ノキア後継HMD、政府・防衛特化の「HMD Secure」事業立ち上げ─欧州製5G端末で挑戦

ノキア後継HMD、政府・防衛特化の「HMD Secure」事業立ち上げ─欧州製5G端末で挑戦

フィンランドの携帯電話メーカーHMD Globalが、政府および防衛関連顧客をターゲットとした事業部門「HMD Secure」を立ち上げた。最初の製品として、Androidベースの5Gスマートフォン「HMD Ivalo XE」を発表し、2026年第1四半期に顧客向け販売を開始予定である。

同社はこの端末を欧州で設計・開発・製造された数少ない5Gデバイスの1つと主張している。HMDのチーフであるジャン=フランソワ・バリル氏は、欧州製デバイスとプラットフォームの創出について言及した。

Ivalo XEは、Qualcommが発表したDragonwing Q-6690システムオンチップをベースとし、技術サプライヤーとしてNokia、Bittium、Tutus、Juggernautが参加している。同端末は IP68、IP69K、MIL-STD-810H認証を満たし、Corning Gorilla Glass Victus 2で保護されたスクリーンを搭載する。

6.32インチディスプレイ、デュアル50メガピクセルリアカメラと32メガピクセルフロントカメラ、ハードウェアキルスイッチ、プログラマブルキーを備える。HMDは2032年まで同端末のサポート、スペアパーツ、OSセキュリティアップデートを提供する。

From: 文献リンクNokia successor HMD spawns secure device biz

【編集部解説】

HMD Globalの新事業「HMD Secure」とその製品「Ivalo XE」について、事実確認とより深い背景を整理してみました。

このニュースの最も重要な意味は、欧州デジタル主権の具現化にあります。近年、欧州各国では米国や中国の技術に依存することへの懸念が高まっており、GDPRやDMA(デジタル市場法)などの規制強化とともに、自国の重要インフラを守る「デジタル主権」の概念が政策の中核に据えられています。

HMD Secure は単なる新製品発表ではなく、政府・防衛・重要インフラ分野における「信頼できる供給網」の構築を目的とした戦略的な動きといえるでしょう。同社は「欧州における設計・開発・製造」を強調していますが、実際にはQualcommのDragonwing Q-6690チップやJuggernautなどの米国企業の技術も使用しており、完全に欧州独立というわけではありません。

技術的な観点から見ると、Ivalo XEの「AReX」アンチタンパリング技術やハードウェアキルスイッチなどの機能は、軍事・政府レベルのセキュリティ要件を満たすために設計されています。特に注目すべきは、FIPS 140-3やNIAP基準への準拠を謳っている点で、これは米国政府機関でも使用される高度な暗号化標準です。

市場環境を見ると、超セキュアスマートフォン市場は急速に拡大しており、2025年から2033年にかけて年平均成長率18.42%で成長すると予測されています。欧州では特に、サイバーセキュリティ予算が2026年までに31%増加すると見込まれており、この分野への投資が活発化している状況です。

一方で、潜在的な課題も存在します。完全に欧州製を謳いながらも米国製チップに依存している点は、真のデジタル主権達成への障壁となる可能性があります。また、2032年までの7年間にわたる長期サポートを計画していますが、テクノロジーの急速な進歩を考慮すると、その実現性には注意深い監視が必要でしょう。

このデバイスの登場は、民間市場への影響も示唆しています。政府・軍事レベルで培われたセキュリティ技術は、やがて一般消費者向けデバイスにも応用される可能性が高く、スマートフォンのセキュリティ基準全体の底上げにつながることが期待されます。

【用語解説】

HMD Global(Human Mobile Devices)
フィンランドの携帯電話メーカーで、元ノキア幹部によって設立された企業である。Androidフォンを製造し、一部はノキアブランドで販売している。

FIPS 140-3
米国国立標準技術研究所(NIST)が制定した連邦情報処理標準規格で、暗号化モジュールのセキュリティ要件を定義した規格である。2019年に発効された最新規格で、政府機関や金融機関など重要インフラで使用される暗号化技術の安全性を保証する。

NIAP(National Information Assurance Partnership)
米国国家安全保障局(NSA)と国立標準技術研究所(NIST)が設立した政府機関で、IT製品のセキュリティ適合性評価を行う国際標準である共通基準(Common Criteria)の評価を監督している。

Dragonwing Q-6690
Qualcommが開発したエンタープライズ向けシステムオンチップで、世界初の統合RFID機能を搭載した5G対応プロセッサーである。Kryo CPUコア8基、Adreno GPU、Hexagon NPUを搭載し、Wi-Fi 7、Bluetooth 6.0にも対応している。

IP68/IP69K
国際電気標準会議が定める防水・防塵規格で、IP68は完全防塵かつ継続的な水没に対する保護を、IP69Kは高圧・高温の洗浄に対する保護を意味する規格である。

MIL-STD-810H
米軍が制定した軍用規格で、厳しい環境条件下での機器の耐久性を証明する規格である。落下、振動、温度変化などの過酷な条件に対する耐性を定めている。

【参考リンク】

HMD Secure公式サイト(外部)
HMD Globalのセキュリティ部門で、政府・防衛・重要インフラ向けのセキュアモバイル製品を開発・販売

Qualcomm Technologies(外部)
Dragonwing Q-6690をはじめとするモバイルプロセッサーを開発する米国の大手半導体メーカー

NIST(米国国立標準技術研究所)(外部)
FIPS 140-3をはじめとする情報セキュリティ標準の策定・管理を行う米国政府機関

【参考記事】

HMD Secure builds momentum as Europe’s platform for sovereign(外部)
HMD Secureの事業戦略と欧州デジタル主権における位置づけについて同社が公式見解を提示

HMD Secure launches 5G Ivalo XE rugged phone for mission(外部)
Ivalo XEの技術仕様とAReXアンチタンパリング機能、セキュリティ基準準拠について詳細解説

Ultra-Secure Smartphone Market Share, Size & Report, 2033(外部)
超セキュアスマートフォン市場が2025年から2033年にかけて年平均成長率18.42%で拡大する市場分析

Qualcomm announces the Dragonwing Q-6690 chipset for(外部)
Qualcommが発表したDragonwing Q-6690の詳細仕様とRFID統合機能の技術的意義を解説

【編集部後記】

この欧州発のセキュアスマートフォンの動きを見ていると、私たちの身の回りのデジタル環境も大きく変わりそうですね。

最近、欧州ではアメリカや中国の技術に依存することへの危機感が高まっていますが、日本はどうでしょうか。政府や企業の重要なデータを外国企業のサービスに預けることについて、皆さんはどう感じていますか?

また、このような軍事レベルのセキュリティ技術が一般消費者にも普及してくると、私たちの日常のスマートフォン体験はどう変化するのでしょう。プライバシー保護と利便性のバランスをどう取るべきか、一緒に考えてみませんか?ぜひSNSで皆さんのご意見をお聞かせください。

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