華南農業大学のバイオエンジニアであるShuting Liu氏が率いる研究チームが、多肉植物を暗闇で光らせる新技術を開発した。従来の生物発光技術とは異なり、蓄光蛍光体を植物の葉に注入する手法を採用した。
研究チームは土壌の多孔性、注入量と圧力、蓄光蛍光体のサイズなどの変数を調整し、多肉植物の葉肉細胞壁への注入に成功した。この方法は遺伝子組み換えより安価で植物の健康リスクが少ないことが証明された。日光やLED光で充電した植物は約2時間発光を維持する。
Liu氏は長期テストを実施予定で、将来的には温室の照明設備や歩道の街灯の代替として活用される可能性がある。この技術により光熱費削減効果も期待される。研究は初期段階にあり、長期的影響の検証が必要である。
From: The Colorful Bioengineered Succulents That Actually Glow In The Dark – BGR
【編集部解説】
innovaTopia編集部では、この技術の意義を単なる「光る植物」の域を超えた視点で捉えています。華南農業大学のShuting Liu氏らの研究は、持続可能な照明技術の新たなパラダイムを提示しています。
従来技術との決定的な違い
これまでの発光植物技術では、遺伝子組み換えによってホタルやキノコの生物発光遺伝子を導入する手法が主流でした。しかし、この手法では発光が緑色に限定され、かつ光量も限定的という制約がありました。Liu氏らの技術は、蓄光蛍光体粒子(約7マイクロメートル)を植物組織に直接注入することで、これらの制約を一気に解決しています。
多肉植物の構造的優位性
興味深いのは、研究チームが当初、多孔質な組織を持つ植物の方が適していると予想していたにも関わらず、実際には多肉植物が最適だった点です。多肉植物の葉内にある狭く均一で均等に分布したチャンネル構造が、蓄光蛍光体粒子の効率的な拡散を可能にしています。この発見は、植物の内部構造と人工材料の親和性という新たな研究領域を示唆しています。
経済性とスケーラビリティ
1株あたりの製造コストが約10元(約200円、2025年9月時点のレート)で、処理時間も約10分という点は注目に値します。この経済性により、大規模展開の現実性が高まっています。研究チームが56株の多肉植物で構築した発光植物壁は、読書が可能なレベルの照明を提供できることが実証されています。
持続可能性への影響
現状では約2時間の発光持続が可能ですが、日光やLED光で毎日充電可能な点は革新的です。従来の電力依存型照明システムから、太陽光蓄積型バイオ照明への転換は、エネルギー消費パターンの根本的変革を意味します。特に屋外歩道照明や装飾照明において、電力インフラへの依存度を大幅に削減できる可能性があります。
長期的課題と規制への影響
一方で、蓄光蛍光体粒子の植物への長期的影響については、まだ検証が必要な段階です。植物の生理機能への影響、環境への漏出リスク、食用植物への応用可能性など、安全性評価は今後の重要な課題となるでしょう。
この技術が実用化されれば、都市照明の概念そのものが変わる可能性があります。街路樹が街灯を兼ねる未来は、もはやSFの世界の話ではありません。
【用語解説】
蓄光蛍光体(phosphor)
光エネルギーを吸収して蓄積し、後から徐々に放出する物質。ストロンチウムアルミネートや硫化亜鉛などが代表的で、蓄光玩具や塗料に使用される。今回の研究では約7マイクロメートル(赤血球と同程度のサイズ)の粒子を使用している。
生物発光(bioluminescence)
生物が酵素反応により光を発生させる現象。ホタルやキノコなどに見られる自然現象で、ルシフェリンとルシフェラーゼなどの化学物質が反応して光を生む。従来の発光植物技術の主流手法。
葉肉細胞(mesophyll cell)
植物の葉の内部にある細胞で、光合成を行う主要な組織。今回の研究ではこの細胞壁がリン光体粒子の保持に適していることが判明した。
Echeveria ‘Mebina’
多肉植物の一種で、青緑色の葉に赤い縁を持つ一般的な観葉植物。今回の研究で最も効果的な発光を示した植物種。
【参考リンク】
Light Bio公式サイト(外部)
世界初の遺伝子組み換え発光ペチュニア「Firefly Petunia」を販売する米国のバイオテクノロジー企業公式サイト
【参考記事】
Living night lights: Succulents that store sunlight and shine for hours(外部)
研究チームの詳細データ。1株あたり10元のコストで56株の発光植物壁による実証実験結果を掲載
Glow-in-the-dark houseplants shine in rainbow of colours(外部)
Nature誌による科学的解説。ストロンチウムアルミネートベースのリン光体粒子の技術詳細を検証
Scientists Develop Multicolored, Glow-In-The-Dark Succulents(外部)
研究チームの特許申請状況と、Light Bio社による安全性への懸念や実用性への疑問も含む批判的視点
【編集部後記】
2025年の大阪・関西万博でも発光植物技術が大きく注目されているように、植物照明の世界は今まさに歴史的転換点を迎えているようです。中国発の多肉植物技術と日本の発光植物研究は、それぞれ異なるアプローチで同じ未来を描いています。
みなさんの生活を振り返ってみると、屋外や室内でどれほど多くの照明に依存しているでしょうか。玄関灯、庭園灯、デスクライト、そしてスマートフォンの画面まで。もしこれらが植物で代替できるとしたら、どんな暮らしを想像されますか?ご自宅のベランダにある多肉植物が、もしかすると数年後には夜間照明として活躍している未来もあるかもしれません。そう考えると、なんだかわくわくしますね。