代わり、より多様な選択肢が提供されることで、イノベーションが加速する可能性があります。特に、エッジAI処理の普及により、クラウドサービスへの依存度が相対的に低下する可能性があります。これは、データセンター事業者やクラウドサービスプロバイダーにとって新たな戦略の検討を迫るものです。
また、QualcommのようなArmプロセッサメーカーの台頭により、モバイル技術とPC技術の境界がさらに曖昧になることが予想されます。スマートフォンとPCの融合が加速し、新たなデバイスカテゴリーが生まれる可能性もあるでしょう。
この変化は新たなチャンスの到来を意味します。特に、モバイルワークやAI活用に積極的な方々にとって、従来の制約から解放された新世代のコンピューティング環境が手に入ることになります。ただし、新技術の採用には慎重な判断も必要です。自身の利用用途と既存の環境を十分に検討し、最適な選択を行うことが重要でしょう。
【用語解説】
NPU(ニューラル処理ユニット)
AI処理に特化した専用チップ。CPUやGPUよりも電力効率が良く、機械学習やディープラーニングの演算を高速に処理する。ローカルでのAI処理を可能にし、クラウド依存を軽減する。
TOPS(兆演算毎秒)
Trillion Operations Per Secondの略。NPUのAI処理性能を示す指標で、1秒間に実行できる演算回数を兆単位で表現する。数値が高いほど高性能なAI処理が可能。
TDP(熱設計電力)
Thermal Design Powerの略。プロセッサが発生する最大熱量を示し、実質的な消費電力の目安となる。数値が低いほど省電力で、バッテリー駆動時間が長くなる。
x86アーキテクチャ
IntelとAMDが採用するCPU設計方式。複雑命令セットコンピューティング(CISC)を使用し、高い後方互換性と単一コア性能を持つ。従来のWindowsソフトウェアとの互換性に優れる。
Armアーキテクチャ
縮小命令セットコンピューティング(RISC)を採用するCPU設計。シンプルな命令で高い電力効率を実現するが、x86ソフトウェアの実行にはエミュレーションが必要な場合がある。
big.LITTLE
Armアーキテクチャで採用される設計手法。高性能コア(big)と省電力コア(LITTLE)を組み合わせ、負荷に応じてコアを使い分けることで効率性と性能を両立する。
ハイブリッドアーキテクチャ
Intelが採用するCPU設計。高性能コア(P-core)と効率コア(E-core)を混在させ、タスクの重要度に応じて適切なコアに処理を振り分ける仕組み。
チップレット
AMDが採用する設計手法。複数の小さなプロセッサを単一パッケージに統合することで、高いコア数を実現する。ただし、チップレット間の通信でレイテンシーが発生する場合がある。
Prismエミュレーション
MicrosoftがWindows on Armで提供するソフトウェア。x86アプリケーションをArm環境で実行するためのエミュレーション技術。互換性は向上したが、パフォーマンス低下は避けられない。
Copilot Plus PC
Microsoftが2024年5月に発表したAI PC規格。40 TOPS以上のNPU性能を要求し、ローカルでのAI処理を重視する。QualcommのSnapdragon Xシリーズが最初の対応チップとなった。
【参考リンク】
Intel Lunar Lake公式サポートページ(外部)
2024年9月のIFA 2024で発表されたCore Ultra 200Vシリーズの技術仕様とNPU性能詳細
AMD Ryzen AI 300シリーズ公式ページ(外部)
Zen 5アーキテクチャと50 TOPSのNPU性能を搭載したRyzen AI 300シリーズの包括的情報
Qualcomm Snapdragon Xシリーズ公式ページ(外部)
Windows PC向けSnapdragon X Elite/Plus/標準版の技術仕様と長時間バッテリー駆動の詳細
Apple M4チップ発表ニュースリリース(外部)
2024年5月7日発表のM4チップ技術詳細。第2世代3nmプロセスと38 TOPSのNeural Engine搭載
Microsoft Copilot Plus PC公式ページ(外部)
40 TOPS以上のNPU性能を要求するMicrosoftの新しいAI PC規格の詳細情報
【参考記事】
Snapdragon X Elite laptops last 15+ hours on our battery test(外部)
Tom’s HardwareによるSnapdragon X Elite搭載機のバッテリーテスト結果と詳細比較
Intel launches Lunar Lake: claims Arm-beating efficiency(外部)
Tom’s HardwareによるIntel Lunar Lake発表時の分析。Arm系に匹敵する効率性の検証
Introducing Copilot+ PCs(外部)
Microsoft公式ブログによるCopilot Plus PC発表記事。40 TOPS以上の要件と戦略を説明
AMD Reveals Ryzen AI 300 Series “Strix Point” Mobile Processors(外部)
Tom’s HardwareによるAMD Ryzen AI 300シリーズの詳細分析とZen 5アーキテクチャ解説
【編集部後記】
皆さんは次のノートPC選びで、どの要素を最重視されるでしょうか?バッテリーの持続時間、AI機能の活用、それとも従来の互換性でしょうか。2024年から2025年にかけて起きている変化は本当にエキサイティングな転換点で、私たち一人ひとりのニーズに応じた選択肢が劇的に広がりました。もしよろしければ、現在お使いのノートPCでの体験や、次の買い替えで期待することを、ぜひSNSで #innovaTopia とつけてシェアしていただけませんか?皆さんのリアルな声こそが、テクノロジーの未来を形作る貴重な指針になると感じています。私たちも一緒に、この変化の波を体感していければと思います。