信越化学×IMECの300mm QST™基板、GaNパワーデバイスで650V超ブレークスルー

信越化学×IMECの300mm QST™基板、GaNパワーデバイスで650V超ブレークスルー

信越化学工業が開発した300mm GaN専用の成長基板QST™基板がIMECの300mm GaNパワーデバイス開発プログラムに導入され、評価が進められている。この取り組みで、5µm厚のHEMTデバイスが300mm基板として世界最高の650V超の高耐圧を達成した。

信越化学は、QROMIS社のライセンスに基づき150mm、200mm基板に加え、300mm基板のサンプル提供を2024年9月から開始している。IMECとはベルギーのルーヴェン所在の最先端CMOSファブ向けに300mm基板供給のパートナーシップを確立している。初期評価ではAixtronのMOCVD装置使用により800Vを超える破壊電圧も観測されており、大口径でもGaN結晶の高品質成長性能が確認された。

300mm QST™基板は従来のシリコン基板では困難だった反りやクラックを抑え、高耐圧厚膜のGaNエピタキシャル成長を可能にし、量産とデバイスコスト削減を見据えている。今後は1200V超品の開発も進み、AIデータセンター、産業用途、自動車向けなど幅広い分野での実用化が期待されている。

From: 文献リンク信越化学の300mm QST™基板上に、 IMECが650V超のGaN破壊電圧の世界最高記録を達成 – 信越化学工業株式会社

【編集部解説】

信越化学とIMECによる300mm QST™基板を活用したGaNパワーデバイスの世界記録達成は、半導体業界にとって画期的な出来事といえます。この基板技術は、従来のシリコン基板では生産困難だった300mmという大口径での高品質GaN厚膜成長を安定化した点が特徴です。これにより、大面積化による量産性向上とコスト削減、さらには反りやクラック問題の解消など、パワー半導体の生産に新しい道筋を与えました。またIMECとの連携により、初期評価段階で800Vを超える高い破壊電圧が観測されたことは、SEMI規格準拠の大口径ウエハー上での高性能デバイス実現に向けた大きな一歩であり、AIデータセンターや自動車、再生エネルギー関連市場への用途展開を加速させる後押しになります。

現状、AIやIoTが社会インフラ化する一方で、データセンターの消費電力増大やEVの普及により、電力変換や制御の効率化が世界的課題です。GaNデバイスは高周波・高耐圧という特性から、高効率・小型化・省エネを両立できる理想的な材料とされています。2025年から2030年にかけてSiCと並行しGaNの本格普及が見込まれる中、日本メーカーが大型基板量産技術で競争力を発揮できるかが注目されています。

ただし課題もあります。規格の標準化や品質確保、量産コスト低減は今なお競争ポイントであり、国際的な協業や供給網の多様化も不可欠です。QROMISやAixtronなど装置メーカーとの連携のもと、SEMI規格対応を進めることで、世界のトップティアユーザー向け量産ライン構築も現実味を帯びています。次世代パワーデバイスの社会実装が進めば、電力ネットワーク全体の省電力化やサステナビリティ推進に大きく寄与し、エッジAIや自動運転、グリーンエネルギー分野で新たなユースケースが広がることでしょう。

この技術の進展を着実に社会実装へ結びつけるためには、継続した基礎研究と装置・プロセスの最適化、そして顧客目線での信頼性評価が欠かせません。信越化学のフルラインナップ化と多様な応用開拓のチャレンジが、国際競争力強化にもつながると期待されます。

【用語解説】

QST™基板
GaN結晶の成長に特化した複合材料基板。大口径での高品質厚膜成長が可能で、反りやクラックを抑える。

GaN(窒化ガリウム)
高耐圧・高周波特性に優れ、次世代パワー半導体として注目される化合物半導体。

HEMT
高電子移動度トランジスタ。高速・高出力の動作が可能な化合物半導体デバイス。

MOCVD
半導体の薄膜を成長させる技術。GaN成長に用いられる。

SEMI規格
半導体装置・材料に関する国際標準規格。

【参考リンク】

信越化学工業株式会社 公式サイト(外部)
日本を代表する化学メーカーで、電子材料分野においても国内外で幅広く展開している。

IMEC 公式サイト(外部)
ベルギーに本拠地を置く最先端半導体研究開発機関で、世界のパワー半導体技術開発をリードする。

Aixtron 公式サイト(外部)
半導体薄膜成長装置のグローバル大手。GaN製造に不可欠なMOCVD装置を提供。

【参考記事】

信越化学の300mm GaNウェハベースのHEMTデバイスが650V耐圧を達成、imecが確認(外部)
信越化学の300mm QST™基板上で、imecが650Vを超えるGaN HEMTデバイスの耐圧を実証した世界記録達成のニュース。

信越化学、データセンターを省電力にできる大型基板 GaN半導体用(外部)
信越化学開発の大型基板が、AIデータセンターの省電力化にどう貢献し、GaN半導体の量産に繋がるかの可能性についての解説。

GaNパワー半導体で未来を切り拓く(外部)
AIデータセンターやEV等で電力損失を低減するGaN半導体の特長や、その具体的な活用分野に関する大手半導体メーカーによる解説。

【編集部後記】

今回の信越化学とIMECの連携による300mm QST™基板でのGaNパワーデバイス高耐圧実証は、次世代半導体の量産化に向けた大きな前進です。AIや自動車、産業用途において省エネ・高効率を実現するこの技術の社会実装は、持続可能なエネルギー利用の一助となるでしょう。

みなさんは、このGaN技術の進展によってどのような未来の応用に期待しますか?デバイスのさらなる高性能化や普及が、どのように日常生活を変えていくのか、ぜひ想像を巡らせながら読んでいただければ幸いです。

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