OpenAIが過去に制作した短編アニメ映画「Critterz」を本格的なアニメ長編映画にする計画を発表した。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、このプロジェクトの予算は最大3000万ドルで、2026年5月のカンヌ映画祭でのプレミア上映を目指し、9ヶ月以内に完成させる予定である。
従来のアニメ映画制作には約3年かかるが、OpenAIはGPT-5などの生成AIツールを使用して1年未満での制作を目指す。キャラクターの声には実在の俳優を起用し、アーティストが描いたスケッチをAIモデルに入力する手法を取る。脚本は「パディントン イン ペルー」の脚本家らが手がける。
「Critterz」は森の生き物たちがデイヴィッド・アッテンボロー卿の隣人デニスによるドキュメンタリー撮影に遭遇する物語である。制作にはチャド・ネルソンがクリエイティブスペシャリストとして参加し、約30人のチームがロンドンのVertigo FilmsとロサンゼルスのNative Foreignのプロデュースで取り組む。OpenAIは世界的劇場公開を目指すが、現時点で配給会社は決まっていない。
From: 
OpenAI Sets Its Sights On Hollywood With AI-Animated Movie Critterz
【編集部解説】
OpenAIの「Critterz」プロジェクトは、AI技術が映画制作の構造的変革をもたらす可能性を示す画期的な実証実験です。従来の大手スタジオによるアニメ映画制作費が数千万ドルから1億ドル以上に達するのに対し、同プロジェクトは3000万ドル未満という大幅な予算削減を実現しています。これは単純な技術的進歩ではなく、映画産業のビジネスモデル自体を根本から変える可能性を秘めています。
制作期間の短縮も注目すべきポイントです。業界標準の3年から9ヶ月への短縮は、AI技術による自動化が最も労働集約的なプロセスを効率化することを意味します。特に、テクスチャリングや照明設定などの技術的工程では、AIツールが最大90%のコスト削減を実現する事例も報告されており、制作パイプライン全体の再構築が進んでいます。
一方で、労働者の権利という観点では複雑な課題が浮き彫りになります。2023年のハリウッド脚本家ストライキは、まさにAI技術による雇用への脅威を主要争点としていました。SAG-AFTRAと脚本家組合が勝ち取った協定では、AI使用時の創作者の同意と適正な報酬支払いが明文化されており、「Critterz」プロジェクトが実際の俳優を声優に起用し、脚本家を雇用している点は、この労使合意を尊重する姿勢の表れと言えるでしょう。
技術的な視点から見ると、GPT-5とDALL-Eを中核とするOpenAIのツール群の実用性を大規模プロジェクトで検証する意味合いが強いです。OpenAIが長編映画制作に必要な品質と連続性を確保できるかが試されることになります。
このプロジェクトが成功すれば、独立系制作会社やスタートアップが大手スタジオと競合する新たな道筋を示すことになります。一方で失敗した場合、AI映画制作への懐疑論が広まり、技術導入が数年単位で遅れる可能性もあります。
長期的には、AI技術の民主化により映像制作の参入障壁が劇的に下がることが予想されます。これにより創作の多様性は向上する一方で、既存の映像制作エコシステムで働く数十万人の雇用に深刻な影響を与える可能性があります。カンヌ映画祭という国際的な舞台での評価は、AI映画制作の未来を左右する重要な分岐点となるでしょう。
【用語解説】
SAG-AFTRA
Screen Actors Guild-American Federation of Television and Radio Artistsの略称である。アメリカの俳優・声優・ラジオパーソナリティなどを代表する労働組合だ。2023年には脚本家組合と共にAI技術による雇用への脅威を主要争点としてストライキを行った。
DALL-E
OpenAIが開発した画像生成AIである。テキストの説明から高品質な画像を生成することができる。2021年に初版が発表され、2023年にDALL-E 3がリリースされ現在も進化を続けている。
Sora
OpenAIが開発した動画生成AIである。テキストプロンプトから短時間の動画を生成することができる。2024年に発表され、映像制作の分野で注目を集めている。
【参考リンク】
OpenAI（外部）
ChatGPTやGPT-5、DALL-E、Soraなどの生成AIツールを開発する人工知能研究企業
Vertigo Films（外部）
2002年設立のイギリスの独立系映画・テレビ制作会社で『モンスターズ』などを手がける
Native Foreign（外部）
ロサンゼルスを拠点とする女性経営のクリエイティブスタジオで映像制作を専門とする
Google Veo 3（外部）
Googleが開発した最新のAI動画生成ツールでOpenAIのSoraと競合する技術
【参考記事】
OpenAI Backs ‘Critterz’: A Groundbreaking AI-Assisted Animated Film Set for 2026 Release（外部）
Pixar映画『Elio』の予算2億ドルと比較し、『Critterz』の3000万ドル予算の革新性を具体的な数値で示した記事
OpenAI backs AI-Made Animated Feature Film – WSJ（外部）
ウォール・ストリート・ジャーナルによる独占報道で30人規模のチーム構成についても詳述
OpenAI is backing a new animated feature film ‘made largely with AI’（外部）
『Toy Story 4』の予算2億ドルとの比較でAI映画制作のコスト削減効果を具体的に示した記事
Hollywood writers went on strike to protect their livelihoods（外部）
2023年のハリウッド脚本家ストライキの背景と結果を分析し労働者の権利保護について詳述
AI Animation Cost Reduction: Budget-Friendly Technology（外部）
AI技術によるアニメーション制作コスト削減の具体的な効果を分析し60-80%削減可能と数値で示している
【編集部後記】
2026年のカンヌで「Critterz」がどのような反応を得るか、皆さんはどう思われますか？AI技術で制作された映画が観客の心を本当に動かすことができるのか、それとも従来の手作りアニメーションの温かさには及ばないのか。
私自身、制作コストが大幅に下がることで、これまで資金不足で実現できなかった独立系クリエイターの作品が数多く誕生する可能性に期待しています。一方で、アニメーターや映像制作者の雇用への影響も気になるところです。皆さんは、AI映画のチケットを購入したいと思いますか？
