DAC技術に12億ドル大型投資:米エネルギー省がテキサス・ルイジアナに巨大CO2回収施設建設

DAC技術に12億ドル大型投資:米エネルギー省がテキサス・ルイジアナに巨大CO2回収施設建設

米国エネルギー省は2023年8月、テキサス州とルイジアナ州に大規模な直接空気回収(DAC)施設2カ所を建設するため計12億ドルの投資を発表した。

各施設は年間100万トンのCO2を大気から回収する設計で、2施設合計で年間200万トン以上のCO2除去を目指す。これはガソリン車約44万5,000台分の年間排出量に相当する。また、最終的なCO2除去量は年間3,000万トンに達する可能性がある。

ルイジアナ州のProject Cypressは米国非営利団体バテルが主導し、スイスのClimeworksとHeirloom Carbon Technologyが参画、最大6億ドルが配分される。テキサス州のSouth Texas DAC Hubには最大6億ドルが配分され、OccidentalとCarbon Engineeringが運営する。

Heirloom Carbon TechnologyのCEOシャシャンク・サマラは「2年前はペトリ皿でグラム単位のCO2除去をしていたが、この指数関数的成長を続ければ年間10億トンは達成可能」と述べた。ジェニファー・グランホルム エネルギー長官は「炭素排出削減だけでは気候変動の影響を逆転できない。既に大気中に放出したCO2も除去する必要がある」と説明した。

From: 文献リンクThe U.S. Is Pouring $1.2 Billion into Two Giant CO2-Sucking Vacuums for Climate Action

【編集部解説】

「大気から直接二酸化炭素を吸引する装置に12億ドル」というニュースは、一見するとSFのような話に聞こえるかもしれませんが、実はこれは気候テクノロジー分野において現実的な次のステップなのです。

この投資が画期的なのは、DAC技術がついに「実証実験段階」から「商業スケール化段階」に移行した点にあります。今回のプロジェクト発表当時、世界最大のDAC施設はアイスランドにあるClimeworksの「Orca」で年間4,000トン回収施設でしたが、今回のプロジェクトはその約250倍の規模を一気に実現しようとしています。これは技術的な大躍進と言えるでしょう。

技術面で注目すべきは、2つの異なるアプローチが採用されている点です。Climeworksは従来の固体アミン吸着法を使用し、Heirloom Carbon Technologyは石灰石を活用した新しい手法を採用しています。この多様性により、リスク分散と技術の比較検証が可能になります。

経済的インパクトも重要な要素です。現在のDAC技術のコストは1トンあたり数百ドル程度ですが、Inflation Reduction Actにより45Q税額控除が1トンあたり180ドルとなり、商業的実現可能性が格段に向上しました。加えて、両プロジェクトで数多くの雇用創出が見込まれており、新たな産業クラスターの形成が期待されます。

しかし、潜在的なチャレンジも存在します。最大の課題はエネルギー消費量です。DAC施設を稼働させるために必要な電力が膨大で、この電力が化石燃料由来の場合、本末転倒になるリスクがあります。そのため、両プロジェクトとも再生可能エネルギーでの稼働を前提としています。

政治的リスクも無視できません。2025年に入り、新政権下でこれらのプロジェクトへの資金が削減される可能性が指摘されており、長期的な政策継続性に不安要素があります。

技術の将来性を考える上で重要なのは、これらの施設が単なる実験ではなく、スケールアップの足がかりだという点です。Heirloom CEOのシャシャンク・サマラ氏が「2年前はペトリ皿でグラム単位の回収だったが、指数関数的成長を続ければ年間10億トンも達成可能」と述べているように、技術の急速な進歩が期待されています。

この投資は、日本にとっても重要な示唆を与えています。米国が国家戦略レベルでDAC技術に投資する中、日本も気候テック分野での国際競争力維持のため、類似の戦略的投資が求められる時期に来ているのかもしれません。

【用語解説】

直接空気回収(DAC: Direct Air Capture)
大気中から直接二酸化炭素を回収する技術である。工場の煙突などから排出される排ガスを回収する従来の炭素回収とは異なり、既に大気中に存在するCO2を除去する。

ネットゼロ排出
人間活動によって排出される温室効果ガスと大気から除去される温室効果ガスの量がバランスして、実質的にゼロになる状態である。

Inflation Reduction Act(インフレ削減法)
2022年に成立した米国の気候変動対策法で、45Q税額控除により炭素回収・貯蔵技術の商業化を促進している。

Bipartisan Infrastructure Law(超党派インフラ法)
2021年に成立した米国のインフラ投資法で、Regional DAC Hubsプログラムの資金源となっている。

地質学的貯蔵
捕捉したCO2を地下深くの岩石層に恒久的に貯蔵する技術である。アイスランドでは玄武岩との反応により炭酸塩鉱物として固化される。

カルサスー郡(Calcasieu Parish)
ルイジアナ州南西部に位置する郡で、Project Cypress Southwest施設の設置予定地である。

エクター郡(Ector County)
テキサス州西部に位置する郡で、South Texas DAC Hubの主要施設STRATOSの建設予定地である。

【参考リンク】

Climeworks(外部)
スイスを拠点とする世界最大のDAC技術企業。アイスランドで年間3万6,000トンのCO2を回収する世界最大のDAC施設「Orca」を運営している。

Heirloom Carbon Technology(外部)
米国カリフォルニア州を拠点とするDAC技術企業。石灰石を活用した独自のDAC技術を開発し、2023年に米国初の商業用DAC施設を稼働開始。

Carbon Engineering(外部)
カナダを拠点とするDAC技術企業。2023年にOccidental Petroleumに11億ドルで買収され、大規模DAC施設の建設を計画している。

Battelle Memorial Institute(外部)
1929年設立の米国の非営利科学技術開発機関。オークリッジ国立研究所の運営も手がけ、Project Cypressの主導機関である。

Project Cypress(外部)
ルイジアナ州で進行中のDAC hub プロジェクトの公式サイト。プロジェクトの詳細、進捗状況、コミュニティへの影響が確認できる。

米国エネルギー省 Regional DAC Hubs Program(外部)
米国エネルギー省が実施する大規模DAC施設建設プログラムの公式情報サイト。プログラムの詳細や進捗状況を確認できる。

【参考記事】

U.S. DOE Launches $1.8 Billion Funding for Direct Air Capture Technology(外部)
米国エネルギー省による18億ドルのDAC技術資金調達プログラムについて報告。Regional DAC Hubsプログラムの背景と戦略目標を解説。

Direct Air Capture explained(外部)
DAC技術の基本原理と動作メカニズムを詳細に解説。吸着・回収・貯蔵の3段階プロセスについて技術的説明を提供している。

【編集部後記】

今回ご紹介したDAC技術は、気候変動との戦いにおける「攻め」の新戦略と言えるでしょう。従来の「排出を減らす」取り組みから一歩進んで、「既に出してしまったCO2を取り戻す」アプローチは、まさに人類の技術力が新たな局面を迎えていることを示しています。みなさんはこの12億ドルの投資をどう捉えられますか?壮大な実験としてワクワクされるでしょうか、それとも「本当に効果があるの?」と疑問を感じられるでしょうか。これらの技術が日本にどのような影響をもたらすのか、そして私たちの暮らしがどう変わっていくのか、私たちも皆さんと一緒に見守っていきたいと思います。

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