2025年11月4日、DJIは航空LiDARペイロード「Zenmuse L3」を発表した。
1535nm波長を採用した長距離LiDARを備え、反射率10%の物体に対して最大950mの測距を実現する。デュアル1億画素RGBカメラと高精度POSシステムを搭載し、1日で最大100km²のエリアをカバーする。150mの高度で測距再現性5mm(1σ)を達成し、垂直精度は120m高度で3cm、300m高度で5cmである。
レーザービーム発散角は0.25mradで、最大16回のマルチリターンに対応する。パルスレートは100kHzから最大2000kHz(2MHz)の範囲で調整可能で、最大200万点の発射頻度を持つ。D-RTK 3多機能ステーション、DJI Pilot 2、DJI Terra、DJI Modify、DJI FlightHub 2と統合され、地形測量、緊急対応、歴史的遺産保護、エネルギー、インフラ点検、林業など多分野での活用を想定している。
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DJI、さらなる進化を遂げた航空LiDAR Zenmuse L3を発表
【編集部解説】
DJI Zenmuse L3の発表は、航空測量技術における一つのターニングポイントを示しています。特に注目すべきは、1535nm波長のLiDARが従来比で測距能力を大幅に拡張した点です。反射率10%の物体に対して100kHzパルスレート時に最大950mの測距範囲を実現することは、運用可能な飛行高度そのものを変える意味を持っています。
垂直精度3cm(120m高度)という性能は、1:500、1:1000といった建築・土木業界の標準スケールにも対応可能になったことを意味します。これまで空中測量は中程度の精度にとどまることが多かったのに対してL3はセンチメートル単位の高精度を実現、LiDARの測距再現性は5mmに達しており、地理空間データの取得精度が産業用途で実用的な水準に到達したことが重要です。
デュアル1億画素RGBカメラの搭載も、単なる「きれいな画像」取得ではありません。より低い高度では1cm GSDの達成も視野に入っており、LiDARで取得したポイントクラウドを視覚的に検証・補正できるようになります。つまり、数値データと視覚情報の統合が同一飛行で実現され、後処理の効率化につながるのです。
最大16回のマルチリターン対応という仕様も、技術的な深掘りが必要な要素です。これは、複数の物体の層を通過するレーザーパルスが各層の反射面を個別にキャッチできることを意味します。特に林業やインフラ検査での樹木や電線といった細い物体の検出精度が飛躍的に向上し、従来は検出困難であった小径の施設物も正確に把握できるようになります。
パルスレート設定の柔軟性も大きな特徴です。100kHzから最大2000kHz(2MHz)の範囲で調整可能であり、飛行高度に応じて最適な設定を選択できます。これにより、様々な現場条件下での効率的な運用が実現されるのです。
星形スキャンモード(Star-Shaped Scanning Mode)への対応は、精度と複数スキャン角度のバランスを両立し、密林や都市環境といった複雑な地形でのグラウンドポイント取得精度を大幅に向上させます。
一方、潜在的なリスクとしては、このレベルの高精度データ取得が可能になることで、プライバシーやセキュリティ面での懸念が増してくる点が挙げられます。3cm精度で大規模エリアをスキャン可能な技術は、個人宅の詳細な構造や動きまで捉える可能性があり、規制面での整備が急務となるでしょう。
D-RTK 3多機能ステーション、DJI Terra、DJI Modify、DJI FlightHub 2というエコシステムの統合も、単なる「便利さ」の問題ではなく、データの所有権・管理・流通モデルをDJIのプロプライエタリなシステム内に閉じ込める戦略的な動きと読み取れます。一日で100km²のエリアを処理する能力は、クラウドプロセッシングの必然性を示しており、今後の地理空間ビジネスモデルの主流形成に影響を与えるでしょう。
利用可能な業界は地形測量、インフラ検査、林業、緊急対応、遺産保護など多岐にわたりますが、特に日本国内では老朽インフラの点検、山林管理の効率化、災害対応での初期調査といった用途での需要が急速に高まることが予想されます。
【用語解説】
1535nm波長LiDAR
赤外線領域の波長1535ナノメートルを使用したレーザー測距システム。従来の905nmと比べて大気透過性に優れ、霧や雨などの悪天候下での測定能力が高い。同時に安全性基準も緩和されるため、より高出力での運用が可能になる。
GSD(地上画素寸法)
航空写真における地上の実際の距離を画像の1ピクセルで表したもの。1cm GSDという値は、画像の1ピクセルが実際の地面の1cm四方に対応していることを意味し、高精度の詳細情報を取得できることを示す。
POS(Position and Orientation System)
航空機の位置と姿勢をリアルタイムで計測するシステム。高精度なGPS信号と慣性計測装置を組み合わせることで、LiDARが取得したデータを正確な座標系に配置できる。
ポイントクラウド
3次元空間における多数の座標値で表現されたデータ。LiDARが取得した各レーザーリターンの座標をまとめたもので、これを処理することで地形モデルや構造物の3D再現が可能になる。
パルスレート
1秒間に発射されるレーザーパルスの数。100kHz、350kHz、1000kHz、2000kHzの複数段階で調整可能で、飛行高度に応じて最適な設定が選択できる。
星形スキャンモード(Star-Shaped Scanning Mode)
複数のスキャン角度を組み合わせて精度のバランスを取りながら、密林や都市環境での地形測定を効率化するスキャン方式。グラウンドポイント取得の完全性と精度を両立させる。
【参考リンク】
DJI Zenmuse L3 公式仕様ページ(外部)
DJI Zenmuse L3の詳細な技術仕様、LiDAR性能、カメラスペック、パルスレート設定、統合ソフトウェアについて公式記載。
DJI Zenmuse L3 製品ページ(外部)
DJI Zenmuse L3の全体像、機能概要、適用事例、導入のメリットをまとめた公式製品紹介ページ。
DJI Enterprise LiDAR ペイロード比較(外部)
Zenmuse L2、L3を含む複数のDJI LiDARペイロード製品を性能比較できる公式ページ。
DJI FlightHub 2(外部)
ドローンフリート管理、ミッション計画、クラウド統合ソリューションを提供するDJIの業務管理プラットフォーム。
【参考記事】
DJI Zenmuse L3 LiDAR Doubles Detection Range To 950m(外部)
DJI Zenmuse L3は前世代比で測距範囲を倍増し、最大950mの長距離測定を実現。垂直精度が大幅に向上し、1:500、1:1000の建築測量スケールに対応する。
Best features of DJI Zenmuse L3 drone LiDAR payload(外部)
パルスレート100kHzで最大200万点のレーザー発射、星形スキャンモードによる密林での透過性能、150m高度での5mm測距再現性を実現。
Introducing the DJI Zenmuse L3: A New Benchmark in Aerial LiDAR and Imaging(外部)
Zenmuse L3は業界における新たなベンチマーク製品として位置づけられ、レーザービーム発散角0.25mradにより微細構造物の正確な検出を実現。
【編集部後記】
Zenmuse L3は、空から見える世界の解像度を劇的に変える技術です。最大950mから3cm精度でデータを取得でき、パルスレート調整で様々な環境に対応できるという性能は、これまで手が届かなかった場所の詳細を、はじめて見えるようにしてくれます。あなたの街の老朽化した橋、人目につきにくい山林、災害直後の状況把握——これらすべてが、新しい目を通じて理解される時代が来るかもしれません。この技術によって何が変わるのか、一緒に考えてみませんか?

