BGR記事は重力が突然消失した場合に起こる10段階の現象を科学的に解説している。アイザック・ニュートンが初めて説明した重力は質量と距離に基づいて物体を引き寄せる力である。
重力消失の第1段階では人体が瞬時に無重力状態となり浮遊する。第2段階で海洋と河川が浮遊し液体が室温で沸騰して宇宙に蒸発する。第3段階では山脈と建物が重量を失い崩壊する。第4段階で血液をはじめとする体液が頭部など上半身に移動し、心血管系に大きな負荷がかかることで、生物学的システムに深刻な障害が生じる。第5段階では大気が宇宙空間に散逸し地球が真空状態になる。第6段階でGPS衛星や国際宇宙ステーションを含む人工衛星が軌道から脱出する。第7段階で地球内部の巨大な圧力が解放され、内核、マントル、地殻がその結合を失い、惑星全体が崩壊して構成物質が飛散し始める。第8段階では地球が9300万マイル離れた太陽軌道から離脱し凍結する。
第9段階で太陽系全体が崩壊し惑星と土星のリングが散乱する。第10段階では銀河やブラックホールといった巨大な天体構造も、その形を維持することができなくなり崩壊を始める。さらに、一般相対性理論によれば、重力は時間の進み方にも影響を与えるため、時空の構造そのものが根本的に変質してしまうだろう。
From: If Gravity Suddenly Vanished, Here’s What Would Happen First – BGR
【編集部解説】
今回のBGR記事は純粋に思考実験として重力消失を扱っていますが、実際の物理学の観点から見ると、いくつかの重要な補足が必要です。
まず、重力の完全な消失は物理法則的に不可能であることを理解する必要があります。アインシュタインの一般相対性理論によれば、重力は時空の歪みによって生じるため、質量やエネルギーが存在する限り重力場も存在し続けます。仮に太陽が瞬間的に消失したとしても、その重力的影響は光速で伝播するため、地球が影響を受けるまでに約8分間の時間差が生じます。
記事で触れられた人体への影響については、国際宇宙ステーションでの長期滞在研究が実証データを提供しています。宇宙飛行士は微小重力環境で筋肉量の減少、骨密度の低下、心血管系の変化を経験します。特に注目すべきは、宇宙飛行士の一部が地球帰還後も視覚障害を抱える現象が報告されていることです。
大気の散逸に関して、記事の指摘は科学的に正確です。地球大気は重力によって束縛されており、脱出速度である秒速11.2キロメートルを下回る分子運動のため地表に留まっています。重力が消失すれば、大気圧の急激な低下により内耳の損傷が即座に発生し、数分以内に大気全体が宇宙空間に散逸するでしょう。
興味深いのは、地球の自転が重力消失の影響を増幅する点です。地球は赤道付近で秒速約463メートルで自転しているため、重力が消失すると物体は慣性によってこの速度で接線方向に飛び出すことになります。これは記事が示唆する「サイクロンの6倍の風速」という表現の科学的根拠となっています。
この思考実験が示す最も重要な教訓は、重力が単なる「下向きの力」ではなく、宇宙の構造を決定する基本的な相互作用であることです。現代の量子重力理論研究では、重力を媒介する素粒子として『重力子(グラビトン)』の存在が理論的に提唱されていますが、実験的な検証には至っていません。
記事が描写する時間軸については、実際にはより複雑な物理現象が同時進行すると考えられます。地球内部の圧力平衡が崩れれば、地殻変動や火山活動が数秒以内に始まる可能性があります。また、海洋の蒸発については、単純な沸騰ではなく真空状態での急速な気化現象として理解すべきです。
テクノロジーの観点では、GPS衛星システムは既に相対論的効果(重力による時間の遅れ)を補正計算に組み込んでいます。重力消失は即座に全ての衛星測位システムを無効化し、現代社会のデジタルインフラを根本から破綻させるでしょう。
【用語解説】
一般相対性理論(General Theory of Relativity)
アルベルト・アインシュタインが1915年に発表した理論。重力を時空の歪みとして説明し、質量やエネルギーが時空間を曲げることで重力現象が生じるとする。
脱出速度(Escape Velocity)
天体の重力圏から脱出するために必要な最低速度。地球の場合は秒速11.2キロメートルで、これを下回る物体は重力に束縛される。
微小重力(Microgravity)
宇宙ステーションなどの自由落下状態にある環境で経験する、見かけ上ほとんど重さがない状態。厳密には地球の重力の影響下にあるが、その影響が相殺されているため、重力が100万分の1程度にまで極めて小さくなったように観測される。
重力子(Graviton)
重力相互作用を伝達する仮想粒子。量子重力理論で提唱されているが、現在も実験的検証はされていない。
【参考リンク】
NASA Space Place – What Is Gravity?(外部)
NASAが運営する宇宙科学教育サイト。重力の基本概念から、地球や太陽系での重力の働き、ブラックホールの重力まで、分かりやすく解説
国際宇宙ステーション(International Space Station)(外部)
NASAが運営するISSの公式サイト。微小重力環境での科学実験や宇宙飛行士の生活、地球観測データなどを提供
GRACE-FO(Gravity Recovery and Climate Experiment Follow-On)(外部)
地球の重力場変化を精密測定するNASA/DLR共同ミッション。気候変動による氷河融解や地下水変動を重力変化として観測
【参考記事】
What if Earth Lost Gravity for Five Seconds?(外部)
HowStuffWorksの記事で、5秒間だけ重力が消失した場合の影響を科学的に分析。地球の自転速度による物体の飛散、大気圧の急激な低下による内耳損傷を詳述
What is gravity?(外部)
NASA GoddardのStarChildプロジェクトによる重力の科学的解説。ニュートンの万有引力の法則の数式や重力定数の具体的数値を提供
What if there were no gravity on Earth?(外部)
HowStuffWorksによる無重力状態の科学的分析。地球の質量が重力の源であることや、重力が原子間の引力であることを説明し、地球の質量変化なしには重力変化は起こらないと結論
【編集部後記】
この記事を読んで、皆さんは重力の存在をどのように感じられるでしょうか。私たちが当たり前に感じている「下向きの力」が、実は宇宙の構造そのものを決定している根本的な法則だということに、改めて驚かされます。重力波の観測やブラックホール撮影といった最先端の宇宙研究が進む中で、私たち一人ひとりが物理学の不思議さを身近に感じる機会も増えています。
皆さんは日常のどんな瞬間に、重力や宇宙の神秘を感じられますか?コーヒーカップを落としそうになった時?電車で立っている時?もしよろしければ、皆さんの「重力を意識した瞬間」をSNSでシェアしていただけたら嬉しいです。