中国が2025年7月上旬、地球同期軌道において衛星間燃料補給作戦を成功させた。
中国の実践21号と実践25号が、地球上空約36,000キロメートルで秒速330メートルを超える速度変化による軌道機動を実施した。消費エネルギーは通常の軌道維持燃料の数年分に相当すると分析された。この技術は月や火星への深宇宙探査において重要とされる軌道上燃料補給技術である。中国の嫦娥6号は月の裏側からサンプルを持ち帰る偉業を達成している。
元NASA長官ジム・ブライデンスタインは「現状が続く場合、米国が中国より先に宇宙飛行士を月面に着陸させることは極めて困難となる可能性が高い」と議会証言し、競争構造に対する米国側の危機感が際立っている。この機動により中国は軌道上衛星修理、宇宙ゴミ除去、宇宙機組み立て能力を示し、将来的に宇宙ステーション、月面ゲートウェイ、燃料デポなどの恒久的軌道インフラ構築の可能性を示している。
From: China May Beat NASA to Moon After Groundbreaking Satellite …
【編集部解説】
今回のニュースは、宇宙技術分野における中国の急速な進歩を象徴する出来事として、世界的な注目を集めています。特に、地球同期軌道(地球上空約36,000キロメートル)での衛星間燃料補給は、これまでどの国も実現していない技術的偉業であり、宇宙開発の新たな転換点を示しています。
地球同期軌道は地表から約35,786キロメートル上空に位置し、衛星が地球の自転と同期して周回する軌道です。この高度での精密な衛星操作は、低軌道での作業と比べて格段に困難になります。なぜなら、距離が遠いほど通信遅延が増加し、宇宙放射線の影響も強くなるためです。
今回の実践21号(Shijian-21)と実践25号(Shijian-25)による機動では、秒速330メートル以上という前例のない速度変化が記録されました。これは通常の静止軌道維持に必要な燃料の6年分に相当する大量のエネルギー消費を意味しており、明らかに大規模な燃料移送が行われたことを示しています。
この技術が実用化されることで、衛星の運用寿命を大幅に延長できるようになります。従来、燃料切れによって運用停止となっていた高価な通信衛星や観測衛星を、軌道上で「給油」することで長期間利用可能になるのです。また、深宇宙探査ミッションにおいても、地球軌道で燃料補給を行った後により遠方の目標へ向かうことができるため、月や火星への有人ミッション実現に向けた重要な基盤技術となります。
一方で、この技術は軍事的な懸念も生んでいます。軌道上で他国の衛星に接近・ドッキングする能力は、平和的な給油作業だけでなく、敵対的な妨害工作にも応用可能だからです。実際に、米国宇宙軍の監視衛星が中国の衛星に接近して監視活動を行ったという報告もあります。
米国側の反応は危機感に満ちたものでした。『悪い月が昇っている:なぜ議会とNASAは宇宙競争で中国を阻止しなければならないのか』と題された上院公聴会では、元NASA長官ジム・ブライデンスタイン氏が「現状が変わらなければ、米国が中国の予定タイムラインに勝つ可能性は極めて低い」と証言しています。これは、米国宇宙政策の責任者クラスからの極めて率直で深刻な警告として受け止められています。
中国の宇宙開発戦略の特徴は、政府による一貫した長期計画と明確な目標設定にあります。対照的に、米国のアルテミス計画は政権交代による方針変更や予算削減のリスクに晒されており、この構造的な違いが両国の競争力格差を生んでいる可能性があります。
今後の展望として、軌道上サービス技術の確立により、中国は恒久的な宇宙インフラの構築に向けて大きく前進することになるでしょう。宇宙ステーション、月面基地へのゲートウェイ、燃料デポなどの設置が現実味を帯びてきます。これらのインフラを先に確立した国が、将来の「シスルナー経済圏」において主導権を握ることになる可能性が高いのです。
【用語解説】
地球同期軌道(GEO:Geostationary Orbit)
地表から約35,786キロメートル上空の軌道で、衛星が地球の自転と同じ周期で周回するため、地上から見ると常に同じ位置に静止して見える。通信衛星や気象衛星の多くがこの軌道に配置されている。
実践21号・実践25号(Shijian-21・Shijian-25)
中国が開発した実験衛星シリーズ。実践21号は2021年に打ち上げられ、スペースデブリ除去などの実験を行っている。実践25号は2025年1月7日に打ち上げられ、衛星の燃料補給と使用寿命延長技術の検証を目的としている。
軌道上燃料補給
宇宙空間で衛星同士がドッキングし、一方の衛星から他方へ推進剤を移送する技術。衛星の運用寿命を大幅に延長し、深宇宙探査ミッションの可能性を広げる重要な技術である。
シスルナー経済圏
地球と月の間の宇宙空間における経済活動領域。軌道上サービス、宇宙資源開発、月面基地運営などを含む新たな経済圏として注目されている。
嫦娥6号(Chang’e-6)
中国の無人月探査機。2024年に月の裏側からサンプルを採取し地球に持ち帰った。これまでどの国も成し遂げていない技術的偉業を達成した。
【参考リンク】
NASA アルテミス計画(外部)
米国が主導する月面有人探査計画の公式サイト。2027年以降の月面着陸を目指すミッション概要や技術開発の進捗状況を確認できる。
中国国家宇宙局(CNSA)(外部)
中国の宇宙開発を統括する政府機関の公式サイト。中国の宇宙探査計画や技術開発の最新情報が英語で提供されている。
【参考記事】
China pulled off high-orbit refuelling and may beat US to moon, ex-space officials say(外部)
中国が地球同期軌道で衛星間燃料補給を成功させたことを報じた香港の南華早報の記事。米国宇宙関係者の警告と中国の技術的優位性について詳しく分析している。
Chinese sats appear to be attempting first-ever on-orbit refueling, sat tracking firms say(外部)
6月時点で中国の衛星が軌道上燃料補給を試みている可能性を最初に報じた記事。衛星追跡会社による観測データに基づいて詳細な分析を提供している。
中国、衛星「実践25号」の打ち上げに成功(外部)
2025年1月7日の実践25号打ち上げを報じる新華社の公式発表。燃料補給と衛星寿命延長技術の検証が主目的であることが明記されている。
Shijian-25/Shijian-21 Is on the Move!(外部)
8月に実施された秒速353.7メートルという大規模軌道機動の詳細分析。専門的な軌道力学の観点から中国の技術能力を評価している。
China is making serious progress in its goal to land astronauts on the moon by 2030(外部)
中国の2030年月面有人着陸計画の最新進捗状況を報告。月着陸船「嵐月」のテストや全体的な開発スケジュールについて詳しく解説している。
【編集部後記】
今回の記事を読んで、皆さんはどのようにお感じになったでしょうか。地球上空36,000キロメートルで展開される技術競争が、私たちの日常とどれほど密接に関わっているか、実感できたのではないでしょうか。
宇宙技術の進歩は、単なる国家間の威信をかけた競争に留まりません。GPS、天気予報、インターネット通信など、私たちの生活を支える多くのサービスが宇宙インフラに依存している現実があります。もし今後、中国が月面での資源開発や深宇宙探査において先行した場合、それは私たちの暮らしにどのような変化をもたらすのでしょうか。
一方で、技術革新がもたらす可能性にも目を向けてみませんか。軌道上燃料補給技術が確立されれば、故障した衛星の修理や宇宙ゴミの除去も現実的になります。これらの技術が人類全体の利益につながる未来を、皆さんと一緒に考えていけたらと思います。