Cohere「Command A Vision」|GPU2基で動作する企業向けAI発表

Cohere「Command A Vision」|GPU2基で動作する企業向けAI発表

カナダのAI企業Cohere(本社トロント)は2025年7月31日、企業向けビジョンモデル「Command A Vision」をリリースした。

このモデルはパラメータ数1120億、GPU2基以下で動作し、光学式文字認識(OCR)と画像解析に特化している。同社の「Command A」モデルをベースに構築され、ベースモデルが対応する23言語のテキスト能力を継承している(注:Command A Visionの公式ドキュメントで現在明記されているのは、英語、ポルトガル語、イタリア語、フランス語、ドイツ語、スペイン語の6言語である)。

モデルはLLaVAアーキテクチャを採用し、1つの画像を最大3,328トークンで処理する。ビジョン言語アライメント、教師ありファインチューニング、人間のフィードバックによる強化学習の3段階で訓練された。ベンチマークテストでは9項目で他社モデルと比較され、OpenAIのGPT-4.1(78.6%)、MetaのLlama 4 Maverick(80.5%)、MistralのMistral Medium 3(78.3%)を上回る平均83.1%のスコアを記録した。

同モデルはチャート、グラフ、PDF、スキャン文書などの企業が使用する視覚データの読み取りと解析を可能にし、製品マニュアルの図表解釈やリスク検出のための画像解析に対応する。オープンウェイトシステムで提供され、開発者からの関心を集めている。

From: 文献リンクNew vision model from Cohere runs on two GPUs, beats top-tier VLMs on visual tasks

【編集部解説】

CohereのCommand A Visionの発表は、企業向けマルチモーダルAIの分野で重要な転換点となる可能性があります。この技術の最も革新的な側面は、わずか2基のGPUで1120億パラメータのビジョンモデルを動作させる効率性にあります。一般的な大型言語モデルが数十基規模のGPUを必要とすることを考えると、この軽量設計は企業の導入コストを大幅に削減する可能性があります。

技術的な観点から見ると、同モデルがLLaVAアーキテクチャを採用している点は注目に値します。このアーキテクチャは視覚的特徴をソフトビジョントークンに変換し、1つの画像を最大3,328トークンで処理します。これにより、チャートやPDF、スキャン文書など、企業が日常的に扱う複雑な視覚データを効率的に解析できるようになります。

ベンチマーク結果で示された83.1%という平均スコアは、競合他社のモデルを上回る数値ですが、この評価には慎重な検証が必要です。特にOCR(光学式文字認識)やChartQAといった企業特化型のタスクでの強みが示されており、実際のビジネス環境での実用性が期待されます。

このような技術の普及により、企業では文書のデジタル化プロセスの自動化、製品マニュアルの智能化、リスク分析の高度化などが実現可能になります。特に製造業や金融業界では、複雑な図表や技術文書の解析が日常業務で必要とされるため、大きなインパクトをもたらすでしょう。

一方で、オープンウェイトでの提供という戦略には、知的財産の保護や悪用リスクといった課題も内包されています。企業がこうしたモデルを採用する際は、セキュリティポリシーとの整合性を慎重に検討する必要があります。

長期的な視点では、このような効率的なマルチモーダルモデルの普及により、AI導入の敷居が大幅に下がり、中小企業でも高度な視覚AI機能を活用できる時代が到来するかもしれません。これは、日本企業のDX推進にとっても重要な要因となるでしょう。

【用語解説】

LLaVA(Large Language and Vision Assistant)
大規模言語モデルとビジョンエンコーダを組み合わせたマルチモーダルAIアーキテクチャである。画像をソフトビジョントークンに変換し、言語モデルの埋め込み空間に投影することで、画像とテキストを統合的に処理する手法だ。

OCR(Optical Character Recognition)
光学式文字認識技術で、画像やスキャンされた文書内の文字を機械が読み取り可能なテキストデータに変換する技術である。企業文書のデジタル化において重要な役割を果たす。

GPU(Graphics Processing Unit)
画像処理専用の演算装置で、AI・機械学習分野では大量の並列計算に使用される。Command A Visionは2基のGPUで動作する軽量設計が特徴だ。

ソフトビジョントークン
画像の視覚的特徴を言語モデルが理解できる形式に変換したトークンのこと。LLaVAアーキテクチャにおいて、画像情報を言語処理パイプラインに組み込むための技術だ。

教師ありファインチューニング(SFT:Supervised Fine-Tuning)
大規模なベースモデルを特定のタスクや用途に適応させるため、ラベル付きデータを使用して追加学習させる手法である。

人間のフィードバックによる強化学習(RLHF:Reinforcement Learning from Human Feedback)
人間の評価や好みを基にAIモデルの出力品質を向上させる機械学習手法。より人間らしい応答を生成するために使用される。

オープンウェイト
AIモデルの学習済みパラメータ(重み)を公開し、研究者や開発者が自由に利用・改良できるようにする方式である。

【参考リンク】

Cohere(外部)
カナダのトロント拠点のAI企業で、企業向けの大規模言語モデルとAIソリューションを提供する。

OpenAI(外部)
サンフランシスコ拠点のAI研究企業で、GPT-4.1などの大規模言語モデルを開発。

Mistral AI(外部)
フランスのAI企業で、Pixtral LargeやMistral Medium 3などのモデルを開発。

【参考記事】

Introducing Command A Vision: Multimodal AI Built for Business(Cohere公式)(外部)
Cohere公式によるCommand A Visionの発表記事。企業内のビジュアルデータを活用したAIエージェントの自動化について解説している。

Introducing Command A Vision: Multimodal AI built for Business(Hugging Face)(外部)
Command A Visionの技術仕様とベンチマーク詳細を公開したHugging Faceのブログ投稿。

【編集部後記】

GPU2基で動作するCohereのCommand A Visionは、企業のAI導入における大きな転機となるかもしれません。

みなさんの職場では、図表やPDFの解析にどれくらいの時間を費やしているでしょうか?このような効率的なAIツールが実用化されたとき、普段行っているどの業務から自動化を始めたいと思われますか?また、オープンウェイトという方針についてはどう感じられるでしょうか?

セキュリティ面での懸念と技術革新のバランスについて、ぜひみなさんのご意見をSNSでお聞かせください。

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