室内空気で1日7万個のマイクロプラスチック、トゥールーズ大学が衝撃の研究結果発表

室内空気で1日7万個のマイクロプラスチック、トゥールーズ大学が衝撃の研究結果発表

フランスのトゥールーズ大学のナディア・ヤコベンコ研究チームが2025年7月30日にPLOS One誌で発表した研究によると、人間は室内環境で1日約7万1,000個のマイクロプラスチック粒子を吸入している。

この数値は従来推定の100倍に相当する衝撃的な結果である。研究者らはフランス各地の住宅と自動車から採取した16の空気サンプルを精密なラマン分光法で分析した。その結果、住宅内では1立方メートルあたり中央値528個、自動車内では驚異的な2,238個の粒子が検出された。

特に注目すべきは、検出された粒子の94%が10マイクロメートル未満のサイズであることで、これらは吸入時に肺胞まで到達し、血流に入る可能性がある。成人が1日に吸入する粒子のうち、約6万8,000個が10マイクロメートル未満、約3,200個が10-300マイクロメートルの範囲に分類される。

人間が時間の90%を室内で過ごすという事実を踏まえると、マイクロプラスチック暴露は現代生活において避けられない深刻な問題となっている。

From: 文献リンクYou’re Breathing Over 70,000 Plastic Particles a Day — New Study Unveils Disturbing Findings

【編集部解説】

この研究が示した「1日7万個」という驚異的な数字は、測定対象粒子サイズを従来の20マイクロメートル以上から1~10マイクロメートルまで大幅に拡大したことが主因です。このサイズは人髪の直径(約100マイクロメートル)の10分の1以下に相当し、気管支を通過して肺胞レベルまで到達し、さらに血流やリンパ系に移行する可能性があるため、健康影響への懸念が急速に高まっています。従来の大気汚染研究では見落とされていた極微細領域の汚染実態が、ついに明らかになったのです。

車内濃度が住宅の約4倍に達した背景には、自動車特有の複合的要因があります。密閉された狭い空間では空気の対流が限定的で、粒子が滞留しやすくなります。高温環境下でプラスチック内装材の劣化が促進され、走行時の振動と摩擦により継続的にマイクロプラスチックが発生します。さらに、現行のカーエアコンフィルターは花粉やPM2.5には効果的でも、1~10マイクロメートル粒子の除去には技術的限界があります。長時間通勤や渋滞に巻き込まれる現代のライフスタイルでは、この暴露レベルは健康リスク評価において軽視できません。

健康への影響については研究が発展途上ながら、既存の毒性学的知見から深刻な懸念が浮上しています。マイクロプラスチックが肺組織に長期蓄積すると、酸化ストレス反応、免疫機能障害、慢性炎症を誘発し、最終的に肺線維症や肺がんのリスクを高める可能性があります。さらに重要なのは「トロイの木馬」効果で、粒子表面に吸着した重金属、内分泌かく乱物質、病原微生物を体内深部へ運搬する危険性が指摘されています。

国際的な規制動向では、EUが先駆的役割を果たしています。2023年9月に意図的添加マイクロプラスチックの段階的使用禁止を採択し、化粧品、洗剤、人工芝などへの規制を開始しました。2024年には欧州委員会共同研究センター(JRC)が世界初のマイクロプラスチック測定用標準物質を開発し、各国の監視体制構築を支援しています。しかし、空気中マイクロプラスチックに特化した環境基準や労働安全衛生基準は未確立で、測定手法の国際標準化と健康ベースの暴露限度値設定が喫緊の課題となっています。

技術革新の観点では、産業界が多角的なアプローチで対策を進めています。材料科学分野では、繊維からの発塵を根本的に抑制する低摩耗性ポリマーや、生分解性代替素材の開発が加速しています。空調技術では、静電気力や磁気力を利用してナノサイズ粒子まで捕捉可能な次世代フィルターシステムが実用化段階に入っています。さらにスマートビルディング分野では、AI搭載センサーによる粒子径1マイクロメートル以下のリアルタイム監視システムが導入され始めており、室内空気質管理の新時代が到来しています。

この問題は単なる環境汚染を超えて、素材工学、空調工学、医学、公衆衛生学が連携した「分野横断イノベーション」を必要とする21世紀の重要課題となっています。

【用語解説】

ラマン分光法
単色光を照射して散乱光の波長変化を測定し、物質の分子構造を同定する分析手法。マイクロプラスチック判定に用いられる。

マイクロプラスチック
5 mm以下のプラスチック片の総称。1~10 µmの粒子は肺や血流へ移行する可能性がある。

PM10
粒径10 µm以下の浮遊粒子状物質。従来は無機粉じんが中心だったが、近年はマイクロプラスチックも含まれる。

酸化ストレス
活性酸素種が過剰になり、細胞が損傷を受ける状態。慢性炎症や組織障害の原因となる。

【参考リンク】

トゥールーズ大学共同体(外部)
フランス南西部に位置し、11万人の学生と145研究室を抱える高等教育・研究連合。本研究の拠点

欧州委員会共同研究センター(JRC)(外部)
EU政策を科学的に支援する組織。2024年にマイクロプラスチック測定用標準物質を公開

Géosciences Environnement Toulouse (GET)(外部)
CNRS・IRD・トゥールーズ大学・CNESの共同研究所。環境地球科学とマイクロプラスチック研究に注力

【参考記事】

Human exposure to PM10 microplastics in indoor air(外部)
トゥールーズ大学の原著論文。16試料を分析し、7万個/日の吸入を算出

Study: Adults inhale up to 68,000 microplastic particles daily(外部)
アナドル通信の速報記事。研究概要と専門家コメントを掲載

You Might Inhale 68,000 Microplastics Per Day(外部)
健康影響に焦点を当てたUS Newsの記事

【編集部後記】

私たちは毎日7万個ものマイクロプラスチックを吸い込んでいるというショッキングな研究結果について、皆さんはどう考えますか?以前水道水に含まれるマイクロプラスチックについてニュースになったことがありましたが、空気中に含まれるマイクロプラスチックについて意識されたことがある方は一体どれくらいおられるでしょうか?室内の空気清浄機を選ぶ際も、従来のPM2.5への対応だけでは足りないのかもしれません。
この問題は私たち一人ひとりの生活に直結しています。マイクロプラスチック対応の次世代空気清浄技術や、プラスチック代替素材の開発について、注目している技術があればSNSでぜひ教えてください。

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