ITER核融合実験炉、ウェスティングハウス社が1億8000万ドル契約で真空容器組み立て開始

ITER核融合実験炉、ウェスティングハウス社が1億8000万ドル契約で真空容器組み立て開始

南フランス・カダラッシュで、世界最大の核融合実験ITERの真空容器組み立て作業が開始された。アメリカのウェスティングハウス社が1億8000万ドルの契約を獲得し、アンサルド・ヌクレアーレ、ウォルター・トストと協力してこの作業を担当する。

真空容器は外径19.4メートル、高さ11.4メートルの二重壁チャンバーで、それぞれ約440トンの重量の鋼製セクター9基から構成され、完成時の総重量は5200トンを超える。容器内では1億5000万度セルシウスのプラズマが封じ込められる予定である。

ITERには33カ国が参加し、ヨーロッパが5基、韓国が4基の真空容器セクターを提供している。アメリカは18メートル超の超電導磁石を、日本は中央ソレノイドの重要なセクションを供給する。2024年7月のベースライン更新によると、2035年に重水素-重水素段階を開始し、2036年に完全磁気エネルギーとプラズマ電流に移行、2039年に重水素-トリチウム運転を実施する計画である。目標は融合出力増幅係数10を達成し、50メガワットの入力から500メガワットの融合出力を生成することである。

From: 文献リンクThe Largest Project in Human History Enters Its Most Critical Phase With Hopes of Recreating the Power of Stars

【編集部解説】

ITERプロジェクトの最新の進展を理解するために、まずこの巨大プロジェクトの技術的複雑さから説明したいと思います。

真空容器の組み立て作業は、単なる建設作業を遥かに超えた精密技術の結晶です。各セクターの重量が440トンという規模感は、ボーイング747の最大離陸重量とほぼ同等であり、これを9つ組み合わせて完璧な円環を形成する必要があります。しかも、内部では1億5000万度という太陽の中心温度の10倍もの高温プラズマが生成されるため、わずかなズレも実験の失敗を意味します。

国際協力の規模も特筆すべき点です。ITER公式サイトによると現在は33カ国が参加しており、中国、EU、インド、日本、韓国、ロシア、アメリカの7つの主要メンバーが建設費用を分担しています。これは単なる技術協力を超えて、地政学的な緊張が高まる現代において、科学技術が国境を越えた協力の象徴となっている事例といえるでしょう。

スケジュールについては、複数の情報源で一貫性が見られます。2024年7月の公式発表では、重水素-重水素実験開始が2035年、完全運転が2039年と発表されており、これは当初計画から大幅に遅延しています。しかし、2025年7月には中央ソレノイドの最初のモジュールが日本で完成し、技術的な進展も着実に見られています。

このプロジェクトが実現すれば、エネルギー産業に革命的な変化をもたらす可能性があります。核融合は理論上、少量の燃料から膨大なエネルギーを生み出し、長寿命の放射性廃棄物を発生させません。しかし、商用化までの道のりは依然として長く、ITERの後継機DEMOの開発も必要です。

規制面では、従来の核分裂技術とは異なるアプローチが検討されています。英国では融合エネルギーを原子力規制ではなく、環境庁と保健安全庁の管轄下に置く方針が決定されており、これは融合技術のリスクプロファイルが根本的に異なることを示しています。

技術的なリスクとしては、トリチウムの取り扱い、材料の放射化、高磁場環境での作業などが挙げられますが、最悪のシナリオでも従来の原子力発電所事故ほどの公衆への影響はないとの安全性評価が発表されています。

innovaTopiaの読者の皆さんにとって重要なのは、このプロジェクトが単なる科学実験ではなく、人類のエネルギー利用の根本的な変革を目指している点です。現在のウェスティングハウス社による真空容器組み立て開始は、長年の基礎研究段階から実用化への橋渡し段階に入ったことを意味しており、今後10年間の進展が融合エネルギーの実現可能性を左右する重要な局面といえるでしょう。

【用語解説】

ITER(イーター)
国際熱核融合実験炉の略称。「道」を意味するラテン語から命名された、太陽と同じ核融合反応を地球上で実現するための国際共同実験プロジェクトである。

トカマク
ドーナツ型の磁気閉じ込め装置。強力な磁場を使って高温プラズマを制御し、核融合反応を持続させる仕組みである。

重水素-トリチウム(D-T)反応
核融合で最も実現しやすい反応。重水素と三重水素が融合してヘリウムと中性子を生成し、大量のエネルギーを放出する。

融合出力増幅係数(Q値)
投入エネルギーに対する融合出力エネルギーの比率。ITERはQ=10、つまり50メガワット投入で500メガワット出力を目標とする。

DEMO
ITERの次段階となる実証炉。実際に電力を発電網に供給する商用規模の核融合発電所の原型となる。

【参考リンク】

ITER Organization(外部)
国際熱核融合実験炉プロジェクトの公式サイト。進捗状況や技術詳細について包括的な情報を提供

Westinghouse Electric Company(外部)
真空容器組み立て契約を獲得したアメリカの原子力企業。次世代原子炉技術の開発を推進

【参考記事】

Westinghouse and ITER sign a $180M Contract to Advance Nuclear Fusion(外部)
ウェスティングハウス社とITERが署名した1億8000万ドル真空容器組み立て契約の詳細報告

Westinghouse Wins $180 Million Contract For Assembly Of Iter Vacuum Vessel(外部)
契約の技術的詳細と9つのセクターを溶接して円環状チャンバーを形成する作業内容を詳述

Vacuum Vessel – ITER(外部)
ITER公式による真空容器の技術仕様。外径19.4メートル、重量約5200トンなど詳細数値を掲載

Korea completes first vacuum vessel sector – ITER(外部)
韓国製造の重量440トン真空容器セクター#6について製造工程と316LN-IG鋼材使用詳細を報告

Advantages of fusion(外部)
核融合エネルギーの化学反応400万倍のエネルギー効率や炭素排出ゼロなど技術的優位性を解説

【編集部後記】

ITERプロジェクトの進展を見ていると、私たちが生きているうちに本当に核融合発電が実現する可能性が見えてきました。理論上、1グラムの燃料から石油8トン分のエネルギーが得られるという話を聞くと、まるでSF映画の世界のようですね。この技術は未来の世代にどんな世界を提供してくれるのでしょうか。

皆さんはこの「太陽を地球に持ってくる」挑戦について、どのような期待や不安をお持ちでしょうか。また、もし核融合発電が実現したら、私たちの生活や社会はどのように変化すると思われますか。ぜひSNSで皆さんのお考えをお聞かせください。

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