エンケラドス最有力候補に、宇宙線による放射線分解でエイリアン生命維持の新理論

 エンケラドス最有力候補に、宇宙線による放射線分解でエイリアン生命維持の新理論

2025年7月28日、ニューヨーク大学アブダビ校宇宙科学センターが発表した論文は、宇宙線を生命の敵ではなく味方として捉え直した。

アトリ博士らは、銀河宇宙線の主成分である高速陽子が地下の水分子をイオン化し、電子、過酸化水素、分子水素などの反応性種を生み出す放射線分解を詳細にシミュレートした。その結果、これら生成物は地球深部の岩石圏で観測される化学合成微生物のエネルギー源となるため、太陽光が届かない氷下海でも食物連鎖の基盤を形成し得ると示した。

モデルにはアルファ低エネルギー散乱、氷結晶構造、岩石孔隙率まで取り込み、結果としてエンケラドスが最適条件を示した。成果はNASAのEuropa Clipperや提案中のEnceladus Orbilander、ESAのJUICE、ドラゴンフライ後継機の着陸計画に直接影響すると論文は指摘した。ハビタブルゾーンの再定義は惑星保護ポリシーや試料帰還ミッションのバイオセーフティ基準の更新も促す可能性がある。

From: 文献リンクCosmic Rays Could Help Aliens Thrive in The Barren Wastelands of Space

【編集部解説】

この研究が示すのは、生命探査における従来の「ハビタブルゾーン」概念の根本的な見直しです。これまで科学者たちは太陽からの適度な距離にあり、液体の水が存在できる「ゴルディロックス・ゾーン」と呼ばれる領域に注目してきました。しかし今回の発見は、極寒の環境でも地下に水があれば生命が存在できる可能性を示唆しています。

注目すべきは「放射線分解」というメカニズムです。高エネルギー粒子が水分子に衝突すると、電子が弾き飛ばされて化学エネルギーが生成されます。これは地球深部の細菌が化学合成で生きているのと似た現象で、太陽光に全く依存しない生命システムの可能性を開きます。

この技術的な意味合いは計り知れません。宇宙探査において、従来は表面温度や大気の有無を重視していましたが、今後は地下の水の存在と宇宙線の量を測定することが生命探査の新たな指標となるでしょう。

特にエンケラドスが最有力候補とされた理由は、土星周辺の強力な放射線環境と、地下海を覆う厚い氷の殻にあります。この氷の殻は放射線を適度に遮蔽しつつ、十分なエネルギーを地下海に伝える「天然の原子炉」として機能している可能性があります。(核分裂反応とは異なりますが、比喩的な表現として。)

一方で、この理論には慎重な検証が必要です。放射線は生命を破壊する力も持つため、エネルギー源となる量と致死量の境界線を正確に見極める必要があります。また、実際に微生物が存在するかどうかは、今後の探査ミッションで確認しなければなりません。

この発見が実証されれば、銀河系内の生命存在確率は劇的に上昇することになります。太陽系外惑星の探査戦略も変わり、寒冷な惑星や衛星への関心が高まるでしょう。

【用語解説】

放射線分解(radiolysis)
電離放射線が物質に照射された際に分子が分解される現象である。高エネルギーの放射線が化学結合を切断し、分子を構成原子に分解する。特に水分子の放射線分解では、水素、酸素、過酸化水素などが生成され、これらの反応で化学エネルギーが放出される。

宇宙線(cosmic rays)
宇宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線である。主成分は陽子で、アルファ粒子や重原子核も含まれる。超新星爆発が主要な発生源とされ、光速に近い速度で宇宙空間を移動する。

電離放射線(ionizing radiation)
物質から電子を弾き飛ばすのに十分なエネルギーを持つ放射線である。X線、ガンマ線、高エネルギー粒子線などが含まれ、生物の化学結合を破壊する力を持つ。

【参考リンク】

ScienceAlert(外部)
科学ニュースを扱うオーストラリアのメディアサイト。宇宙、健康、環境など幅広い科学分野の最新研究を報道

New York University Abu Dhabi(外部)
ニューヨーク大学のアブダビキャンパス。宇宙科学センターでは火星研究やアストロバイオロジー研究を実施

NASA Science – Enceladus(外部)
土星の衛星エンケラドスに関するNASAの公式情報。地下海の存在や間欠泉の発見など最新の探査成果

【参考記事】

Underground life on Mars? Cosmic rays could make it possible(外部)
深宇宙からの宇宙線が火星やエンケラドス、エウロパの地下で生命を可能にするメカニズムを解説

New research suggests life could survive beneath the surface(外部)
NYU研究チームの公式発表。宇宙からの高エネルギー粒子を利用した地下生命存続の可能性を詳述

Why Cosmic Radiation Complicates the Search for Life on Mars(外部)
ジョージタウン大学の研究で宇宙放射線が火星での生命痕跡探索に与える複雑な影響を分析

【編集部後記】

この研究は、私たちが宇宙にいる生命を探すための概念を根本から変える可能性があります。太陽の温もりがない極寒の世界でも、宇宙線という「見えないエネルギー」が生命を支えているかもしれない——そんな想像をしたことはありますか?

もしかすると、地球外生命との最初の出会いは、温暖な惑星ではなく、氷に覆われた衛星の地下深くで起こるのかもしれません。皆さんは、どの天体で最初に生命の痕跡が発見されると思いますか?そして、この発見が私たち人類の宇宙観にどのような変化をもたらすでしょうか?ぜひSNSでご意見をお聞かせください。

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