ファーウェイLUNA蓄電システム、英国市場から完全撤退―5G禁止措置の延長線上

ファーウェイLUNA蓄電システム、英国市場から完全撤退―5G禁止措置の延長線上

ファーウェイが2025年末までに英国での蓄電システム(BESS)の販売を中止することが判明した。匿名の情報筋がThe Registerに明かした。

サプライヤーには8月22日に通知があり、既存在庫は処分され既存保証は履行されるが、販売店による延長保証の販売は禁止された。ファーウェイはLUNAブランドで太陽光エネルギー貯蔵システムのモジュール、バンドル、インバーターを販売している。BESSは同社の英国収益の一桁パーセンテージに相当し、撤退は商業的判断とされる。これによりファーウェイの英国事業はウェアラブル技術、PC、タブレット、オーディオ製品に限定される。

同社の英国収益は2018年の12億8000万ポンド(17億ドル)から2024年には1億8800万ポンド(1億5960万ドル)まで減少した。米国の大統領令により企業のファーウェイネットワーク機器購入が禁止され、英国も2021年末から5Gインフラ向けファーウェイ技術の購入を停止し2027年までの既存機器撤去を命令した。

From: 文献リンクHuawei to yank battery energy storage systems from UK – The Register

【編集部解説】

今回のファーウェイによる英国でのBESS撤退は、単なる商業的判断というよりも、地政学的な技術分断が深刻化している現れと解釈するべきでしょう。英国では2020年に5Gネットワークからのファーウェイ機器撤去が決定されており、今回の蓄電システム撤退はその延長線上にあります。

BESSは「Battery Energy Storage System」の略称で、太陽光や風力など再生可能エネルギーの電力を蓄電し、必要に応じて放電する技術です。これは脱炭素社会実現に向けて極めて重要な役割を担っています。英国では2025年第2四半期に既に電力供給の56%を再生可能エネルギーが占めており、この変動する電力供給を安定化するためにBESSが不可欠となっています。

ファーウェイのLUNAブランドBESSは、太陽光発電システムと組み合わせて使用され、特に産業・商業用途で高い技術力を誇っていました。日本では実際にレオ・コーポレーションが全国11カ所の蓄電所プロジェクトでLUNA2000シリーズを採用するなど、信頼性の高い製品として評価されています。

しかし、この技術撤退により英国のエネルギー転換が複雑化する可能性があります。英国は既に5Gネットワークの性能でヨーロッパ最下位クラスに転落しており、今度はクリーンエネルギー技術でも選択肢が狭まることになります。一方で、英国の蓄電システム市場は急成長しており、2025年には運用中の蓄電容量が6,872MWに達し、2020年の1,128MWから509%の成長を記録しています。

この状況は、技術的優位性と安全保障の板挟みになる現代の課題を象徴しています。ファーウェイは2024年に全世界で約1,180億ドルの売上を記録し、技術革新を続けていますが、西側諸国では政治的理由により市場からの排除が進んでいます。

将来的には、この技術分断がイノベーション速度を鈍化させるリスクがある一方で、各国の技術自立性を高める契機にもなり得ます。英国にとっては短期的にはコスト増と選択肢減少というデメリットがありますが、長期的には自国のエネルギーセキュリティ強化につながる可能性もあります。

【用語解説】

BESS(Battery Energy Storage System)
蓄電池エネルギー貯蔵システムのこと。太陽光や風力などの再生可能エネルギーの電力を充電池に蓄積し、需要に応じて放電するシステムである。電力網の安定化や需要ピーク時の電力供給に使用される。

5Gインフラストラクチャー
第5世代移動通信システムのネットワーク基盤のこと。基地局、交換機、伝送装置などから構成され、高速大容量通信を実現する。英国では国家安全保障上の懸念により、2027年までにファーウェイ製機器の完全撤去が義務付けられている。

エネルギーソブリニティ
国家が自国のエネルギー安全保障を確保し、外部依存を最小化して独立性を保つ概念。技術選択における自主性と安全保障のバランスを取ることが重要とされる。

【参考リンク】

Huawei Smart PV(外部)
ファーウェイの太陽光発電・蓄電システムの公式サイト。LUNAシリーズを含む幅広いエネルギーソリューションを提供している。

UK Government – Huawei 5G ban announcement(外部)
英国政府によるファーウェイ5Gネットワーク排除決定の公式発表ページ。2027年までの完全撤去スケジュールが記載されている。

National Grid – Battery Storage Explanation(外部)
英国の送電網運営会社によるBESSの仕組みと重要性を解説する公式ページ。再生可能エネルギー統合における蓄電の役割を詳述。

RenewableUK – UK Battery Market Status 2025(外部)
英国の蓄電市場の現状と成長を分析したレポート。2020年から2025年にかけて509%の成長を記録している詳細データを提供。

【参考記事】

UK councils approve 5GW/10GWh of BESS in July(外部)
2025年7月に英国で5GW/10GWhの大規模蓄電プロジェクトが承認。英国の蓄電市場が急速に拡大していることを示している。

Renewable energy solutions set new Q2 heights for UK electricity(外部)
2025年第2四半期に英国の再生可能エネルギーが電力供給の56%を占め、過去最高を記録。蓄電システムの重要性が高まる背景を示している。

5 Renewable Energy Storage Companies to Watch in 2025(外部)
英国の蓄電市場は2025年初頭に4GWを超え、2030年には倍増すると予測。政府の支援政策とLDES投資の加速により市場が急成長している。

Since Huawei was banned, is the UK’s 5G service the worst in Europe?(外部)
ファーウェイ禁止後の英国5G性能低下を分析。機器撤去によるネットワーク障害と技術革新の遅れが、英国を欧州最下位レベルに押し下げた実情を報告。

【編集部後記】

今回のファーウェイBESS撤退は、技術的な優劣を超えた新たな時代の始まりを示唆しているのではないでしょうか。私たち読者にとって身近な家庭用蓄電システムから、社会インフラを支える大規模システムまで、テクノロジーが政治的な影響を受ける現実をどう捉えるべきでしょうか。そして、このような技術選択の複雑化が、結果的に私たちの生活にどのような変化をもたらすのか、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。

特に興味深いのは、英国が直面している「安全保障」と「技術的効率性」のトレードオフです。皆さんはこのバランスをどのように評価されますか?

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