寿命延長の限界とは?ジャンヌ・カルマン122歳記録を超える可能性をNature誌研究が分析

寿命延長の限界とは?ジャンヌ・カルマン122歳記録を超える可能性をNature誌研究が分析

人間の寿命が今後も伸び続けるかどうかについては、研究者の間でも意見が分かれている。オランダの研究チームは2070年までに人間の寿命は125歳まで延びる可能性があると示唆したが、他の研究者は、人間の自然寿命にはある種の限界があると述べている。

記録上の史上最高齢者はフランス人のジャンヌ・カルマンで、彼女は1997年、122歳164日でこの世を去った。これは平均寿命よりもはるかに長い。2024年5月発表のWHO統計によれば、2022年の世界平均寿命は73.4歳(女性76.0歳、男性70.8歳)となっている。

先に触れたように、オランダの研究チームは2017年のNature論文で2070年に人間が125歳に達する可能性を提示し、とくに女性が有望と述べた。一方で、2024年のNature Aging論文は平均寿命の伸び鈍化を示し、100歳到達率は女性15%、男性5%以下と推定、110歳超には全死亡率の88%削減が必要と試算した。ハーバード大ウィリアム・メア教授は「ガラスの床」と呼ぶ寿命上限を指摘し、110歳以上のスーパーセンテナリアンは年間約50%の死亡率に直面すると説明している。

From: 文献リンクHow Long Will Humans Live 100 Years From Now? – BGR

【編集部解説】

人類の長寿研究は「平均寿命」と「最大寿命」という異なる指標を扱います。平均寿命は公衆衛生の改善で着実に延びてきましたが、最大寿命はジャンヌ・カルマンの122歳164日を頂点に更新が止まっています。

オランダ研究チームは2017年Natureで、死亡率が極高齢域で頭打ちになる「死亡率プラトー」を想定し、2070年に125歳へ到達する女性が出現すると予測しました。モデル設定が違えば結論も大きく変わる点が、この分野の不確実性を物語ります。

一方で最新のNature Aging(2024)は、長寿国10地域の1990〜2019年データを解析し、100歳到達率が女性で15%、男性で5%以下にとどまると報告しました。さらに110歳以上を一般化するには死亡率を現状比で約88%下げる必要があり、医療技術のみでは難しいと結論づけています。また同じオランダの別の研究グループの分析では、極値統計を用いて寿命の上限を約115歳とする見方も示されており、前提モデルによって結論が大きく異なることがわかります。

ハーバード大学のウィリアム・メア教授は「ガラスの床」という比喩で、生物学的老化を直接操作しない限り寿命の上限は突破できないと示唆します。彼の研究室は代謝制御や食事制限による老化速度の低下を探っており、将来的にはゲノム編集や細胞リプログラミングとの組み合わせで上限突破を狙うアプローチも検討されています。

技術面ではCRISPR、ナノメディシン、AI創薬などが期待される一方、心疾患やがん、糖尿病といった主要死因の制御が依然として課題です。高寿命社会は年金・医療制度、都市設計、労働市場にも大きな影響を及ぼすため、テクノロジーだけでなく社会制度の並行的進化が不可欠になります。

innovaTopiaとしては「健康寿命」を延ばす視点を重視し、長寿だけでなく生涯を通じたウェルビーイング向上にテクノロジーがどう貢献するかを引き続き追跡します。

【用語解説】

スーパーセンテナリアン:
110歳以上の人。年間死亡率は約50%。

ガラスの床理論:
現行医療で突破不能とされる寿命上限を示す概念。

ゴンペルツの死亡率モデル:
加齢に伴う死亡率増加を指数関数で表す古典モデル。

分子代謝学:
細胞内代謝反応を分子レベルで研究する学問。

【参考リンク】

世界保健機関(WHO)(外部)
国連専門機関。感染症対策から生活習慣病予防まで国際保健政策を策定する。

Our World in Data(外部)
オックスフォード大学発のデータ公開サイト。人口や健康統計を視覚化する。

Harvard T.H. Chan School of Public Health – William B. Mair(外部)
メア教授の研究概要と論文一覧を掲載。代謝と老化の関連を探究する。

Nature Aging(外部)
老化生物学と長寿研究の最新成果を掲載する学術ジャーナル。

【参考記事】

Implausibility of radical life extension in humans in the twenty-first century(外部)
1990–2019年の死亡データを解析し、100歳到達率が女性15%、男性5%以下にとどまると結論。

Life expectancy may be reaching upper limits—for now(外部)
Nature Aging論文をハーバード大学が解説。メア教授が「ガラスの床」理論を補足。

Maximum human lifespan may increase to 125 years(外部)
オランダ研究チームが死亡率プラトーを前提に2070年125歳到達を予測。

Dutch scientists say human lifespan has limits(外部)
極値統計で最大寿命を推定し、女性115.7歳の上限を示唆。

Life expectancy increases may have hit their limit, study shows(外部)
Nature Aging研究の背景と専門家コメントを報じる。

【編集部後記】

今回の記事を読んで、皆さんは自分の人生設計をどのように考えられましたか?

現在日本では、人生100年時代と言われていますが、さらに人生100年を超えるのが当たり前の時代が来るとしたら、キャリアや家族計画、資産形成の考え方も大きく変わってきます。

一方で、健康寿命を延ばすための技術や生活習慣についても気になるところです。皆さんはこれからの長寿社会に向けて、どんなテクノロジーに最も期待されますか?遺伝子治療、予防医学、それともAIやロボット技術の発展でしょうか。また、現在の生活で意識している健康管理があれば、ぜひSNSで教えてください。私たちも未来の可能性について、一緒に考えを深めていけたらと思います。

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