ギルモア・スペース「Eris-1」14秒で墜落、豪企業による初の軌道ロケット試験

ギルモア・スペース「Eris-1」14秒で墜落、豪企業による初の軌道ロケット試験

2025年7月30日午前8時30分頃、オーストラリアのギルモア・スペース・テクノロジーズは自国製3段式軌道ロケットEris-1の初試験打ち上げをクイーンズランド州で実施した。

全高23メートルのロケットに搭載された4基のSiriusエンジンは23秒間燃焼し、機体は14秒間上昇したが、その後墜落し地面に激突して爆発した。負傷者や環境への悪影響は報告されていない。

Eris-1は215kgのペイロードを高度500kmの赤道軌道へ投入する設計で、オーストラリア土壌からの軌道打ち上げ挑戦は1971年の英国ブラック・アロー・ロケット以来54年ぶりの歴史的な試みとなった。CEOアダム・ギルモアは「発射台を離れることができて満足している。もちろんもっと長い飛行時間が欲しかったが、これで前進だ」とLinkedInに投稿し、チームの安全確保とデータ収集の成功を強調した。

同社はX(旧Twitter)で「オーストラリアの打ち上げ能力にとって大きな一歩。チームは安全、データは手に入れた、TestFlight 2に注目」と今後への意欲を示している。オーストラリア宇宙庁長官エンリコ・パレルモは「初回打ち上げで軌道到達することは稀であり、それはイノベーションサイクルの一部」と評価し、次のテスト段階を期待すると述べた。

From: 文献リンクAustralia’s attempt to join the space race lasts just 14 seconds

【編集部解説】

ギルモア・スペースの挑戦は「14秒で失敗」と報じられがちですが、初号機が無事にパッドを離れ、センサーデータを取得できた点は技術開発の第一歩として大きな意味があります。テスト飛行で得られた振動・熱・推力分布の実測値は、シミュレーションでは得られないフィードバックをエンジニアにもたらし、次回の設計改良に直結します。ロケット開発において初回テストは「学習の機会」であり、完璧な成功は期待されていません。

今回の試験は、オーストラリアが主権的な打ち上げ手段を取り戻す長期戦略の一環として位置づけられます。軌道投入能力を持つ国は現在、米国、ロシア、中国、欧州(ESA)、日本、インドなど約10カ国に限られており、同国が加わればアジア太平洋域の衛星打ち上げ市場に新たな競争軸が生まれることになります。特に小型衛星コンステレーションの需要が急増する中、北半球の混雑した射場を避けられる南半球の発射拠点は戦略的価値を持ちます。

技術的観点では、Erisが採用するSiriusエンジンの構造も注目に値します。このハイブリッド推進システムは、固体燃料と液体酸化剤を組み合わせた方式で、液体ロケットのような複雑な配管が不要でありながら推力制御が可能という特徴を持ちます。ただし、純液体や純固体エンジンと比較して技術的成熟度が低く、軌道投入用途での実用化は世界的に見ても挑戦的な選択でした。

一方で、ロケットはまだ実用信頼性を証明していません。今後の課題は多岐にわたります。①4基の第1段エンジンを同期して安定稼働させる推進系の改良、②オーストラリアの厳格な安全基準に適合した打ち上げプロセスの確立、③商業需要に応える打ち上げ頻度を実現する量産体制の確立が急務です。加えて、小型ロケット市場は米Rocket Labや中国の新興企業、欧州のプレイヤーがひしめくレッドオーシャンであり、技術的成功だけでなくコスト競争力の確保も不可欠となります。

それでも今回の挑戦は、国内に高付加価値の宇宙産業クラスターを育てる起爆剤になる可能性を秘めています。次回のTestFlight 2が軌道到達に成功すれば、オーストラリアは衛星開発・データ解析・宇宙教育分野まで波及効果を及ぼし、地域経済と技術人材の好循環を加速させるでしょう。

【用語解説】

Eris-1ロケット
ギルモア・スペースが開発した3段式小型ロケット。215kgのペイロードを高度500kmの低軌道へ投入する設計。

Siriusエンジン
同社製ハイブリッドロケットエンジン。地上燃焼試験で110kNの推力を記録した。

軌道打ち上げ試行
衛星などを地球周回軌道へ投入する目的で行う試験飛行。初回成功率は歴史的に低い。

【参考リンク】

Gilmour Space Technologies(外部)
オーストラリア最大の宇宙スタートアップ。Erisロケットと小型衛星プラットフォームを開発・製造している。

Australian Space Agency(外部)
2018年設立のオーストラリア宇宙庁。民間主導の産業育成と規制整備を担当する政府機関。

【参考動画】

【参考記事】

Gilmour Space’s Eris rocket fails initial test flight from Australia(外部)
エンジン燃焼時間や飛行プロフィールを詳細に分析し、今後の改修ポイントを整理した技術記事。

India launches NASA-ISRO satellite to track climate threats from space(外部)
ロイター通信による同日のインドNISAR衛星打ち上げ成功の報道。オーストラリアとインドの宇宙開発進展度の対比を示す重要な参考情報。

【編集部後記】

失敗の中で得たデータが、次の成功を準備している──そんな工程をEris-1は私たちに見せてくれました。この14秒間の挑戦から、私たちも大切なことを学んでいるように思います。日本も小型ロケット開発で世界の注目を集める中、宇宙開発における「最初の一歩」の価値について、みなさんはどう思われますか?完璧な成功だけが価値を持つのでしょうか、それとも挑戦すること自体に意味があるのでしょうか。今回のギルモア・スペースの試みを見て、日本の宇宙ベンチャーにどんな期待を寄せていらっしゃるでしょうか。ぜひSNSで、みなさんの率直な想いをお聞かせください。

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